【変化の時代の人と組織のツナガリを考察するシリーズ】第7回 グロースリーダーについて

2021年2月16日

リーダーシップの視点でエンゲージメントを紐解いた『変化の時代の人と組織の繋がりを考察する~リーダーのためのエンゲージメント』シリーズを【全8回】でお送りします。

本シリーズは、エンゲージメントの心理的なメカニズムを原点の論文までたどって考察することから旅を始めました。その後チームメンバーのエンゲージメントを左右するリーダーシップの重要性の認識を踏まえ、リーダーに求められる5つの行動要件をご紹介しました。

第5回では特に、リーダー自身のエンゲージメントについても検討しました。リーダー自身が「リーダーという役割」とのしっかりとしたツナガリ[1]を確立していなければ、チームメンバーのエンゲージメントどころではないのは明らかだからです。その上で第6回では、私たちウィルソン・ラーニングが、「グロース リーダーシップ(growth leadership)」という新しい考え方を提案していることをご紹介しました。これが、リーダーという役割とのツナガリ方の、現代という時代にふさわしいあり方だと、私たちは考えるからです。

今回は、このグロース リーダーについて、もう少し詳しく見ていきましょう。

グロース リーダーとは何者なのか? 何をする人なのか?

「グロース リーダー」とは何者なのでしょうか?

それを知るには「成長(growth)」とは何か、について考える必要があるでしょう。「仕事における成長(growth)」とは、いったいどういう状態を指す言葉なのでしょうか?

まず、個人個人のスキルや知識が、組織の仕事に堪えるものでなければお話になりませんから、これらを強化することが「成長」の第一条件と言ってよいでしょう。

ですが、本格的に職務に携わると、仕事の様相が変化してきます。業務が高度に、かつ複雑になり、どんなに有能な人でも、一人だけで完結するタスクは少なくなるのです。

したがって、この段階になると、「一人ひとりが幅広い視野を持ち、周囲の人と協働し、経験からどんどん学ぶことができること」が「成長した姿」として当面の目標になるはずです。ここまで達すれば、誰もが自律的に、さらに高いレベルへと成長していくこともできます。

グロース リーダーは「自他共に成長を目指す」リーダーですから、そのような「誰もが自律的に、さらに高いレベルへと成長する」状態を目標にするべきなのは言うまでもありません。しかし実のところ、これは「言うは易く行うは難し」とも言うべき仕事です。

特に構成されたばかりのチームの場合は(互いに初対面ではないにしても)、メンバーたちが、いわばバラバラの分子のような状態で集まっていることが多いはずです。

さらに、昨今のように厳しい経済環境の下では、メンバーの心理は「内に閉じこもり」がちになりますし、最近はリモート・ワークも加わって、個人はますます孤立感を深めているでしょう。協働により成長を図ろうとしても、無策の状態ではなかなか事態は改善されません。

では、グロース リーダーとなる人は、こんな時に何をするべきなのでしょうか?

グロース リーダーはチームの「ゼロからの成長」を楽しめるリーダーである

実は、ここで途方に暮れないことこそ、「グロース リーダーたるべきゆえん」なのです。

私たちは、このバラバラの分子状態からチームとしてまとまる過程も含めて、すべてのプロセスを「成長」ととらえています。むろん、まとまってから以降も、全員で協調しつつ学んでいくことになるのですが、それ以前の、いわば「原初の段階」さえも、働く人にとっての(そして、もちろんリーダーにとっての)成長段階と考えるのです。

つまりグロース リーダーにとっては、「一人ひとりがバラバラの状態」も貴重な「成長の一段階」であり、「否定すべきもの」ではないのです。リーダーシップを発揮するのに邪魔になる「壁」あるいは「排除」すべきものとは考えません。

この点では、グロース リーダーの第一歩は、リーダーとしての「ものの見方」の変化から始まると言っても良いかもしれません。

当然ながら、このように「時系列」的にチームの成長をとらえるなら、リーダーはチームの発展の各段階で、リーダーシップの発揮の仕方を変えていかなければなりません。その詳細な方法論をご紹介するだけの紙数はありませんが[2]、グロース リーダーとなるには観察力と分析力も問われることになるのは明白でしょう。チームのメンバーが今どんな心理状態にあるかを把握できなければ、それに合わせてスタイルを変えていくことなど、できない相談だからです。

ここで読者のみなさんの中には、「状況対応型リーダーシップ」のような、「置かれたチームの状況によってリーダーは指導やコミュニケーションのスタイルを変化させなければならない」という理論(複数あります)を思い出された方もあるでしょう。グロース リーダーの理論の特徴的な部分を3つご紹介します。

第一に、グロース リーダーには目標とすべき段階があるということです。「状況の変化に身を任せている」わけではなく、現代人の心理から見て「より良い」リーダーシップのスタイルがあるはずだと考えるのです。それは当然「より良い」チームの状況と連動しており、チームが成長すればするほど、リーダーシップもまた望ましいものに近づくと考えます。両者は、いわばシステムとして不可分の関係なのです。

第二の違いは、第一点と関わりますが、グロース リーダーには「時系列」の、それも長期的な時間変化の視点があることです。一般に、状況対応型の理論には空間的な視点はありますが、長期的に「どちらへ向かうのか」という示唆を与えてはくれないのが普通です。その意味でグロース リーダー理論は、チームという「生き物」の変化の方向も織り込んだ、一種の「リーダーシップ進化論」になっていると言えます[3]

最後の第三点は、一見すると第二点と相反するように見える特性ですが、グロース リーダーには、チームがどんな成長段階でも一貫して目指すべき状態に向けての「期待される言動」がある、と考える点です。むろん成長段階が異なればその「見せ方」は変わるべきですが、一点目に示したように、グロース リーダーは目指すべき状態があるのですから、それに向けた言動をとり続けるのは当然だと言えます。

グロース リーダーが目指すのは、全員の「チームとしての責任感」共有

では、ここで言う「グロース リーダーがとり続けるべき言動」とは、どのようなものなのでしょうか?

それは、(当たり前に聞こえるかもしれませんが)何よりまず「メンバー各人に、自分の役割に責任を持って携わってもらうようにすること」です。

責任の所在が曖昧なままで任された仕事は、人が見ていないところでは手を抜いたり、場合によっては途中で放り出したりできるわけですから、真の意味では身につかず、成長の契機にもなりにくいのです。

チームの誰もが「与えられた役割に付随する責任を自覚する」 – これがグロース リーダーとしての、チームの理想像でしょう。

とはいえ、責任を「押し付ける」のでは嫌気を誘い、かえって逆効果となってしまいます。各人が、自分、チームや組織、できれば社会にとって「その役割は、どんな意義や価値を持つのか」というところまで納得しなければ、本当の責任感は生まれません。押し付けでは「やらされ感」が高まるだけです。

役割と責任を「しっかり納得する」というのは、「いつでも自分の言葉で説明できるようになっている」ことと同義と考えてよいでしょう。英語では、このような「自分の仕事上の役割や職務についての責任意識」を、self-accountability(直訳すれば、自分<の職務>を説明できること)と呼ぶことが多いのです。なぜなら、accountには、forを伴って「説明する」という語義があるからです[4]

こうした「自己責任の認識(self-accountability)」を、メンバー一人ひとりに持ってもらうように工夫/努力するところから、グロース リーダーの仕事は始まると言えましょう。

ただし、各人が自らの役割に対して「個人の責任感」を持ったとしても、いきなりチーム全体の成長に直結するわけではありません。各人が自分の名目上の責任範囲だけに過剰にとらわれたら、チームワークもままならなくなりますし、そうなると、かえって個々の役割もうまくこなせなくなります。個人も成長どころではありません。

現代の組織の中で、一人だけで完結するタスクはまれで、多くは複数のメンバーから成るチームで遂行されるはずです。営業職など一人ひとりの業績が特に注目される職種や役割でさえ、チーム内での互いのサポートや他部門、たとえば技術部門との強い連携がなければ、業績もなかなか上がらないでしょうし、最近は、ますますその傾向が強まっているはずです。

すなわち、当然といえば当然ですが、グロース リーダーが目指す責任感とは、「メンバー全員が共通に持つべき、チームとしての責任感」なのです。

グロース リーダーは一貫して何をすべきなのか?
ー3つの基本

では、「チームとしての責任感」を醸成するには、どうすれば良いのでしょうか?

もちろん、最終的にはチームメンバー個々人の性格や心理を考慮しなければなりませんが、その前提となる「チームの風土」を整える必要があります。個人主義優勢の風土では、いくらていねいに個人に働きかけても「このチームでは協働は無理だ」と考えられてしまうでしょう。言い換えると、リーダーは「責任感を共有するための風土的な土台」あるいは「文化的プラットフォーム」を創り、維持しなければならないのです。

そのような「チームの土台」を創り上げるために、グロース リーダーが一貫してなすべき事柄は、次の3つです:

1. 協働の風土を築く
これがチーム構成の前提になるのは明らかです。とはいえ「協働しろ」と呼びかけるだけでは風土は生まれません。チーム内での意思決定方式などを、徹底的に見直す必要があります。少なくとも、私たちが「ヒロイック・リーダー」と呼ぶタイプの、なんでも一人で決めてしまうリーダーでは、こんな風土が生まれにくいのは確かです。
2. 共有のビジョンを創る
チームのメンバーで共有できる「チームのビジョン」を創らなければ、足並みが揃いません。ただし、単に全員が「当たり前だよね」と納得する程度のビジョンでは不足です。一人ひとりのメンバーの心理と結びつけていかなければ、ビジョンは有効に機能しません。
3. 相互に影響を与え合う
難易度は多少上がりますが、チームメンバーが相互に良い影響を与え合わなければ、一人ひとりの成長も難しくなります。とりわけ互いに意見が合わないメンバーがいる場合には、リーダーの腕がものを言います。意見のギャップをお互いの成長のきっかけにさせるのです。

以上、ほんの概要だけをご紹介しましたが、グロース リーダーは、チームの成長のどの段階であっても、メンバーの責任感を維持するために、常にこの3要素を心がけなければならないのです。

まとめ:グロース リーダーからエンゲージメントへ

本シリーズを貫くテーマは、「エンゲージメント」ですが、本稿はほぼ「グロース リーダー」論に終始したので、なんだか脱線したように感じられる読者もいらっしゃるかもしれません。こんな形にした理由の一つは、(第4回にご説明したように)エンゲージメントを良好なものとするにはリーダーシップの見直しが重要となるため、ある程度集中してリーダーシップについて論じる必要があったからです。

ですが、実は、グロース リーダーはチームメンバーのエンゲージメントの面でも、「切り札」となり得るリーダーシップ・スタイルなのです。その点は、次回の記事でご紹介したいと思います。

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