「個の時代」に求められる次世代のリーダーシップとは

2019年11月19日

「リーダーシップとは何か?」

そう聞かれたら、あなたは何と答えるでしょうか。

かつては、「優れた行動力と先見性で組織を束ねる力」といった考え方が主流でした。カリスマ型リーダーが、先頭に立って組織を牽引するイメージです。

しかしニーズが多様化し、「個の時代」といわれる現在において、リーダーの牽引力だけでビジネスを成長させることは難しくなりました。時代の変化に伴い、新たなリーダーシップが求められているのです。個の時代に求められている、新たなリーダーシップについて考えます。

参考記事:リーダーシップとは?リーダーシップの種類や必要な資質を解説

カリスマ型リーダーの限界

まず認識しておきたいのは、リーダーのあり方が大きく変化しているという点です。

大量生産、大量消費の時代は、企業は拡大する需要を満たすための労働力によって支えられていました。必然的に組織も大きくなり、その巨大な組織を動かせるだけの牽引力を持つことが、リーダーの条件となったのは当然です。個々の存在をひとつの大きな力にまとめる「カリスマ型リーダー」がもてはやされました。

しかし大量生産は価格競争を生み、どこでも、誰にでも手に入れられる商品やサービスがあふれるようになりました。やがて消費者は、「1点もの」や「オーダーメイド」といった言葉に魅力を感じるようになっていきます。「個の時代」の幕開けです。

さらに「ダイバーシティ」、「働き方改革」といった考え方が浸透し、生き方や存在価値の多様性が広く認識されるようになると、組織にも、一人ひとりが個性を伸ばせる環境が求められるようになりました。つまり、強力なカリスマ性だけでビジネスを動かすには、限界が出てきたのです。これが「周囲を巻きこみ、行動を促す新たなリーダーシップ」が注目されるようになった背景です。

決してカリスマ型リーダーの存在を否定するわけではありません。しかし、前述のようにビジネス環境が変化している中で、従来通りのやり方を踏襲するだけでは、現状に即したやり方とは言えないでしょう。では、「個の時代」に求められている新たなリーダーシップとは、具体的にどのようなものでしょうか。

責任共有のリーダーシップとも呼ばれる「グロースリーダーシップ」がその一例です。グロースリーダーシップは、自分が主導権を握ってメンバーをコントロールするのではなく、専門性や個性の異なるメンバーに相互作用を促し、協調性のあるチームに育てていくというリーダーシップモデルです。各自が責任を共有しながら自律的に協調することで、めまぐるしく変化するニーズに対応できるという強みがあります。

タイプは異なりますが、ハーバード・ビジネススクール教授のビル・ジョージ氏が提唱した「オーセンティックリーダーシップ」も新たなリーダーシップのひとつです。直訳すれば「偽りのないリーダーシップ」となりますが、自分らしさ、あるいは自身の価値観や信念に基づいたリーダーシップを指します。物事の判断基準が「組織」ではなく「自分らしさ」にあるという点において、カリスマ型リーダーとは異なります。こうした新たなリーダーシップは、自発的に、そして自信を持って行動できる環境をつくるには効果的と言われています。

時代が求める新たなリーダーシップ

グロースリーダーシップ、オーセンティックリーダーシップを紹介しましたが、多様化が進むニーズ、日々変化する社会情勢、AIに代表される技術革新の速度に対応するには、それらだけでは不十分です。そこで注目を集めるようになったのが、「越境リーダーシップ」です。

越境リーダーシップとは、端的にいえば自らの想いを行動に移し、「あらゆる垣根を超え、ネットワークを広げて新たな価値創造が生まれる環境をつくるマインドセット」です。国境、業界、企業間、社内の部署やポジション、専門分野の違いなど、ビジネスシーンにはあらゆる垣根が存在します。それらが障害となってビジネスを停滞、もしくは後退させてしまう事例はいくらでもあります。

たとえば、新規事業を企画した際に生じる部門間の対立です。「新たな事業の柱とするために時間と労力を注ぎたい」という企画側の思惑と、「収益が得られる確証もないのに既存事業を犠牲にはできない」という営業側の考え方とハレーションが起きる、といったことはすべての企業に起こりえます。

一方、ビジョンを共有し、業界間の垣根や常識を取り払い、異業種のアイデアを取り込むことで成功した事例も、枚挙にいとまがありません。あらゆるものの間に存在する垣根を超えて知識や経験を共有することができれば、ビジネスの可能性は大きく広がります。

越境リーダーシップを発揮することは、簡単ではありません。垣根を超える、あるいは取り払うにはそれぞれの歴史や文化、環境までをも理解する必要があり、それらを受け入れる土壌を持たなければなりません。相手の賛同を得るだけでなく、巻き込む力も必要でしょう。

求められている次世代のリーダー像

ここで間違えてはいけないのが、垣根を超えることは「リーダーだけの役割」ではないということです。人にはそれぞれ、得手不得手があります。社内のアイデアのある人とトップが同一人物であるとは限りません。財務管理の専門家に広告の運用を任せたところで、成果が得られないのは想像しなくてもわかります。

苦手なこと、わからないことは、それを得意とする人に依頼すればいいのです。チーム内でどう補完しあうか、互いのアイデアを組み合わせて形にすることはできないかと考え始めると、状況は変わります。一人ひとりに個性があるからこそ化学反応が起こるわけで、そこに越境リーダーシップの原点があるのです。このマインドセットを持つ人材を育てることができれば、未来は大きく違ってきます。

「課題を解決し、新しい価値を創造する全てがイノベーションである。総務であろうが人事であろうがイノベーションを起こせる。」

これはオムロン株式会社の創業者の言葉だそうです。根本には、部署の垣根を超える個の想い、ビジョンを伴った越境リーダーシップの存在があるのではないでしょうか。今、企業に必要なのは新規事業を含めた新たな価値を創造できる人材です。しかし「個の時代」に対応するためには、より多くの知恵や経験を集結させる必要があります。

同社の竹林一氏が伝える「起承転結人材育成モデル」における、0から1を生み出す「起」の人材、そして生み出された1を拡大させる「承」の人材には、越境リーダーシップの要素が欠かせません。周囲の人材や知識、アイデアを融合させて新たな価値をつくり出せる人物であれば、効率化やリスク抑制を得意とする「転」の人材、最終的なオペレーションを確立する「結」の人材を協力者として巻き込むことも難しくありません。

新たな価値を創造する越境リーダーは、多様化するニーズと予測の難しい市場の変化に対応できる存在なのです。

参考記事:
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