管理職が変われば組織が変わる イネーブルメントという考え方
(1) 挑戦する組織に欠かせない「イネーブラー」という存在
(2) 挑戦者は一日にして成らず
(3) 従来型のマネジメントが新しい価値創造を阻害する?
(4) イネーブルメントは「よく聴く」ことから始まる
前回の振り返り
- 特異な能力の持ち主だけがチャレンジする人(挑戦者)になるわけではない
- 挑戦者の意識はさまざまなきっかけにより変化していく。変化の段階(ステージ)は「無意識」「意識」「意欲」「意志」という4つがある
- 管理職は社員一人ひとりの段階(ステージ)を見極めて働きかけていく必要がある
前回の記事では、挑戦者の変容ステージには4つの段階があり、成熟した組織の社員の概ね8割が、課題意識がない、あるいは課題意識や挑戦したい気持ちはあるが自分からは動けていない、という段階にとどまっている可能性があることを見てきました。
今回は、「価値創造が生まれる組織になるためには、まず管理職が変わらなくてはならない」というテーマについてお話します。
これまで蓋をしてきたものを開いていく必要がある
日本企業の多くは「成熟企業」と言われており、既存事業を守るために維持・深化しつつも新規事業の機会を探索し、市場の変化に対応していくことを並行して推進する、いわゆる「両利きの経営」を求められています。
創造・変革するのは事業だけではありません。事業環境の変化に対応するために、新しい働き方、新しいキャリア設計、新しい組織カルチャー作りにも取り組んでいく必要があります。今や、変化に対応し、挑戦していくことは、一部の組織やメンバーに限らず、「全員」に求められています。
事業と連動した望ましい未来に向けて、全員が取り組んでいける状態を作る必要に迫られているのです。
一方で、既存事業で成果を上げてきた管理職は、安定を重視し、目標達成を効率よく実現する業務遂行のマネジメントスタイルを築いてきました。
しかし、変化に適応し、新たな事業成長の機会を創る、という不確実な挑戦をしなくてはいけないタイミングにおいて、従来の管理手法をとってしまうと、どうなるでしょうか。
メンバーは定められた役割にとらわれず、個々人のアイデアや多様な視点を持ちより、試行錯誤を重ねることが求められます。つまり、不確実性やリスクを伴う挑戦に向かう必要があります。しかし、管理職が「良かれ」と思って従来の管理行動をとると、その動きを妨げるどころか、止めてしまう恐れさえあるのです。
日常業務を効率よく回すことを優先し、個々人のささいな疑問やアイデアにもならないような思いつきに蓋をして、「正しく」仕事を進めてきたメンバーがいるとします。旧来型のマネジメントが強く働いている組織では、メンバーが自ら蓋をした想いは外に出ることはなく、同僚や管理職が気づく機会もありません。
しかし、これからの管理職は、一人ひとりが抱いている想いを表現できるように、閉じているいくつもの蓋がおのずと開かれる関わり方や場づくりをしていく必要があります。個々人の小さな思い付きや創造性の芽を育て、引き出し、組織の価値に変えていく、という役割です。
これからの管理職が果たすべき役割とは?
これからの時代、管理職は新しい事業に挑戦する人だけでなく、現業を担う人達に対しても、あらゆる場所で個人の想いを育み、行動を支援する役割を担う必要があります。従来の「管理者」から「イネーブラー」へと役割を転換するのです。私たちは、この考えを『ピープル・イネーブルメント』と名付けています。
では、管理職が挑戦する人を支援し、組織全体で新たな価値創造を推進するイネーブラーとして機能するためには、どのような行動が求められるのでしょうか?
- 心理的安全性の確保
- 挑戦者の発掘と支援
- 組織文化のアップデート
これらの取り組みを通じて、管理職が「挑戦を支援する存在」となれば、組織全体の文化も変わっていくでしょう。
これらは今までの管理手法とは異なる、新たなアプローチです。
いきなりすべてを変えるのではなく、まず管理職の方々に『ピープル・イネーブルメント』という考え方を知ってもらい、どういうステージのメンバーにはどういう働きかけが有効かを学んでもらう必要があります。そのうえで、メンバー一人ひとりの状態に応じて、適切な関わり方を選択してもらいます。それが現業と価値創造の両方へ対応していくことにつながります。
次回は、「『ピープル・イネーブルメント』を学んでいただく場合の進め方」について詳しくお話します。
今日のまとめ
- 従来型の業務遂行のマネジメントスタイルだけでは、新たな挑戦を阻害してしまう恐れがある
- 新たな価値が生まれるためには、管理職が『ピープル・イネーブルメント』という考え方を学び、「イネーブラー」へと役割転換することが大切になる
- 挑戦を促す管理職の行動として、「心理的安全性の確保」「挑戦者の段階(ステージ)の見極めと支援」が重要。結果として「組織文化のアップデート」につながる