【リーダーになったら知りたい「リーダーシップの本質的要素」シリーズ】第3回 脳科学の観点から「目標」を考える

2020年2月19日

リーダーになった、あるいは、これからなる予定の人に向けて『リーダーになったら知りたい「リーダーシップの本質的要素」』シリーズを【全6回】でお送りします。

本掲載をebookにまとめています。是非こちらからもご覧ください。
リーダーになったら知りたい「リーダーシップの本質的要素
また、効果的なリーダーシップを確立するため、リーダー育成ガイドの資料も公開しております。
組織内のあらゆる階層のリーダー育成ガイド

本シリーズでは、これまで2回にわたり「現代にふさわしいリーダーシップとは?」というテーマで考えてきました。特にビジネス分野でも見逃せなくなってきた脳科学の観点からもリーダーシップについて考察し、1回目は概論、前回は組織の「目的」(「企業目的」と呼びました)の重要性に触れました。

今回は、同じような観点から「目標」について考えましょう。

メンバーが「目標」の意味を理解することが大切

チームには決まった役割がありますから、メンバーの個人的目標から遠く離れた課題を解決しなければならない場合もあります。

この時、リーダーが機械的に決めた「目標」を一方的に押し付けるのでは、メンバーの反発を招いたり、彼らの活動の質が低下したりしかねないことは、言うまでもないでしょう。このことは脳科学からも説明ができます。
脳には、関心が薄い情報の処理をできるかぎり避けようとする顕著な特性があるのです。つまり目標への積極的な関与がない場合、脳の情報処理は「浅く」なってしまい、記憶からも抜け落ちかねないのです。当然、行動の質は低下するでしょう。このメカニズムは前回も触れました。

さらに困ったことが起こるかもしれません。仮にメンバーに目標を一方的に押し付けることができたとしても、脳は、いざとなったら「やらない理由、やらなくてもよい理由」や「逃げ道」を作り出すことにかけては、まさに天才的なのです。特に目標達成の期限が近づき、プレッシャーがかかればかかるほど、脳は「できない理由」をいくつでも作り出すという皮肉な「創造性」を発揮してしまう傾向があるのです。

では、どうすれば良いのでしょうか?

土台になるのは、前回述べた「組織やチーム存在理由(なんのために組織やチームは存在するのか?)の共通理解」です。

その上でリーダーは、「この目標を達成することにより、メンバーやチーム、組織は何が得られ、どのように社会に貢献できるのか?」をわかるようにして、メンバーのチーム目標への関心の度合いを高め、課題解決に、よりコミットしやすくさせる必要があります。

同時にリーダーは、オープンにメンバーと話し合う雰囲気づくりをしながら、メンバーの個人的目標も常に把握しておくべきでしょう。メンバー個人の目標とチーム目標が大きく離れそうな場合は、リーダーとメンバーがよく話し合いながら、共同で両者の結びつきを考えていくのが望ましいからです。

どんな組織においても、メンバーの自律性に基づくエンゲージメントが重視される現在、個人目標が直接は組織の仕事に関係ないからといって、リーダーは無視できないのです。

目標には、目に見える「基準」を必ず添えよう

さて、設定の段階ではこのように、リーダーとメンバーが共通の理解のもとに「目標」を立てられたとしても、現実は変化しやすく、次から次へとさまざまな阻害要因が現れます。どんな「目標」であれ、なにもかもうまく行くことなどめったになく、解決が遅れがちになる課題、積み残しの課題が出てくることは避けられません。

このような場合、先にも述べたことですが、脳は、逃げ道や自分への言い訳を探すのがとてもうまいのです。特に目標の期限や達成範囲が不明瞭な場合、「だいたいの期限しか設定されていないということは、後回しにしても大丈夫だ」とか「万が一達成できなくても、たいした問題にはならないだろう」などと(無意識に)考えてしまいがちで、とりわけ目標達成に責任が伴わないと、この傾向は顕著になります。みなさんも、勉強やダイエットなどの目標を立てた時にこのような心理に陥って、なかなか実行できなかった経験がありませんか?

したがって、ひとたびリーダーとメンバーがしっかり合意して設定した目標ならば、期限や達成基準などを、できるかぎり明確にしたほうがよいのです。数値にできるものなら数値にしたほうがよいでしょう。

注意しなければならないのは、こうした具体的指標の設定場面でも、リーダーの一方的な押し付けではなく「この目標を、この期限までに終えるには、この日時までにこれをやる必要があるよね」などと、メンバーと情報共有・合意を図りつつ指標設定をする必要があるということです。

心理学的にも、目標設定に「自分が積極的に関与した」という意識が伴うと「自己決定感(feeling of self-determination)」が得られ、「自分が決めたことだから」と達成意欲が高まることが期待されるからです。すなわち、目標達成へのいわゆる「内発的動機付け(intrinsic motivation)」が生まれやすくなると考えられるのです。リーダーはこの点に十分に留意しましょう。

まとめ:目標の「価値」の共通理解からリーダーシップが始まる

今回は、チームリーダーになった時にまず手をつけなければならない「目標」の設定について、その概要を述べてきました。

特に指標や期限の設定において、達成基準や期限の明確な設定が重要であると同時に、リーダーがこれらを一方的にメンバーに押し付けるのは得策ではないということに触れました。メンバーと話し合い、合意を図りつつ設定していったほうが、メンバーの内発的動機付けが高まるからです。

目標設定は、すでに受験や就職の際に誰もが何回か経験していることですが、チームの目標設定となると、個人的なそれとは違う難しさが伴います。他人を動かさなければならないからです。しかも現代という時代は、やみくもに鞭をふるって叱咤激励しても、人が目標に向かって走り出す時代ではありません。いかに目標の価値をメンバーに伝え、彼らにその目標を自分の目標としてもらうか・・・これがリーダーシップの基本と言えるでしょう。

ウィルソン・ラーニングでは、本シリーズでも紹介している「リーダーシップの本質的な5要素」への理解を深め、そして日々の活動を通じてそれらを発揮するために必要なスキルの習得を目的としたプログラムを用意しています。詳細はこちらをご覧ください。
LM リーダーシップマネジメント Leadership Management

第2回はこちら