リーダーシップとは? リーダーシップ研究の最前線を紹介

2019年10月23日

リーダーシップは、いつの時代でも必要とされてきました。しかし、リーダーに求められるものは、時代背景に合わせて移り変わっています。

現在、企業において、リーダーシップやリーダーシップ育成がより重要視されるようになってきています。
トレーニングマガジン誌とウィルソン・ラーニング(米国)における共同調査では、企業の「リーダーシップ育成のための総支出」は2017年から2019年にかけて上がっており、リーダーシップ育成への投資意欲は高いと言えます(出典はこちら)。

この記事では、リーダーシップ論の変遷と、これまでに求められてきたリーダーシップ、そして、これから求められるリーダーシップについて解説します。
時代に応じて必要とされるリーダーシップを発揮するためにぜひ参考にしてください。

リーダーシップの意味

英語の「leadership」には、「指導者・指導者の地位・任務」と、「指導者としての素養・力量・統率力」という2つの意味があります。前者は、たとえば企業における社長や部長などの役割・役職をあらわしており、後者は、ある場面で発揮する能力を意味しています。

ここからは、リーダーシップの能力の側面に着目して解説していきます。

参考記事:リーダーシップとは?リーダーシップの種類や必要な資質を解説

リーダーシップの必要性

ビジネスにおけるリーダーシップは、管理職やリーダー職だけが発揮するものではありません。
企業や市場を取り巻く環境が目まぐるしく変化を続けているなか、立場にかかわらずメンバー一人ひとりがリーダーシップを持つことが求められています。

たとえば、女性活躍推進をはじめとした人材の多様性(ダイバーシティ)推進をとっても、多様な人材をまとめるには、リーダーひとりでは難しいのが実情です。
多様性を企業の強みや力に変えていくためには、構成要員である個人がそれぞれリーダーシップを発揮し、シナジー効果を生み出していく必要があるのです。

リーダーシップの変遷

新しい時代のリーダーシップについて知る前に、リーダーシップに関する考えがどのように変遷してきたのかを理解しておきましょう。

さまざまな整理の仕方がありますが、今回は、提唱されてきた理論を時間軸で整理して、それぞれの主要な理論を解説していきます。

特性理論(~1940年代頃まで)

リーダーシップ理論の中では最も古い理論で、古代ギリシャから1940年代頃まで提唱されていました。哲学者プラトンは、著書『国家』の中で、言葉や起きた事柄に左右されない心理について説いています。

また、政治思想家マキャベリは『君主論』で、君主の統率力について提唱しています。

19世紀には、評論家トーマス・カーライルが『リーダーシップ偉人説』により、「人より秀でた偉人だけがリーダーになれる」と説きました。
特性理論では、持って生まれた性格や資質によって、リーダーシップが発揮されると考えられています。リーダーシップは後天的な能力ではなく、いわゆる「才能」である、とされ、知性や行動力、信頼性などが優れている人だけが発揮できるという理論です。

しかし、特性理論はリーダーになるための資質の基準が曖昧だったため、広く展開しませんでした。
また、リーダーの特質を分類し細分化する手法としての理論にとどまり、どのような言動がリーダーにふさわしいのかということは不明確なままになっています。

また、研究する過程で、リーダーの資質を「生まれ持った才能」だけで説明することができないことがわかってきました。そのため、次第に才能以外の影響についての研究へと変わっていきました。

行動理論(1940年代~1960年代頃まで)

1940年代から1960年代にかけて、特性理論を発展させた行動理論が提唱されました。太平洋戦争後のアメリカでは軍隊や産業などに多くのリーダーが求められたことから、より新しい理論が必要になったのです。

行動理論の代表的な考え方としては、三隅二不二(みすみじゅうじ)の「PM理論」があります。
PM理論では、リーダーシップを発揮するために必要な機能を課題達成機能(Performance)と、人間関係・集団維持機能(Maintenance)の2つに分類しました。

P機能「課題達成機能」とは、目的を達成し結果を出す働きのことです。
M機能「人間関係・集団維持機能」とは、集団の維持に関する機能であり、集団の人間関係を良好に保ち、チームワークを強化、維持する機能を指します。

PM理論では、P機能とM機能、それぞれの機能の高さから、リーダーに必要な能力を測ることができるとされました。PとMが共に高い状態(PM型)のリーダーシップが望ましいとしたのです。

しかし、行動理論では、理想的とされた行動を模倣するにとどまっています。環境により必要なリーダーシップは異なるため、模倣だけでは成果は上がらないことが新たな課題となりました。

行動理論に関しては、この他にも「SL理論」や「マネジリアルグリッド論」などの理論もあり、多くの議論がされています。

条件適合理論(1960年代)

1960年代以降、「パス・ゴール理論」や「コンティンジェンシー理論」などの条件適合理論が注目され始めました。条件適合理論では、リーダーの能力は才能や行動のみで決まるものではなく、環境によって行動を変えていくことが優秀なリーダーの条件とされています。

代表的な条件適合理論としては、ロバート・ハウスが提唱した「パス・ゴール理論」が挙げられます。
「パス・ゴール理論」では、目標を達成するまでの過程に影響を与えるものがリーダーシップであると定義されています。
リーダーは環境と部下という2つの要因の影響を受けながら行動します。その行動は「指示型・支援型・参加型・達成志向型」の4つに分類されました。

優れたリーダーは、常に同じ行動を取るわけではないことがこの研究によりわかってきました。行動理論よりも柔軟な考え方なので、状況が変化しやすい現代にも通じる理論と言えるでしょう。

リーダーは、自分を取り巻く周囲の影響によって行動を変えなければなりません。柔軟性の高い条件適合理論は、現代のマネジメントにも幅広く取り入れられています。

コンセプト理論(1980年代)

1980年代に入ると、実際のビジネスシーンを想定したコンセプト理論が注目されるようになりました。
ジョン・コッターが提唱した「変革的リーダーシップ理論」が、代表的なコンセプト理論と言われています。

コッターは、そのリーダーシップ論で、リーダーシップとは変革を起こすことだと定義し、変革を実現するための8つの段階を提唱しています。
また、リーダーシップにおける最も重要な要素を「リーダーの掲げるビジョン」であるとし、そのために必要な要素も論じています。

ほかにも、環境や集団の構成員の違いによる、さまざまなコンセプト理論が提唱されてきました。たとえば、「リーダーはまず相手に奉仕し、その後相手を導くものである」という考え方に基づく「サーバント・リーダーシップ」や、自分はどういう人間であるか、自身が大事にしている価値観は何かなど、自分自身の考えに根差したリーダーシップを追及する「オーセンティック・リーダーシップ」、個々の専門性を活かし、責任を共有する協働型の「グロースリーダーシップ」、報酬もしくは強制によって部下の行動に影響を与える「トランザクショナル・リーダーシップ」などがあります。(特に、注目される理論に関しては後述します)

リーダーシップのニーズが再燃している背景

グローバル競争が激しくなっている現代では、事業を短期間で成長させることが求められています。また、働き方の多様性も進んできました。そういった環境の中で、従来の考えに基づいたリーダーシップ像を追うだけでは、結果を出しにくくなっている現状があることも見逃がせません。

これからの企業の戦略としては、リーダーシップ理論の歴史を踏まえつつも、その時々に求められるリーダーシップを定義し、育成していくことが重要なポイントになるでしょう。

リーダーシップの「これまで」と「これから」

これまでのリーダーシップ理論を振り返りながら、新時代に合わせた最新研究を紹介します。

これまでのリーダーシップ

高度成長期には、同じ商品を大量生産するために作業の効率化が求められました。
そのため、リーダーがトップに君臨するピラミッド型の階層でも、経営的には問題はありませんでした。
リーダーに求められるのは、目標を達成するために部下に適切な指示を出し決められた正しいパターンの行動をさせることだったからです。

このように部下が従うように的確な指示を出す力や従わせる統率力が、これまでリーダーの資質とされていたのです。カリスマ的な強いリーダーシップによって、企業は成功を収めるものとされてきました。

これからのリーダーシップ

現代社会をあらわす「変動性(Volatility)、不確実性(Uncertainty)、複雑性(Complexity)、曖昧性(Ambiguity)」の頭文字から、「VUCA(ブーカ)」という言葉も生まれています。
このような変化の激しい時代に必要とされるリーダーシップとは、どのようなものなのでしょうか。

現代社会では、緊急事態において、リーダーが自ら意思決定し、組織に強い影響力を示すような言動が求められる場合もありますが、正解が見えない中で、単に指示命令によって部下を従わせるだけのリーダーに対して、部下は形だけ従ったとしても実際にはコミットしないケースが見られるようになっています。

企業の置かれているシチュエーションが多様なので、求められるリーダーシップも多様になってきているのです。
そのため、これまでの考え方とはアプローチの違う「サーバント・リーダーシップ」などの考え方が支持されるようになってきています。

「サーバント・リーダーシップ」とは、目標達成に向けて部下をサポートするという理論です。
これにより、自主性やリーダーへの信頼性が増すなどの変化が得られると考えられています。環境の変化に柔軟に対応する能力が必要なのです。

責任共有のリーダーシップという考え方もあります。それぞれが責任を負うのではなく協働できる環境を作り出すこともリーダーシップのひとつであるという視点です。
さらに、「自分はどういう人間であるか」「自身が大事にしている価値観は何か」など、自分自身の考えに根差したリーダーシップのあり方を考える理論「オーセンティック・リーダーシップ」も、特にVUCA時代のリーダーシップ理論として注目されています。

部下に支持されるためには、リーダー自身が自己理解し、自己認識を高めることが重要です。
リーダーの自己認識と、部下のリーダーに対する認識が近いほど全体の満足感が上がり、リーダーシップ能力が高く評価されると言われています。

参考記事:「個の時代」に求められる次世代のリーダーシップとは

まとめ

リーダーシップに関する考え方は複数あり、年代ごとにリーダーの定義や重要視される理論は移り変わってきました。
複雑な現代社会においては、部下に支持されるリーダーになるには、自己理解と自己認識を高めることが重要と言われています。

■関連情報

ウィルソン・ラーニングが提唱するリーダーシップについての考え方については、より詳しく紹介している記事があります。
リーダーシップについてより理解を深めたい方は、ぜひ一度ご覧ください。

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