リアル&バーチャル統合時代のコミュニケーション(4)

2020年7月7日

リモートの営業活動について考える(後編)

前回に続き、「リモートの営業活動」というテーマでメンバーたちの会話は続いています。今回でリモートシリーズは最終回。テーマの性格上、ネットワークを介したコミュニケーション全般について扱った第1回の内容なども適宜振り返りつつ、バーチャル時代の営業について考えていきます。


四季さんという、30代前半の営業チームのリーダーが率いる4人の若手メンバーの営業活動は、リモートによるものが大半になっていて、チームの営業戦略のディスカッションも、やはりWeb会議です。そこで自然に「リモート環境のチームとは、営業とは?」という話題で議論が盛り上がり、四季さんが自らの知見を披露するという形で、会話をリードしています。
ちょうど今、四季さんが「お客さまとのコミュニケーションで注意すべきこと」というテーマで話をしていて、何かを例示するため、ドキュメントのシェアを始めているところです。何を話そうとしているのでしょう? チームの会話を聞いてみましょう。

(四季さんがWeb会議システムで何かの資料のシェアを開始します)


四季:皆は、これ、どう思う?

春永:ひどく読みづらいなあ、スライドにしては図がなくて、びっしりと細かな文字ばかりですね。

夏木:それに、文章がまだるっこしいな……。どれも、もっと短くできると思うわ。私、添削してあげようかしら。

冬崎:誰ですか? こんなスライド作るなんて、きっと社会人1年生の駆け出しね。

四季:(笑)これ、私が先週、プレゼンのアイデアを、思いつくまま書き連ねたものなんだけどね……。

(全員、ただ沈黙)
(ついで四季さんが別のスライドを画面に出します)

四季:これは、どう思う?

全員:わかりやすーい!

四季:実際のプレゼン用に書き直したもので、内容は先程のものと同じよ。構造化した上で、ダイアグラム化できる部は図にして、もちろん文章も簡潔なものにして並べたわ。強調すべきワードを太字化したり、色変えもしたり……。どう?

秋本:パッと目に入ってきますし、全体の意味もすぐにわかるな。

春永:確かによく読めば両者は同じ内容だとわかるけれど、印象が違いますね。特にネット越しだと、2枚目のものくらはっきりしていないと、わかりづらいですね。

夏木:どの文も簡潔で、言い回しもインパクトがあるわ。

冬崎:さすがはリーダーですね。

四季:みんな、全力フォローありがとう(笑)。わかったでしょう? リモートの営業の場合、このスキルがますます大切になるの。

TIPS:リモートの場合、資料作りの基本スキルの重要性が高まる

営業担当者にとって、自分たちの提案を適切に伝えるための資料の作りのポイントを知っていることは以前から重要でしたが、リモートの場合、このスキルがさらに重要になります。
リーダーの四季さんが話したように、営業担当者側の会話は短めに、しかも構造化した方が良いのと同じように、提示する資料も、明快でわかりやすい文章、一目で意味がわかる図像、正確だがシンプルなグラフなどで、お客さまの「認知的負荷」と呼ばれるものを軽減して理解しやすくしなければなりません。さもないと、特にリモートの場合、お客さまの疲労を招いて注意力を削ぐ結果にもつながりかねません。
また、リアルな会話と違って、体の動きや声の大小などを使って、強調したりトーンを変えたりすることが難しくなるので、ドキュメントや資料が与えるインパクトに、より注意を向ける必要があるのです。
さらに今後、Web会議だけではなく、チャットやメール、ブログなどを介してのお客さまとのコミュニケーションが増加するのは間違いないことを考え合わせると、営業担当者は、文章力、図解力、そしてデータなどのビジュアル化のスキルを、ますます磨いていく必要があると言えそうです。
以上のことから米国などでも、営業担当者のWritten Communication(文書によるコミュニケーション)の能力強化の必要性に注目が集まっています。

冬崎:大変だわ、喋る方も明快にしなくちゃならないだけでなく、資料作りまで、そうなるんですね。

夏木:「後で資料を送ります」じゃダメなのか……。

四季:あなたたち、細かい資料を会議後に送られて、それが必ずしも必要じゃないものの場合、じっくりと読む時間がそうそうある?

夏木:ない……ですね、確かに。会議の場で強い興味や関心が生まれたら、忙しくてもなんとか時間を作って、と思いまけど。

四季:だからこそWeb会議でも、面談の場でのインパクトが大事なのよ。

冬崎:インパクトといえば、私たちの商品やサービスも、リモートとなると、直接はお見せできませんね。

四季:そう、だからビデオを使ったり、ホームページ上のカタログを使ったりして、工夫が必要になるわね。今、そのたりを開発チームと検討しているけれど、みんなもデジタル世代ならではのアイデアをどんどん出してね。

秋本:他に注意した方が良いことってありますか?

四季:そうね、さっきもマイクのハウリングの話をしていたけれど……。

TIPS:ネットワークのトラブルに備える

リモートでの営業で特に怖いのが、機器の故障やネットワークのトラブルです。もちろんこれは、チーム内の会議でも問題になりますが、お客さまとの大切な会議中に障害が発生した場合、せっかく作った良い流れをだいなしにしかねません。何か起こったら早急に、しかも営業担当者主導で障害に対応すべきです。
では、具体的にはどうすれば良いでしょうか?
少なくとも、バックアップの手段を用意しておくことが必要でしょう。たとえば会議にPCを使っていたら、いつでも切り替えられるようにスマートフォンを準備しておく、ネットワークも違う回線が使えることを確認しておく、充電切れの際の手配をしておく……といった、想定可能なさまざまな場面に備える「二の矢、三の矢」を確保しておき、万が一の場合でも、パニックに陥らないようにしなければならないでしょう。
機械は一定の確率で必ず壊れるものです。油断をしないようにしましょう。

秋本:なるほど、こちらがパニックになって、代替策も考えつかずにいる姿を見せたりしたら、営業担当者としてはもちろん、課題解決のパートナーとしての信頼度も低下しますよね。

四季:その通りね。そもそも私たちが提供している「ソリューション(solution)」というのは「解決策」という意味ですものね……。いずれにしても、秋本さんが今言ったように、リモートになっても、いえ、リモートだからこそ、お客さまの「課題解決のパートナー」としての信頼感を高める工夫が、いろいろな点で必要になるということかしら。

春永:相互の信頼関係を確立してお客さまのニーズをしっかりと深掘りし、その上でインパクトのある解決策の提案をする、その際、お客さまの満足度を常に把握しておく……リアルと同じと言えば同じですね。

四季:その通りね。ただしリモートの場合、「課題を解決するためのお客さまとの協調的コミュニケーション」に焦点を当てること、言い換えると、信頼関係の確立も含めてより意識的にコミュニケーション・スキルを使いこなすことが必要になる、と言えそうね。今述べた機械のトラブルへの対応だって、お客さまとの良いコミュニケーションをいかに継続するか、という問題だと捉えれば、広い意味でのコミュニケーション・スキルに含まれると考えられるんじゃないかしら?

冬崎:そうですね、私の体感的にも、これまでより、コミュニケーション・スキルの重要性が高まっている気がします。

春永:確かにそうだな。アクティブ・リスニングもその一つと考えられるわけだしね。暗黙の了解には頼りにくくなってきたということかな。

四季:コミュニケーション全般の論理的な明快さと同時に、そのインパクトや説得性を高める努力が、さらに必要になるということね。
要するにデジタルになったことが、営業活動の「コミュニケーション的側面」をさらにクローズアップしたと言えるんじゃないかしら。みんなも、そのスキルを磨いてちょうだいね。

全員:はい。


四季さんたちのチームの営業戦略ミーティングはこの後も続いていきますが、「リモート・ワーク時代のビジネス・コミュニケーション」についての話題は終わったようなので、私たちはこの場を離れましょう。

リモート・ワークの技術は日々進化し続けています。新たなテクノロジーが出現して働き方がガラッと変化することもあるでしょう。

もちろん、テクノロジーの進化と並行して、それらについての労働心理学や労働医学の方面での研究も進んでいますし、脳科学者による研究も徐々に始まっています。

そんな努力のおかげで新たな成果が現れたら、読者のみなさんや、もしかすると四季さんのチームのみんなと再び共有させていただくことにして、本シリーズはひとまず終了したいと思います。ご一読ありがとうございました。

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