リーダーのパフォーマンス・マネジメントについて紐解いた『パフォーマンス・マネジメントを「見える化」しよう」』シリーズを【全5回】でお送りします。
- 第1回:リーダーのパフォーマンス・マネジメントについて
- 第2回:パフォーマンス・マネジメントにおける理想のプロセス像
- 第3回:パフォーマンス・マネジメントの落とし穴
- 第4回:パフォーマンス・マネジメントとメンバーの習熟度
- 最終回:リーダーとメンバーのコミュニケーションのあり方
また本掲載をebookにまとめています。是非こちらからもご覧ください。
パフォーマンス・マネジメントを「見える化」しよう
リーダーの「パフォーマンス・マネジメント」を巡る旅の第2回として、今回はその「理想のプロセス像」を考えていきたいと思います。これは、いわゆる全体像としてしばしば参照するモデルとなるでしょう。
ただし、本シリーズの第1回でも触れましたが、私たちは、たとえ営利を目的とする組織のみなさんを支援する場合であっても、「パフォーマンス」という言葉を使うからと言って、いわゆる「売上第一主義」のようなものをイメージしているわけではないことをご理解ください。私たちが目指すのは、あくまでも「個人が充実感を感じられるようなパフォーマンス」です。
とはいえ、企業が利益を上げなければ存続できず、SDGsで謳われる社会貢献もできなくなることを考えると、個人ごとに「目標に基づく管理プロセス」を、リーダーとメンバーが協力してうまく回していく必要があることは確かです。
パフォーマンス・マネジメントの基点としての「目標設定」
これ以降、次の図の「理論モデル」をベースに、パフォーマンス・マネジメントについて考えていきますので、適宜ご参照いただければ、と思います。
企業に参集しているチーム・メンバーたちは、そこにいる以上、組織のビジョンや方向性に賛同し、その存続や成長に貢献しようとしているはずです。したがって、組織がそのメンバーに求める役割をこなすのは、ある意味で自然なことだと言えますね。
とはいえ、この「個人に求められる役割」の認識は、人によって(例えば個人の専門性の高さ、経験値や情報量によって)異なるのは当然です。そうしたズレをうまく調整し、チーム全体が整合した行動をとれるように工夫するのがリーダーの役目だと言えます。
このように、求められる「役割」を各々のメンバーに割り振るための仕組みが、仕事上の「目標」です。そして、この「目標設定」の方法論の大切さは、もっと認識されて良いと思われます。
以前「リーダーになったら知りたいリーダーシップの本質的5要素①~⑥」(以降「5要素」と略称します)でもお伝えしましたが、いくら上からチームに「カスケード・ダウン」されてきた目標であっても、リーダーが「上から」機械的に押し付ける目標では、メンバーの本当の意欲は湧かず、結果もよくないことが多いのです。
目標を設定するに際しても、リーダーは話し合いでメンバーの納得性を高めながら
「この目標は、自分も一緒になって決めたのだ」
という意識を持てるようにすることが大切です。
もちろん、結果として目標を再調整しなければならないこともありますが、それもリーダーの仕事のうちだと言えます。
この「目標を自分のものにする/させる」ことは、これも以前「5要素」で触れたように、心理学的に言うところの「自己決定感(self-determination)」につながり、「内発的動機付け」(Intrinsic motivation)を促しますから、なおさら重要です。
事実、内発的動機付けと外発的動機付け(Extrinsic motivation)を比較すると、大半の研究で前者の方が、目標達成率が高い傾向があるという事実が確かめられています。
それだけではありません。内発的動機付けに基づき行動した人間は、たとえ一度目標達成に失敗しても、外発的動機付けに基づいて行動した人たちより、ずっと挫折しにくいことがわかっています。つまり、簡単には目標達成を諦めない上に、困難な課題にもチャレンジする傾向が、外発的動機付けによって行動している人たちよりも高いのです。
同様の結果は心理学だけでなく脳科学や神経科学の分野でも確かめられていますから、内発的動機付けの重要性は間違いないところでしょう。
「パフォーマンス・マネジメント・サイクル」の隠れたエンジン:「観察」と「評価」
さて、目標が決まるということは、期限も決まるということです。「5要素」でも示したように、期限を決めない目標は、心理的にも達成しにくくなるのです。
とはいえ、どんなにリーダーとメンバーが合意して、つまり「握って」決めた目標でも、さまざまな要因により実行が進まなかったり、間違った方向の努力をしたりして、期限間際になって焦る人も出てくるでしょう。
そんなとき「やると言ったじゃないか!」と当人を叱ったところで、どうにもなりません。たとえ自己決定した(感のある)目標であっても、期限間際になって達成にはほど遠いとわかった場合、無意識に「目標達成しなくてもいい理由」を創造してしまうのが人間の脳なのです。これも「5要素」で触れましたね。
それを避けるには、日頃のリーダーの「観察」が不可欠です。
リーダーによるメンバーの「観察」は、適切に行なえば「リーダーが、自分の目標に向かっての努力や成長を常に見ていてくれる」という認識に結びつき、メンバーの意欲を変え、多くの場合、高めるものです。すなわち、単にモニターするだけでなく、「いつも観察しているよ」というメッセージ(「うまくいっている?」程度の短い言葉でも、あるいは様子を見に来る動作だけでも良いでしょう)を伝えることにより、メンバーの目標達成への姿勢、つまり現象を変えることができるわけです。
もちろんリーダーの側では、メッセージを発するだけではなく、本当にメンバーの努力のはかどり具合を確認し、仮に遅れていたり問題があったりしたら、理由を素早く把握しなければなりません。場合によっては手助けも必要ですし、阻害要因がリーダーしか解決できないものであると見極めたら、適切に対処しなければなりません。そうした中でもリーダーの対応が決め手になるのは、メンバーの能力が不足していたり努力の方向を誤ったりしている場合です。これは重要な点なので、最後のセクションで稿を改めて触れます。
さて、最初に「目標には期限がつく」という原則について述べました。特に、この目標が仕事上の業績や成果(例えば売上)も含むような場合、各メンバーの達成度合いを、リーダーが面接しつつ「評価」しなければならないことも多いでしょう。
この段階でリーダーにとって何よりも重要なのは、「評価によってメンバーの成長を止めてはならない」ということです。
評価はしばしば人事や報酬と結びつくので軽視できませんが、あくまでも通過点にすぎません。むしろこれからの、激変が続くと予想される社会では「組織や人を変化させ成長させ続けるための仕組み」に進化させるべきだと思われます。
評価というイベントそれ自体が目標になってメンバーを萎縮させたり意気沮喪させたりしては、まさに本末転倒です。そのため評価においても、次のステップとしての「育成」を念頭に、内発的動機付けを高めるようなフィードバックをするべきです。
評価の点で興味深い試みが、主に外資系の大手企業で広がりつつある「ノー・レイティング(No rating)」という考え方と手法です。これは(誤解されがちですが)リーダーがメンバーのパフォーマンスを「評価」しないのではなく、学校の比喩を使うなら「達成具合の評価はするが『1〜5のような成績』をつけない」手法です。その代わり、評価して目指すパフォーマンスに達していないメンバーには、リアルタイムでリーダーがどんどん指導をしますので、「観察、評価、育成」のサイクルが非常に短いものになります。かえって厳しい手法だと言えるかもしれませんね。
本稿は、人事制度や評価制度について考察するのが目的ではないので、ノー・レイティングについて踏み込むことはしませんが、このように常にさまざまな手法が試されて改善や改良の努力がなされていることからもわかるように、「目標設定」「観察」「評価」「育成」のサイクルはパフォーマンス・マネジメントの要であり、組織を変化・成長させる「エンジン」あるいは「車輪」にもなるものです。
これからも形を変え進化しつつ、リーダーの大事な仕事の一つであり続けるでしょう。
「パフォーマンス・マネジメント・サイクル」のレベルアップへ:「育成」と「コーチ」
さて、さきほど懸案事項にしていた事柄について、考えていきましょう。メンバーの「育成」や「成長」にかかわる事柄です。
リーダーは、メンバーの能力が不足していた場合その学びを促進するべきなのは当然として、仮に現在の目標から見れば能力不足ではない場合でも、将来の変化も見据え、一層の能力伸長を後押しするべきでしょう。
最初の図をもう一度ご覧ください。先にも述べたように、組織の目標には評価がつきものですが、その評価でプロセスが終わっては、特に満足に目標を達成できなかったメンバーは向かうべき道がわからず、途方に暮れるかもしれません。それを避けるには、以下の方法が有効です。
- 評価の際に「これからもっと能力を高めよう」というメンバーの「内発的動機付け」を促進する
- 評価と育成方針をセットにしてメンバーとともに考えていく
場合によっては組織が提供する教育手段の活用も検討したほうが良いかもしれません。特に、メンバーの「基礎力」が不足しているな、と感じた場合はそのほうが良いでしょう。ビジネスについても学習手段やツールが豊富にある時代ですから、「育成」の手段を狭くとらえる必要はありません。
とはいえ、これも上で述べたように、時間をめいっぱい取ってしっかりした教育を与える必要はないものの「このメンバー、少しだけ能力が不足しているかな?」「努力の方向性を間違えているかな?」「この点に気づいていないな」など、リーダーが、ふだんのチーム活動の中で感じる程度の小さな能力ギャップもあるでしょう。そんな時にはリーダーの一言や、ちょっとした手助けが効果を発揮する場合があります。
こうした日常的に感じるギャップや、「目標」から「評価」までの期間のサイクルをサポートするのが、観察に基づく「コーチ」という日常のマネジメントサイクルなのです。
手法については、これも本シリーズ「5要素」の、特に「支援」(5要素第5回でご紹介)「奨励(強化)」(5要素第6回でご紹介)などが参考になるでしょう。
また、目標設定に始まるリーダーのサポートは、どうしても「目標」のスコープに含まれるパフォーマンスのマネジメントとスキル・知識の強化が主眼となりがちですが、それ以外にも仕事上必要な能力にはさまざまなものがあります。リーダーは、メンバーのそうした能力の育成にも配慮しなければなりません。
以上のように、パフォーマンス・マネジメントは、2つのサイクルの合成としてモデル化し理解できるものです。ただしサイクルと言っても、毎回同じ「平面」で回していれば良いわけではなく、環境やメンバーの成長度に応じてレベルアップをさせるべきものです。そのため、次回以降では、上記のサイクルの要素のいくつかについて、より細かく見ていく予定です。
◆ウィルソン・ラーニングでは、本シリーズの内容が身に着けられるプログラムを用意しております。詳しくは下記のページをご覧ください。
・MHP-パフォーマンスマネジメント
・LFP-パフォーマンスリーダー基本モジュール