最終回:イネーブルメントは「よく聴く」ことから始まる

管理職が変われば組織が変わる イネーブルメントという考え方(4)

2025年7月15日

管理職が変われば組織が変わる イネーブルメントという考え方

(1) 挑戦する組織に欠かせない「イネーブラー」という存在
(2) 挑戦者は一日にして成らず
(3) 従来型のマネジメントが新しい価値創造を阻害する?
(4) イネーブルメントは「よく聴く」ことから始まる

前回の振り返り

  • これまで正解とされてきた「仕事と人を管理する」マネジメントは、新たな挑戦を阻害する可能性がある
  • 価値創造が生まれるためには、管理職が「ピープル・イネーブルメント」という考え方を認識し、「イネーブラー」へと役割転換することが不可欠
  • 挑戦を促す管理職の行動として、「心理的安全性の確保」「挑戦者の段階(ステージ)の見極めと支援」が重要。結果として「組織文化のアップデート」につながる

前回の記事では、管理職が変わらないと組織が変わらない。今までの管理手法とは異なる「ピープル・イネーブルメント」という考え方を知ってもらい、必要に応じ使い分けていくことで現業と価値創造の両方へ対応していくことができる、というお話をしました。

今日は、具体的に「ピープル・イネーブルメント」を学んでいただく場合の進め方についてお話します。

ピープル・イネーブルメントの進め方

ピープル・イネーブルメントの進め方は以下の3ステップです。

  1. 「業務遂行のマネジメント」と「挑戦支援のマネジメント」の違いを理解する
    この2つの違いとどのように使い分けると有効かを理解します。
  2. 「メンバーの変容ステージ」を見極める
    チームメンバー一人ひとりがいまどの段階にいるのかを見極めます。
  3. イネーブルメントを実践する
    個々人の変容ステージに対応したイネーブルメント行動を選択して、実践していきます。

本シリーズの第2回で説明しましたが、新しい価値創造に挑戦する道には4つの変容段階(ステージ)があります。

ステージ0【無意識】

危機意識がない、あるいは変化を諦めていたり、割り切って働いている状態。

ステージ1【意識】

課題意識はあります。何かを変えないといけない、このままではいけない、と思っている状態です。しかし、何をしたいのか、自分自身のテーマが明確になっていません。そのため、「忙しい、時間がない、評価される組織ではない」など、動けない理由を他責にしてしまいがちです。

ステージ2【意欲】

自分なりのテーマ、アイデアが見えている段階です。
アイデアを行動に移し、既存の枠組みや組織を越境しています。社内外に仲間をつくり、仮説検証を行うことを進めている状態です。

ステージ3【意志】

行動を通じて自分のテーマ、アイデアの解像度が上がってきています。
実現価値の確信と実現可能性の実感を得ることで、覚悟を持って事業構想の実現に向けて動いていくことができます。
この段階に来ると、どのような苦難があっても、仲間と共に乗り越えていく力があります。

ステージ1の人が全員ステージ3に進む必要はありませんし、急に行けるものでもありません。とはいえ、組織のカルチャーを変えていくためには、ステージ2以上の社員の割合を増やしていく必要があります。今いるステージを次の段階に上げていくためには、それぞれの状況に合わせたイネーブルメント、挑戦を支援することが必要です。

ステージ0 の人、ステージ1の人、それぞれに合った支援の方法があります。
まだふわっとしている課題感のところに具体を詰め寄る質問をしても、せっかく開いた蓋が閉じてしまいます。
「なぜそのように思うのか」を聞いて言語化のサポートをするなど、イメージを少しずつ具体的にしていくための支援をしていくことが、次のステージにつながっていきます。

解釈や評価を交えず『聴く』ことが挑戦者を支援する鍵となる

イネーブルメントにおいて重要なのは、「よく聴く」ということです。

これまでの管理職は、仕事上の問題解決をするために部下の話を聞いていました。
何が問題で、何が原因かを見極めて解決を導く必要があるので、部下の話を解釈や評価をしながら聞きます。しかし、本人の想いを育むイネーブルメントにおいては自身の判断や評価を保留して、ありのまま、部下の想いを聴き、受け止めるということが重要です。

問題を解決するコーチングを行う際の「聞く」を実行していると、相手の発言に反応して判断したり評価したり、つまり解決・対応しようとしてしまいます。

イネーブルメントはそうではありません。

相手の想いをまず聴いて、自分はあなたの想いや考えをこう理解したよ、ということを伝え、共有します。受け止められた、理解されたという安心感を作る必要があるのです。

イネーブルメントの具体的な例

あなたが対話を続けてきたメンバーは、新しい価値創造のテーマとアイデアが定まってきました。
まずは何か動き始めてみよう、ということで話をすることにしました。

管理者

まずは何から始めようと思っているのかな。

中小企業のDXといっても規模もレベルもさまざまだし、どのような業務を対象にすれば良いのか迷っています。

メンバー

このメンバーはステージ2に入った段階です。アイデアを少しずつ形にしていこうとしているものの、何から手をつけたらよいのかわからなくて動き出せずにいるというケースです。

この後、あなたならどう答えますか?

管理者
Aさん

業種や業界を整理してから、標準的なワークフローを見つけて、それに沿って洗い出すところから始めてみたら?

管理者
Bさん

すでにわかってることの中から、自力でプロトタイプを作れそうなことはある?

いかがでしょう。

何から手をつければ良いのかわからないという状態に対して、Aさんは標準的なワークフローに沿って洗い出すところから始めたら、とのアドバイスをしています。
これは、抜け漏れがないように網羅的に情報を収集することを重視した方法の提案ですね。

一方、Bさんは、すでにわかっていることの中から、自力でプロトタイプを作れそうなものはあるか、と聞いています。
つまり、さらに調べるのではなく、すでにわかっていることで動き出せることを探して「行動に移す」ことを勧めているのです。

PDCAを回すというのは仕事の基本ですが、新規事業など正解がわからない中でトライ&エラーを繰り返しながら前へ進んでいく時は、Planに時間をかけすぎても意味がありません。むしろ、Doから始めて、わかったことを基に計画を立てて実行していく方が合理的です。考えすぎて動けなくなっているときに、そのような流れを作ってあげることもイネーブルメントの重要な役割です。

自分のコントロールできる範囲のことから、小さな行動を1つ起こすように後押しする……この場合、Bさんの言動がまさにイネーブルメントです。

「イネーブルメントを学ぶ」時は、このような例を共有しながらもしこれが自分だったらどういうふうに関わるだろうか、といったことを考えていきます。
概念でわかったつもりになるのではなく、実際にどのような行動が必要か、を具体的に整理してアクションとして自分の中に取り込んでいくことで、実際に動けるようになるのです。

今日のまとめ

  • ピープル・イネーブルメントの進め方は
    ①これまでの管理方法との違いを理解する
    ②メンバーの段階を見極める
    ③実践する の3ステップ
  • 想いの内容に解釈や評価を交えず、ただ受けとめて理解する「聴く」が重要
  • 実際に学ぶときには例を共有しつつ「自分だったらどうするか」を具体的に考えていく

社員一人ひとりの可能性を拓く挑戦を育み、社員と組織の成長を実現するために、すべての管理職に身に付けてもらいたい「ピープル・イネーブルメント」。
本プログラムについてさらに詳しく知りたい方は、以下のバナーをクリックしてください。ご不明点やご質問は、お気軽にお問い合わせください。

▼▼▼いま管理職が学ぶべきイネーブルメントとは?詳しく知りたい方はこちらをクリック▼▼▼

関連記事