【ATD2018】基調講演2日目~“Reskilling”するために重要なキーワードと考え方~

2018年5月23日

ATD国際会議の2日目の基調講演を担当するのは、ATD Board of Directors Tara Deakin(タラ・ディーケン)氏とADP研究所のMarcus Buckingham(マーカス・バッキンガム)氏。

2人の講演は、働き方の変化の傾向、その変化に対応するためのコアスキル、さらにタレントマネジメントのプロフェッショナルがいかにこの変化をとらえて組織の手助けをすべきかを掴むことのできるものでした。

未来の働き方と2030年に向けての“Reskilling”のポイント

技術やAIなどの時代のシフトから今後我々に求められるスキルについての講演です。

これまでも、我々は時代の変化とともに働き方を変え、変化が生じるたびに“Reskilling”、つまり職業や職務に今後求められるスキルを見極め、新たなスキルを身につけ直してきました。

つまり、いつの時代であっても、時代に合わせて常に新しいことを学ぼうとする姿勢が必要なのは変わらない、ということです。

“Reskilling”や変化を「恐れる(Fear)」か、あるいは「受容(Embrace)」できるかで、さまざまな時代変化の中での働きやすさが大きく変わることを強調しました。

一方で、ディーケン氏は今の時代の“Reskilling”について、以下のポイントを挙げました。

現在2018年に求められる“Reskilling”

  • 人工知能(AI)やマシンラーニングの急激な進歩は、“Reskilling”に求める時間を短縮し、求められるスキルの内容も大きく変化させる
  • 技術の進歩は人間しか行えないと考えられていた領域を劇的にシフトした。この時代に何も変化せずに耐え抜くことのできるような「安定し安心できる職種、職業」というものはない

AIやマシンラーニングだけでなく、今の時代はさまざまな要因が重なりあい、複雑に変化しています。こうした時代を生き抜き、さらに発展していく組織を築くためには、今後どのようなスキルが求められるのでしょうか。 ディーケン氏は今から2030年に向けて求められる3つのコアスキルを紹介しました。

2030年に向けて求められるコアスキル

  1. Learning Agility(ラーニングアジリティ)
    新しいことを学んだり身に付けようとする機敏さと好奇心、“Reskilling”に対するコミットメント
  2. Career dexterity(キャリア熟練)とresilience(レジリエンス)
    働き方(フルタイム、契約、フリーランス)など、多様な方法やアプローチがこれまで以上に共存していく社会。個々が自分のキャリアに対する長期的プランを持ち、さまざまな雇用方法や場合によってはダウンタイムの発生などの変化に対してもフレキシブルに対応できる力
  3. Digital and Data fluency(情報フルエンシー)
    デジタル、データに堪能であり、かつ必要なデジタルスキルを維持し強化する力、そしてデータを読み解き応用する力

これら3点はこれからの人材開発にとっても重要なキーワードと言えます。

ディーケン氏は2030年までに“Talent(能力)”の定義や考え方は、複雑に変わることを推察しました。

労働力の半分以上は、フリーランサーや業務提携パートナーによって、必要なスキルごとに必要な期間のみプロジェクトを立て、チームを作りグローバルで賄われる社会になり、さらに人とデジタルマシンとの関係性はより密になるでしょう。この変化により、組織・人材開発のプロフェッショナルは、グローバルタレントをうまくマネジメントするために、ラーニングをよりパーソナル(一人ひとりの働き方にあった形)でグローバルに提供していく必要が出てくることをポイントとして挙げました。

また、ディーケン氏はこれらのコアスキルが求められているのは、私たちのようなタレントマネジメントに携わる者も例外ではなく、むしろ、組織の中でも人を手助けする役目である私たちこそが“Reskillingの先駆者”となり、まず自らが求められていくスキルと姿勢を身につけておく必要性を強調しました。

“In anticipation to our role in reskilling and developing the 2030 workforce, we will first need to reskill ourselves. Like you have to put your life vest on, before assisting others.”
2030年に向けた“Reskilling”や組織開発のために私たちに求められることは、まず自分たちがスキルアップデートをし“Reskill”することです。人を助けるためには、まず自らが救命具を着用していることが必要であることと同じように。

自分のスキルアップデートの計画を立てること、ATDのような国際会議を活用してどのようなスキルアップができるかをネットワーキングしてみること、お互いのリサーチやデータ、ベストプラクティスの共有の場としても、ディーケン氏の職場では、すでに実践を開始しています。AIを駆使したリクルーティングのスクリーニング、タレント傾向予測などでの活用を進めているそうです。

2030年、マシンがツールではなく仕事の“パートナー”となる時代、人間の役割はAIにデータを与え、AIのトレーナーとなり、AIが解析したデータを他の人に伝わるように伝達する解説者になる。その時、私たちは自らの組織に対して次のようなことを常に問いかける姿勢を持つことが重要です。

  • 2030年に求められるReskillingのため、組織の人材育成でOutdated(時代遅れ)となっているものはないか
  • マシンによるオートメーションに対して、恐れず、変化を受け入れて、自分の組織でのAIやマシンラーニングの活用の可能性とポテンシャルを考える姿勢を持っているか

“And by 2030, people will no longer be saying that machines are stealing jobs, instead they will be clamoring to work with artificial intelligence and demand the skill to be successful at it, and as practitioners, we will be ready.”
2030年には人はもうマシンに仕事を盗られると口にしなくなっているでしょう。代わりに、マシンを使って働くこと、マシンを活用するスキルを求めるようになります。私たちは専門家としてその時代の準備を整えておきましょう。

この講演では次の書籍の紹介もありました。
変わりゆく人間とマシンの関係性、これから人間に求められるものを紐解くには読んでおきたい書籍かもしれません。

ディーケン氏の参照した書籍:“Human Plus Machine:Reimaging Work in the Age of AI”
Harvard Business Reviewはこちら
Amazonはこちら

What is your “left leg”?
~バッキンガム氏による“LOVE+WORK”~

Marcus Buckingham(マーカス・バッキンガム)氏は、ケンブリッジ大学を卒業後、調査会社ギャラップにて世界トップレベルの職場やリーダー、マネジャーの調査に携わり、現在はADP研究所のコンサルタントとして活躍中。著書には日本でもベストセラーの「最高のリーダー、マネジャーがいつも考えているたったひとつのこと」、「さあ、才能に目覚めよう」等。経営思想家としても名高く、人材開発の分野でのソートリーダーとして大きな存在の人物です。

今回はバッキンガム氏のグローバルで行った最新調査から明らかになった「仕事にまつわる9つのウソ・迷信」を紹介しました。それは、これまでの組織や働き方についての常識が覆される結果で、人材・組織開発に携わるプロフェッショナルとしては、これから慎重に一つひとつの結果の理解を深めておくべき9つのポイントとも言えるでしょう。

  1. People care which company they work for…「人はどの会社で働くかこだわりを持っている」
  2. The best plan wins…「ベストプランが選ばれる」
  3. The best companies cascade goals…「優良企業はビジネスゴールをきちんと連鎖させる仕組みを持っている」
  4. Well-rounded people are better …「バランスよくスキルを持つ人材のほうがよい」
  5. People crave feedback…「誰もがフィードバックを求めている」
  6. People can reliably rate other people…「人は他人を確実に評価することができる」
  7. People have potential…「誰もがポテンシャルを持っている」
  8. We should seek work/life balance…「ワークライフバランスを追求するべき」
  9. ‘Leadership’ is a thing…「リーダーシップは持っている/持っていないであらわせる有体物ではない」

今回の講演は、その中でも「Well-rounded people are better(バランスよくスキルを持つ人材のほうがよい)」のウソ・迷信について見ていきました。

バッキンガム氏はサッカー界の天才とも言われるリオネル・メッシ選手を例として挙げました。

利き足の「神の左足」が有名な選手です。

ユースチーム時代、バランスのとれた選手として能力開発を行うために、成長ホルモン投薬治療や一般的な利き足の右足強化の訓練が行われたものの、最終的には、彼のもともとの強みである左足のテクニック強化に専念することになりました。能力開発の戦略転換は彼の一流選手としての成長を手助けしたのです。

すべてのスキルをバランスよくすることに固執せず、ユニークさと特長をうまく活かすラーニング環境や方法を考えることによってその人の左足、つまり強みにフォーカスし最大限に発揮させる。これは脳科学的に見た場合にも、さらに強みを発揮できている人と一緒に働く人やチームのモチベーションを上げるポジティブな刺激として効果的なアプローチであるとバッキンガム氏は言いました。

“You have to ask yourself…’What is your ‘left leg’?”
あなたの「左足」となるものは何か、考えてみてください。

バッキンガム氏は『パフォーマンスを向上する場合、あなたなら「強み(Strength)」「弱み(Weakness)」どちらを強化しますか』に対する意識調査の各国結果から、「強み」を強化させることがパフォーマンス向上につながると考えられていることを示唆しました。

また、調査結果の解説からは、日本では「強み」と答える人が他国と比べて低いことがわかりました。これは「Well-rounded people are better(バランスよくスキルを持つ人材のほうがよい)」という考えが日本で根強いことも明らかになるものでした。

最後に、バッキンガム氏はこれらの9つの迷信を取り巻く調査結果や背景について、一日も早く理解する緊急性を感じていると語りました。この結果をテーマとする書籍が発売予定ですが、出版前の期間を使いハーバードビジネスレビュー(HBR)との共同でこれらの9つの迷信を毎月1つ取り上げ、従来の常識や枠組みを外して組織や働き方の現場に変化をもたらしたいと思っているリーダーたちと情報交換できるコミュニティの立ち上げを発表しました。

世界的に大きな動きを見せるかもしれないバッキンガム氏のコミュニティに参加して、組織の取り組みに活用することも可能です。日本からこの活動に参加するのもよいかもしれません。

時代変化とともに人材・組織開発プロフェッショナル養成も変化!

最後に、ATDより近日中に、時代の変化と2030に向けた人材育成のプロフェッショナル養成計画を発表することがアナウンスされました。

人材育成のプロフェッショナル育成支援団体としての役割も果たすATDでは、すでに今後のプロフェッショナルの養成の考え方において2030年に向けた変化に対応開始しています。

  • ATDの開発したCompetencyモデル
  • CPLP専攻分野の見直し、改訂予定があり、特にタレントマネジメントのプロフェッショナルとしての称号とも言えるCPLP資格認定での必須スキルとして、よりラーニングテクノロジーへの理解とスキル強化を検討します。

■ レポート

浅井 綾子
ウィルソン・ラーニング ワールドワイド株式会社
プログラム開発担当(米国駐在)
米国ミシガン州立大学コミュニケーション学部卒、同大学院修了。異文化コミュニケーション、医療・公衆衛生分野を対象としたヘルス・コミュニケーションを中心に研究。在米日本語補習授業校 初等部教師、日系医薬品開発業務受託機関(CRO)での勤務(クオリティマネジメント、メディカルライティング)を経て、2015年ウィルソン・ラーニング ワールドワイド株式会社に入社。2017年5月より同社米国支社に駐在。

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5/23参加講演報告 「組織変革にもっとも重要なこととは?」
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