リーダーになった、あるいは、これからなる予定の人に向けて『リーダーになったら知りたい「リーダーシップの本質的要素」』シリーズを【全6回】でお送りします。
- 第1回:リーダーシップを巡る旅に出発
- 第2回:「企業目的」からリーダーシップを考える
- 第3回:脳科学の観点から「目標」を考える
- 第4回:「フィードバック」の重要性
- 第5回:「支援」の有効性と心理学的意義
- 最終回:チームの成長を決める「奨励」
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リーダーになったら知りたい「リーダーシップの本質的要素
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前回の復習:リーダーは「個」を無視できない時代に
前回、リーダーシップにも、脳科学の要素を取り入れる時代が近づいていることに触れました。事実、すでに(脳科学から見た)「モチベーションの向上」「怒りのコントロール」など、ビジネスの現場にも一部の要素が取り入れられるようになっていますし、やがては無視できない知識となるでしょう。
さらに社会や文化の動向を考え合わせれば、個人が各々の脳内に抱えている心理、特に感情面への配慮が、ますます大切なものになることは間違いありません。
この連載では、このような動向を視野に入れ、前回お知らせしたように、企業におけるリーダーシップの本質的な5要素として「企業目的」「目標」「フィードバック」「支援」「奨励」の5つを取り上げることにします。本稿では1つ目の要素「企業目的」から見ていくことにしましょう。
リーダーシップの前提となる脳科学
前回に続き、ここでも脳科学からの視点でリーダーシップについて考えていきましょう。
好きな科目ならどんどん頭に入るのに、そうではない科目となるとどうも・・・という経験をされたことのある方は多いと思います。
脳は、入ってくる情報を片端から処理するわけではありません。情報処理のプロセスには何段階かの「フィルター」があるのです。
注意を向ける対象すら、無意識のうちに取捨選択しています。その上で選別した情報を処理しますが、処理したとしても、さらに長期記憶に取り込むかどうかは、「海馬」という脳の部位が独立に判断しているようです。言い換えると、入ってくる情報のうち記憶として定着するのはほんの一部だけである、ということです。
情報を処理する段階であっても、その人が強い関心を持つものほど、フィルターを通りやすく記憶に残りやすいと言われます。たとえば、生存に関わる情報には、脳は注意を向けやすく、同時に記憶にも定着しやすくなります。だから、大事な試験の前には頭に簡単に入る知識が、やる気がいまひとつのふだんの状態ではなかなか覚えられない、ということが起こるのです。
リーダーはメンバーの目的意識に働きかける
目的意識もまた、人間の関心の持ちように強い影響を与えます。
とはいえ同じ組織に身を置く人同士でもその価値観は多様ですから、仕事をする目的が異なるのは当たり前です。ある人は収入が主な目的かもしれませんし、同僚とともにいることに喜びを見出している人もいるかもしれません。
リーダーは、チームの課題にみんなで挑戦するために、この点に配慮しましょう。さもなければ、前述の脳内の仕組みのせいで、たとえリーダーが声を嗄らして叫び続けても、関心が薄いメンバーの理解や記憶は浅いままで終わります。みんな一生懸命に指示を聞いていても「心に残らない」のです。悪くすると、まったく耳に届かなかったり、すぐに忘れてしまったりするでしょう。悪気の有無にかかわらず、脳のメカニズムは変えられないのです。
組織の目的(組織のミッション)とリーダーシップの関係
では、どうすれば良いのでしょうか?
ここでは、チームが仕事をする目的そのものから考えていきましょう。
まず、組織が存続するのは、社会から期待される役割を果たしているからだと考えることができます。その業績は、期待を満たした程度に見合ったものだと言えるでしょう。
チームは組織に貢献しているのですから、メンバーが共同して課題を解決することによって、組織を通して、社会に何らかの良い影響を与えていると考えられます。これを、少々大げさな表現になりますが、「チームの存在理由」と呼んでもいいでしょう。その組織に身を置く以上、このことにはメンバーの誰もが(程度の差こそあれ)賛同するはずです。
リーダー自身がこの点に気づくことが、先の脳科学的な知見から言っても、リーダーシップの第一歩になると考えられるのです。
「存在理由」を起点としてリーダーシップを考える
どんな組織でも、おそらく大半のメンバーは、自分が属する組織が、社会から高く評価されることを望んでいます。実際、就職の際に「人気企業」がとりざたされるのは「社会から高く評価される組織に行きたい」という心理が働いているから、と言えるでしょう。
こうしたメンバーの心理に働きかけ、各々の仕事がチームに、チームの仕事が組織に、そして組織の仕事が社会に貢献して評価を高められることを的確にリーダーが説明できれば、メンバーの仕事の目的意識を高め、リーダーの言葉への関心の度合いを高めることができます。その結果、リーダーの言葉がメンバーの心に「刺さる」ようになることは、すでに説明した通りです。
そのためにはリーダー自身が、組織目的やチームの存在理由をよく理解している必要があります。できるだけ自分の言葉で説明できるようにするのが望ましいでしょう。先に述べたように、メンバーは性格も嗜好も違い仕事の目的もバラバラですから、一人ひとりに適した説明の仕方を用いるのが効果的だからです。もちろんリーダーのふだんの行動がその言葉と矛盾していては意味がありませんから、その点にも注意が必要です。
最後に:リーダーシップは「仕込み」が肝心
リーダーシップに向けて上のような「一歩」を踏み固めるのは、かなり時間と手間がかかる作業でもあります。
とはいえ、脳科学の観点から見ても、この作業を省略して先を急ぎ過ぎると、仕事を後から振り返って見た時、チームが動くのに時間がかかったり、得られる成果が期待されたものにならなかったりすることが、かえって多くなります。
料理を作る場合にも「仕込み」の良し悪しで結果が決まるように、リーダーシップも「仕込み」にきちんと手間をかけることが大事だと言えそうです。
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LM リーダーシップマネジメント Leadership Management