注目されるシェアド・リーダーシップ―メンバー全員がリーダーになれる環境とは?

2021年11月30日

リーダーシップとは、特定の人物のみが発揮できる「特別な能力」だと考える人は多いでしょう。実際に、ビジネスの場でもそのような考え方は存在します。

しかし最近では、メンバー全員がリーダーシップを発揮する「シェアド・リーダーシップ」が注目されています。シェアド・リーダーシップが注目される背景には、ビジネス環境の急激な変化があります。今回は、競争力強化の起爆剤になるかもしれない、シェアド・リーダーシップについてお伝えします。

シェアド・リーダーシップとは

古典的なリーダーシップといえば、トップダウン型やカリスマ型といった「けん引型」でした。特別な能力を持つリーダーが「正解」に向かってチームを引っ張っていくイメージです。

しかし、多様性が進み、正解がひとつだけとはいえなくなった現代においては、リーダーひとりの意思決定では対処が難しくなっています。そのため、新たなリーダーシップが登場し、チームをサポートする「支援型」や、責任を共有する「共有型」などが注目されてきているのです。

「シェアド・リーダーシップ」は近年注目されているリーダーシップのひとつで、言葉どおり「メンバー全員がリーダーシップをシェアする」、共有型リーダーシップです。メンバー全員が主体性を持ち、その場その場で最適と思われるメンバーがリーダーシップを発揮し、リーダー以外のメンバーは「フォロワーシップ」を発揮します。双方向型のリーダーシップと言ってもいいでしょう。

シェアド・リーダーシップは、状況に応じてリーダーとフォロワーが流動的になる柔軟な体制のため、変化の激しい時代には最適でしょう。

ただし、シェアド・リーダーシップは、決して役職としてのリーダーを否定するものではありません。

リーダーシップを「チームが目標に向かうための良い影響力」と定義すると、分かりやすいのではないでしょうか。チーム内では、特定の人物だけが影響を与えているわけではなく、メンバーが互いに影響し合っているものです。その意味では、現実に即した合理的なリーダーシップのかたちと言うこともできます。

リーダーシップの定義については、「リーダーシップとは? リーダーシップの種類や必要な資質を解説」をご覧ください。
リーダーシップは、マネジメントと一部の要素が似ています。リーダーシップとマネジメントの違いについては、「リーダーシップとマネジメントの違い―組織にとってより重要なのは?」をご覧ください。

シェアド・リーダーシップが注目される背景と効果

シェアド・リーダーシップが注目される背景には、ビジネス環境の激しい変化があります。VUCA(ブーカ)時代の到来、テレワークの急速な普及、RPAやAIといったIT革新による業務のデジタル化、デジタル化を更に推し進めるDX戦略などです。

ゴールがひとつであり、そこだけを目指していけばいいようなビジネス市場であれば、従来のトップダウン型リーダーシップでも有効でしょう。しかし、変化の激しい現代は、ビジネスのゴールはひとつとは限りません。いまの時代に対応するためには、リーダーひとりの能力に頼るのではなく、メンバー一人ひとりの潜在能力が最大限に発揮されることが求められるのです。メンバー全員がリーダーシップを発揮する機会のあるシェアド・リーダーシップは時代に即しており、多くの企業から注目されています。

シェアド・リーダーシップを発揮できる環境と効果

シェアド・リーダーシップはどのような環境で発揮されるのでしょうか。

シェアド・リーダーシップを発揮できる環境

自身の得意分野・専門分野に関してはリーダーシップを発揮する一方で、そうでない分野ではリーダーシップを意識的に譲り、フォロワー側に回るのがシェアド・リーダーシップの考え方です。

シェアド・リーダーシップを効果的に発揮するためには、次のような環境が求められます。

  • 活発なコミュニケーションがある
    コミュニケーションの活発な組織でなければ、役職としてのリーダー以外のメンバーがリーダーシップを発揮するのは困難です。普段から十分なコミュニケーションをとり、互いがどのような人間なのかを理解し合い、信頼関係で結ばれた環境である必要があります。コミュニケーションが不足している環境では、本来のリーダー以外のメンバーが安心して自発的に行動することが難しくなります。
  • 互いに強み・弱みを把握している
    シェアド・リーダーシップでは、メンバーの強みを生かしたリーダーシップが期待されます。そのためには、まずはメンバー自身が自分の強みと弱みを自覚している必要があります。同時に、他のメンバーの強みと弱みも把握し、常に最適な人材がリーダーシップを発揮できるように全員で調整していきます。
  • 目標と情報が共有されている
    自分の業務だけを見ていては、シェアド・リーダーシップは発揮できません。リーダーとして組織に良い影響を与えるには、全体を見通す必要があります。そのためには、メンバー間で目標や情報を共有することが前提となります。役職としてのリーダーには、メンバーの目標理解を助けたり、情報の偏りを防止したりする役割が求められます。

シェアド・リーダーシップの効果

シェアド・リーダーシップを実行することで、メンバー一人ひとりの主体性が増し、チームの生産性・効率性の向上が期待できます。社歴の浅いメンバーでも、能力があればリーダーシップを発揮できるため、モチベーションの向上も期待できます。

また、組織全体への効果に目を向けると、シェアド・リーダーシップが発揮される環境では、風通しの良い組織文化が構築されると考えられます。さらに、リーダー職に就く前からリーダーシップ体験ができるため、人材育成にも良い効果が期待できます。

組織文化についての詳細は、組織文化とは何か? 組織風土との違いやその重要性などについて解説をご覧ください。

グロース・リーダーシップとは

シェアド・リーダーシップと関連性のある考え方に、「グロース・リーダーシップ」があります。

グロース・リーダーシップは、端的に言うなら「成長を目指す」リーダーシップです。ここでいう「成長」とはチーム全体であり、メンバー全員を対象としています。つまり、メンバー一人ひとりが自律的に成長するチームを目指すことです。

グロース・リーダーシップが発揮されると、メンバーがそれぞれの責任をしっかりと認識して効果的に協働し、チームとしての成果を生み出します。つまり、リーダーがグロース・リーダーシップを発揮することで、それぞれが責任を共有する環境ができるということです。ただ、そのようなチームは発達段階を経て形成されるため、その過程を適切に理解し、その過程に関わることに充実感を感じるようなリーダーが求められます。

グロース・リーダーシップを発揮することは簡単ではありませんが、そのようなリーダーを育成できれば、組織に大きな効果をもたらすことが期待できます。

ウィルソン・ラーニングでは、グロース・リーダーシップを発揮するリーダーになるための研修を提案しています。詳しくは下記からご確認ください。
LFG 成長のリーダーシップ Leading For Growth

全員がリーダーシップを発揮するシェアド・リーダーシップで組織の競争力を高めよう

正解がひとつではない時代において、シェアド・リーダーシップは効果的に機能する考え方と思われます。

チーム全員が主体性を持ち、互いに良い影響を与え合うという考え方は、「従来からあった」と感じる人もいるかもしれません。しかし、それを認識していても、実行できるかどうかはまた別の問題です。各人の担当する仕事が専門化するなか、シェアド・リーダーシップの概念は、効率性やメンバーの仕事に対する参画意識の向上も期待できます。企業はシェアド・リーダーシップという考え方を社員に周知し、シェアド・リーダーシップが発揮されやすい環境を整えていくことで、競争力を高めていきましょう。