【ATD2018】オバマ前大統領から学ぶ!ATD75周年特別基調講演

2018年5月15日

これからの時代に、私たちの「バイタリティの源」になるものとは?

ATD国際会議の一日目の基調講演はバラク・オバマ前米大統領。
初のアフリカ系アメリカ人であり、5番目に若い大統領。現役退任後も支持の高い世界的リーダーです。
世界で最も影響力のある人物の講演ともあり、オバマ氏の講演のためにATDの国際会議への参加を計画した人も多いようでした。

オバマ氏がATDで講演することについては各地メディアでも取り上げられ、ATD参加者以外からも注目を浴びた講演でもあり、開場前の会場の周りには早朝にも関わらず多くの人が集まりました。
開場前からこれほど人が並ぶのは、これまでの国際会議の基調講演の中でも異例だと過去の参加者たちも驚いている様子でした。

講演前の様子からも参加者の興奮が伺えます

今回の基調講演はATD会長との対談形式で行われました。
オバマ前大統領の生い立ちから大統領時代を退任後の今振り返り、常にモチベーションを高く保ち続けるためのバイタリティの源、これからの時代変化に私たちはどのように向き合っていくべきか、何を大切にしていくべきかを聞くことができました。

ATD会長がオバマ氏をステージに招くと、客席からは拍手と歓声が長い時間鳴りやみませんでした。

オバマ前大統領の「バイタリティの源」とは?

オバマ氏は、決して裕福とは言えない幼少期を経て、さまざまな差別、困難を乗り越え、大統領として8年間の任期をまっとうしました。
それは、彼の「どのようなプロジェクトであっても完遂までフォーカスし続ける」という姿勢であり、この姿勢を保たせたのは「バリュー(Value:価値観)」、そして「パーパス(Purpose:存在意義)」を明確に持っていることであることを述べました。

バリューとパーパスがはっきりとしていることが、どのような逆境の中でもあきらめずに前進させることのできるレジリエンスをつけ、さらには厳しい選択でもひるまず最大限のパフォーマンスを発揮することができた背景であることを、生い立ちから大統領選、大統領時代のエピソードとともに語りました。

オバマ氏の大切にするバリュー(価値観)とは?

“Being honest, kind, useful/helpful, carrying the weight and being responsible…with sense of humor and forgiving…”
誠実さ、親切さ、役立つ/奉仕精神を持ち、責任の重要性の認識し責任感のある行動をとり、ユーモアさと寛大さを備えること

“If you are kind and you’re useful, you’re probably going to live a pretty good life”
親切で役立つようにさえいれば、よい人生を送ることができる

そして、

“Worry less on what you want to be, worry more on what you want do”
「何になりたいか」ではなく、「何をしていきたいか」を考えること

と職位や肩書きではなく、自分の価値観をもとにキャリアを積むことの重要性を述べました。
「これが単なる『仕事-Job(ジョブ)』を、一生涯の生きがいとなる『キャリア-Career(キャリア)』へと変化させることができる」とオバマ氏。

“Values reflect how you interact with people. It will get you thought the hard times and good times….and ultimately gives the purpose for you to go above and beyond. Organizations need to help people become better performers with what is in their hearts.”

バリューの大切さについては、書籍“The Audacity of Hope(邦題:合衆国再生―大いなる希望を抱いて)”でもこのことについて一章を設けて丁寧に思いを表現しています。また大統領時代、オバマ政権のミッション “Creating an environment for everyone to work the possibility.(全員が可能性を探求し働くことのできる環境を作る)”の遂行において、チームに対して大切にしてきた言動にも表れています。

オバマ政権で大切にしたこと

  • Confidence, transparent and rigorous conversation
    確信ある、透明でかつ厳格な対話
  • Involve the “outer-rings” into the conversation
    (幹部・意思決定権のある中心核だけでなく)現場を巻き込んだ対話

このような環境作りや、働く仲間に対しての立ち振る舞いは、個人や組織にも共通することだろうとオバマ氏は語りました。

バリューを貫くための姿勢とは?

バリューを貫くためには、人・組織であっても、決断するための「Fact(事実・真実)」から目をそむけない姿勢が重要であること、また“Short term vision”(短期志向)や“Dishonesty”(不誠実さ)がバリューの浸透を妨げる要因であることを示唆しました。

オバマ氏の目から見る「これからの未来」とは?

社会環境にさまざまな変化が起こっている現代。課題一つひとつに注意すべき点もあるが、第35代米大統領ジョン・F・ケネディの「私が抱える問題は人間が作り出したものであり、よって人間が解決できる」の言葉を添え、さらに50年前までは、オバマ氏がこのような対談はできなかったということを挙げながら、これからの未来について前向きな考えをアドバイス。

これから注意すべき最大のリスクは、国として、そして個人としてのバリューを維持できない社会になった場合であることを語りました。“Value-based society”(バリューに基づいた社会づくり)によって、急激な技術進歩や激変するダイバーシティ等の変化を恐れる(Fear)のではなく受け入れる(Embrace)力を発揮できると。

さらに、このような組織や社会を作るために私たち一人ひとりには次の役割があることをアドバイスしました。

  • Responsibility and accountability and respect
    責任を持つこと、説明責任を果たすこと、尊重すること
  • Need to work to be good, willing to work hard
    良心を持ち、物事に一生懸命に取り組むこと

変革のためには何が必要か?

オバマ氏は、自分も含めて人は「今」を知り、変わらなくてはいけないという危機感(リスク)を感じない限り、本当に変わろうとはしないということを、自らの禁煙のエピソードを共有しながら述べました。

さらに、変化することは難しく、ましてや一晩で変化をもたらすのは至難の業であり、長期的な視野を持ち変化のプロセスや要素を分解して考えられることが重要であると述べました。組織の人材育成の取り組みも同じで、成長を一日一日、長期的に見るようにと。

“You are always working off of legacy and this is hard, and you cannot blame on people for not changing. You have to build the “bridge” to people from where they are and where they want to be.”
みなさんはこれまで築き上げてきたレガシーに常に対応しなくてはならず、これは難しいことです。
また、すぐに変化が見えないことに対して、人を責めることはできません。
彼らの「今」と、「この先どうなりたいのか」の間に橋を架けましょう。

そして組織の人材開発の取り組み・魅力について、

“it is about tapping into people’s potential, let them be opened, breaking insecurities.”
人に秘められたポテンシャルを引き出し、物事に対する不安のサイクルを破り物怖じせずに前向きにとらえる人材を育てること

であると述べ、企業組織が成長するためには人材開発の役割が重要なことであることを強調しました。

多くの組織が、人のパフォーマンスを最大限に引き出すことを今後の課題としていることを示唆し、日々の取り組みに対して観客に向けてエールを送りました。

■ レポート

浅井 綾子
ウィルソン・ラーニング ワールドワイド株式会社
プログラム開発担当(米国駐在)
米国ミシガン州立大学コミュニケーション学部卒、同大学院修了。異文化コミュニケーション、医療・公衆衛生分野を対象としたヘルス・コミュニケーションを中心に研究。在米日本語補習授業校 初等部教師、日系医薬品開発業務受託機関(CRO)での勤務(クオリティマネジメント、メディカルライティング)を経て、2015年ウィルソン・ラーニング ワールドワイド株式会社に入社。2017年5月より同社米国支社に駐在。

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