リーダーになった、あるいは、これからなる予定の人に向けて『リーダーになったら知りたい「リーダーシップの本質的要素」』シリーズを【全6回】でお送りします。
- 第1回:リーダーシップを巡る旅に出発
- 第2回:「企業目的」からリーダーシップを考える
- 第3回:脳科学の観点から「目標」を考える
- 第4回:「フィードバック」の重要性
- 第5回:「支援」の有効性と心理学的意義
- 最終回:チームの成長を決める「奨励」
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リーダーになったら知りたい「リーダーシップの本質的要素
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リーダーシップの大切な要素として、これまで「企業目的(組織やチームの存在理由)」と「目標」について検討しました。今回焦点を当てるのは「フィードバック」です。
みなさんも、「サイバネティクス(人工頭脳学)」という学問分野の名前を耳にしたことがあるでしょう。今回説明する「フィードバック」はサイバネティクスにおいても重要な概念のひとつで、「システムが望ましいパスに沿って進むように制御するため、システムのアウトプット(および、それに対する環境の反応)の情報をシステムに戻して、後者の挙動を調整する」という考え方です。
フィードバックというコンセプトは、現在では工学だけではなく、生物学や社会学、組織論、文化人類学などでもキーコンセプトとして利用されています。生命体や社会も、広い意味でシステムと考えられるからです。
サイバネティクスは人工頭脳(現在は人工「知能」と呼ばれます)という学問分野から生まれたものですが、このことでもわかるように、人間のリアルな頭脳にとってもフィードバックは極めて重要です。事実、フィードバックの完全に存在しない世界では、脳は見当識※を失い「発狂」してしまうだろうと言われています。
- 見当識(けんとうしき):「ここはどこなのか」「いつなのか」「なぜここにいるのか」「目の前にいる人は誰なのか」など、自分の置かれている状況や、周囲との関係を結びつけて考えることのできる機能のこと
リーダーシップでは、フィードバックと目標設定は一体になっている
リーダーによるメンバーへのフィードバックの意義は、比喩的に言えば、道を歩んでいる人に「その人がどこまで進んだか」を理解させることだと言えるでしょう。
とはいえ、こうした比喩はわかりやすい反面、「リーダーは歩むべき道をすべて知り抜いているはずだ」という思い込み(もちろん、いつもリーダーが道をすべて知っているとは限りません)につながりやすいので、注意が必要です。
リーダーは万能ではありませんし、最近のビジネス場面では、設定した目標が、今まで誰も経験したことがなかった仕事のそれであることも、まれではないでしょう。リーダーも手探りの状態に置かれているかもしれないのです。そんな場合でも、リーダーはフィードバックを絶やすことはできません。メンバーが仕事の方向感覚を失わないようにしなければならないからです。
ポイントとなるのは、目標との関連です。メンバーの行動や言葉が、明らかに設定した目標から逸れていたら、注意しなければなりませんし、逆に目標の達成に向けて努力していることがわかったら、はっきりと褒めるべきです。特に前者の場合には、「現在の行動では問題があるが、それなら今後どうすればよいか?」をそのメンバーと話し合う必要もあるでしょう。
こうしたフィードバックをできるようにするために、前回の「目標」 の説明で示したように、目標設定の際の「いつまでに何をどうやって」の達成基準が手がかり足がかりとなります。逆に言うと、設定した目標の一部に、そうした明確な「決めごと」を含んでいないと、フィードバックが難しくなるわけです。
リーダーシップにおける、もう1つのフィードバックの意義
脳科学から見て、フィードバックには、進むべき方向を維持するだけでなく、もう1つの重要な意味があります。
言うまでもなく、脳は学習するシステムです。周りからフィードバックされて得られた情報も学習の例外となることはなく、蓄積された情報は、やがてはひとつの「脳内モデル」へと統合されることになります。ちなみに最近、こうしたモデルの構築・蓄積においては、運動をつかさどる小脳も重要な役割を果たすことがわかってきています。この「こういう場合は、こうすればいい」という脳内の「モデル」が非常に重要なのです。
人間も含めた生物は、外界からの情報に合わせて調節するという「受け身」の処理(これがフィードバックに基づいた行動です)では間に合わず、何らかの「予測」をもとに「前倒し的に」動くべき状況に置かれることが少なくありません。そんな時、特に私たち人間の場合、学習の結果身につける「脳内モデル」が欠かせなくなるのです。なにしろ、人間を取り巻く環境は高度で複雑ですから、外界についての有効な「モデル」を持っていないと予測ができず、行動も「当てずっぽう」のものになってしまいます。
このような「予測に基づく行動」を、システム論では「フィードフォワードによる制御」と言い、たとえばロボット工学でも、複数のロボット同士が衝突しないようにするアルゴリズムを組み立てる際、基礎になる考え方です。
人間の社会活動においても、フィードフォワードによる行動が重要であることは明らかです。変化の多いこの時代、臨機応変に一歩を踏み出すためにも、「脳内モデル」による「予測力」が生きてくるからです。
この、フィードフォワードの基礎となる「脳内モデル」を形成する、重要な要素のひとつがフィードバックです。「リーダーが細かな指示を出さなくてもメンバーが動ける」ようにするために、的確で一貫したフィードバックを提供し続けることがリーダーの大切な役割だといってもよいでしょう。
言い換えると、フィードバックをおろそかにしたり、一貫性を欠くフィードバックを出したりしていると、メンバーはいつまで経っても有効な「脳内モデル」を作ることができず、フィードフォワードで行動できなくなる可能性があるわけです。へたをすると「指示待ち族」になってしまうかもしれません。
リーダーは、このような面からもフィードバックの重要性を心に刻んでおくべきでしょう。
まとめ:よいリーダーシップは、こまめで丁寧なフィードバックから
新任のリーダーの場合、慣れないうちは、うまい表現でフィードバックできないかもしれませんが、それでも構わないのです。「それ、なかなかいいね」や、「もうちょっと考えたほうがいいかな」くらいのフィードバックだけでも大いに効果があると言われます。まずは、こまめに反応を返してみることから始めてはいかがでしょう。もちろん相手の状況や感情への配慮は忘れずに。
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LM リーダーシップマネジメント Leadership Management