挑戦者は一日にして成らず

管理職が変われば組織が変わる イネーブルメントという考え方(2)

2025年5月20日

管理職が変われば組織が変わる イネーブルメントという考え方

(1) 挑戦する組織に欠かせない「イネーブラー」という存在
(2) 挑戦者は一日にして成らず
(3) 従来型のマネジメントが新しい価値創造を阻害する?

前回の振り返り

  • 価値創造のためには「挑戦する人」と「支援する人」の両方が必要
  • 挑戦を実現可能にし、その後ろに新たな挑戦が続いていくためには、創造的な「組織文化」が必要
  • 2012年から始まった「越境リーダーシップ」プロジェクトは国の研究機関や企業の実践者と共に価値創造のリーダーシップについて研究を重ねており、『価値創造イネーブルメント・パターン』という体系化した研究成果がある

前回の記事では価値創造のためには「挑戦する人」だけでなく、「挑戦を支援する人」が必要で、挑戦と支援の相互の関係性こそがこれからの「挑戦する組織」の文化を作っていくことが可能になる、というお話をしました。

第2回目は、「では、どのような人が挑戦者になるのか」というテーマでお話します。

特異な資質や能力を持つ人だけが挑戦者になるのか?

そもそも何かに挑戦する人は、初めから新しいことを創り出す能力や素養を持ち、挑戦する力を絶えず発揮することができる人なのでしょうか。
もちろん、「知らないことにチャレンジすることに抵抗が少ない」「新しいことを考えるのが好き」といった個人の志向は、挑戦に影響します。
しかし、突出した才能を持つアーティストや発明家ではなく、組織に属して働く立場の人々の多くは、最初から特異な資質、能力を持ち合わせた特別な存在ではありません。

私たちの実践研究においても、実際に新規事業を立ち上げ成功させた経験をお持ちの人たちの多くは、最初から大きな志をもっていたわけではありませんでした。
仕事を通じてさまざまな経験や何かを考えさせられる出来事と出会い、ちょっとした想い、違和感、アイデアを言葉にしていくなかで、支援してくれる人の後押しを得て、少しずつ行動に移し、協力し合える仲間とつながっていく……初めは小さな一歩だったのが、さまざまな行動や体験を経て、「覚悟を持って新たな価値の創造に挑戦する人」に成長していったのです。

今回の記事のタイトルでもありますが、実に「挑戦者は一日にして成らず」
一人の人間が意志を持った価値創造の挑戦者・実践者に成長するまでには、いくつもの段階を経る必要があるのです。
私たちはそれを4つの段階(ステージ)で整理しています。

最初は無意識から。意志と覚悟を持った挑戦者への長い道のり

実践研究で明らかになったことですが、挑戦者のステージ(段階)は固定ではなく、段階を経て、変化していきます。
私たちは、この変容の過程を4つの段階に分け、「挑戦者の変容ステージ」として、下図のように定義しました。

ステージ0【無意識】

危機意識がない、あるいは変化を諦めていたり、割り切って働いている状態。

ステージ1【意識】

課題意識はあります。何かを変えないといけない、このままではいけない、と思っています。しかし、自分が何をしたいのか、自分のテーマが明確になっていません。「会社がこうだから難しい」などと、動けない理由を他責にしてしまいがちです。

ステージ2【意欲】

自分なりのテーマ、アイデアを持っている人です。
アイデアを行動に移し、越境し、社内外に仲間をつくり、仮説検証を行う、といったことを自覚的に進めていくことができます。

ステージ3【意志】

自分なりのテーマ、アイデアの解像度が上がってきています。
確信と覚悟を持って事業構想の実現に向けて動いていくことができます。
この段階では、多少の苦難や障害があっても乗り越えていく情熱と行動力があります。

実は社員の平均8割はステージ0あるいは1に属している

みなさんの組織では、どの段階の社員が一番多いと思われますか?

成熟企業と呼ばれる組織の経営層30社に各ステージの割合をインタビューしたところ、このような平均値が出ました。

無意識
(ステージ0)
意 識
(ステージ1)
意 欲
(ステージ2)
意 志
(ステージ3)
20% 60% 15% 5%

あくまで経営層の方の肌感覚を基にした直感的な割合ですが、これが実態に近いとすれば、実に平均8割の社員が無意識あるいは意識はしているものの、何をどうしたらよいかはわかっていない、という段階にとどまっているということです。

このような段階にいる人たちに、いきなり「新しい事業を創造しよう、挑戦しよう」とメッセージを出しても、期待通りの動きは得られません。
だからといって、このステージにいる人たちは新しい挑戦ができない人たちかというと、そんなことはありません。

日常の業務をきちんと遂行するために、自身の内なる想いや課題意識に蓋をして仕事をしている人は多く存在します。課題感はありつつも、周囲とそのことについて話す機会もなく、自分の中にある小さな芽を育てられないままの人もいます。

そのような状態の人たちが自分の中にあるものに気づき、行動をとれるようになるためには、管理職が一人ひとりの段階(ステージ)を見極め、それに合わせた働きかけをする必要があります。

次回は「価値創造が生まれる組織になるためには、まず管理職が変わらなくてはならない」というテーマでお話します。

さっそく読む

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今日のまとめ

  • 特異な資質や能力の持ち主だけがチャレンジする人(挑戦者)になるわけではない
  • 挑戦者は「無意識」「意識」「意欲」「意志」という4つの段階(ステージ)に分けられる。段階(ステージ)は固定ではなく、行動や体験を通じて変容していく
  • 管理職は社員一人ひとりの段階(ステージ)を見極めて働きかけていく必要がある

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