リアル&バーチャル統合時代のコミュニケーション(3)

2020年6月30日

リモートの営業活動について考える(前編)

今回も、第1回第2回に引き続き、リモート・ワークが必須となった時代、つまりこれからの世界のコミュニケーションについて考えていきます。

これまでと同様、仮想の営業チームに登場してもらい、彼らの会話の中から有益な知見をTipsとして取り出す形で、上のテーマについて考察を進めていくことにします。

今回は、「リモートの営業活動」というテーマでメンバーたちに語ってもらうことにしましょう。テーマの性格上、ネットワークを介したコミュニケーション全般について扱った第1回の内容なども適宜振り返りつつ、バーチャル時代の営業について考えていきたいと思います。


四季さんという30代前半の営業チームのリーダー(彼女は会社の会議室にいます)が率いる4人の若手メバーが、Web会議システムを使ってチーム・ミーティングを始めています。
四季さんと春永さんだけがフィスにいて、他のメンバーが社外から参加しています。リモートからのアクセスは、まあまあのようです


四季:さて、今お話ししたようにリモート営業の増加に合わせ、チームの営業戦略の見直しが必要なのですが、その前に、みなさんのリモートでの営業の状況は、どうなっているかしら?

冬崎:私から先に言いますと、90%くらいがリモートになっています。まだ、リアルに戻そうという話はあまり出ませね。

春永:それは多いな……。僕の方は4割くらいかな。一時はもっと割合が高かったけれど、最近は元に戻してくれというおさまが結構いるよ。

夏木:私のところも、戻す動きはないではないけれど、割合は依然として、冬崎さんと同じくらいかな、たぶん7、8割リモートね。

秋本:僕も、夏木さんや冬崎さんと同じだな。ということは春永が例外かな。

四季:理由はわかるわ。春永さんのお客さまは、長年のおつき合いの方が多くて、平均年齢が高いのよ。もちろん、年だけでバイアスをかけてしまってはよくないけれど、いろいろな調査結果を見ても、年長の方ほどリアルな商談に早くしたいという志向が強いと出ているわ。やはりテクノロジーは使えても、心理的に「こんな商談で意思決定していいんろうか」という疑問や抵抗があるようね。今後、こうしたお客さまの心理傾向も頭に入れておいた方がいいわ。

秋本:つまり、年長の方は、バーチャルでは「落ち着きのなさ」「不満足感」「隔靴掻痒の感じ」などを抱いていらっゃるかもしれない、ということですか。

四季:ええ、でもね、若いお客さまでも、たとえば「自分が使い慣れたWeb会議システムに変えたい」といった隠れたニズをお持ちかもしれないから、私たちは、世代がどうということではなく、どんな場合でも、「相手」の満足感の再確が常に必要だと思うわ。

春永:リモートで、相手の「会議に対する満足度」を知るにはどうすればいいでしょう?

四季:そこで、またこの会議の最初に話した(本シリーズ第1回)の「親密な相互の信頼関係」の確立に話が戻るの。して、これは「バーチャルな商談の手応えを高めるには?」という話題とも関連している。

夏木:確か、Web会議では、表情や体の動きが伝わりにくいため相手の心情が掴みづらくなって、相互の信頼関係を築きげにくい……でしたよね。

四季:ええ、それにさっきは話さなかったけれど、ネット越しでは音声も潰れてしまって、声の表情が掴みづらいことあるでしょう?

冬崎:ブツブツ切れたり、高音が強調され過ぎたり、逆に低いダミ声みたいに聞こえたりすることもありますね。そうえば、この前は、マイクが謎のハウリングを起こして困りました。PCやスマートフォンの機能の問題かな。

四季:いずれは技術的に解決されるはずだけれど、当分は、この環境を最大限に活かすしかないわね。
そしてこのチーム内のように、ふだんから親しい間柄ならともかく、相手がお客さまの場合、信頼関係の確立しにくさ余計に際立つし、それでいて解決しなければ商談に入ることさえできないのは、わかるでしょう?

春永:会議の最初に指摘された「不信」の乗り越えですね。

TIPS(簡単な復習):「不信」の乗り越え

営業プロセスの最初の段階で確実にしたいのは、お客さまとの「親密な相互の信頼関係」で、一言で言えば「お互いに心情を吐露し合える人間関係」です。
これは、もともとカウンセリングに由来する考え方ですが、現在ではさまざまな人間関係づくりの基礎として、広く参照されるようになったコンセプトです。
ビジネスの関係とはいえ、営業担当者は、お客さまと一定の信頼関係を築かなければそのニーズを的確に把握できません。というのも、ちょうど氷山のように、表面的な会話の奥底に、本当に解決すべき重要な課題が潜んでいることがあり、その点にお客さま自身も気づいていないケースが、よく見られるからです。この「海面下の巨大な氷の部分」を掘り起こし、立体的に捉えるには、お客さまと営業担当者との信頼関係に基づく会話による、いわば「共同作業」が必要不可欠なのです。

春永:じゃあこの場合も、先程話された(本シリーズ第1回)「アクティブ・リスニング」で相手の心情を引き出したり、やや大きめのジェスチャで相手にシグナルを送ったりするのは有効ですね。

四季:もちろん。お客さまには意識して多めに使ってちょうだい。ただし、あまりにも「取って付けた」ようなのはダメよ(笑)。

TIPS(簡単な復習):「アクティブ・リスニング」

「アクティブ・リスニング」は積極的傾聴と訳され、話者の心の奥底の思考や感情を引き出すための「聴き方」です。言い換え、反復など多彩な方法論を含みます。これも由来はカウンセリングですが、やはり今では面談やコーチングなどに広く利用されています。

春永:なるほど、それがさっきの話につながるのか……。お客さまが現在のリモートの会話に満足されているかどうかにいても、相互の信頼関係がない状況では打ち明けていただきにくい、ということですね。

四季:「営業活動の第一歩は、相互の信頼関係づくり」と言われるのは、そういうところにも理由があるの。不満や「うしてほしい」を打ち明けていただければ、改善して、さらに強固な関係を築くことができるけれど、そう言ってもらることがなければ、いつまでたっても平行線の関係になりかねないから。

秋本:お客さまだって、親密な関係がない相手に「これ、言ってしまっていいのだろうか?」と遠慮されますよね。

夏木:だけど、その「人間同士の信頼関係作り」そのものが、リモートではリアルな商談の場合よりも難しいんでしたね。

四季:ええ。でも、それは先程ある程度話したから(第1回参照)、今日は営業担当者ならでは、の話をしましょうか。

全員:お願いします。

四季:第一に、業界によらず、営業担当者の基本姿勢は「売らんかな」じゃなくて、「まず、お客さまのニーズを把握る」であること、これは、いいわね。

春永:ええ、それは先日の講習会で学んだものでした。

四季:リモートでは、より意識的に、それを守らなければならないの。

春永:どういうことですか?

四季:特に初対面だと、どうしても自分や自分の会社、商品/サービスの売り込みをしたくなるでしょう? すると相のニーズを把握することが後回しになりやすい……。

秋本:リアルでも、それを避けろと戒められていますね。

四季:ところがね、リモートの場合、相手の反応が読みにくくて不安になるせいか、こちらのアピール・ポイントを何か売り込もうとして、余計に力が入りやすい傾向があると言われているわ。

冬崎:なるほど、相手の表情が動かないのを見て、こちらに無関心なのではないかと心配になるんですね。

四季:特に初対面の場合、もともとこちらに不安感があるから、なおさら売り込みに必死になりがちなの。

春永:では、できるだけお客さまのニーズの把握に比重を置くべきなんですね。

四季:そうね。それを相手に印象付けるくらいにした方がいいと思うわ。

夏木:相手に印象付ける、ですか……。

四季「この営業担当者は、いつも本気で相手の課題の解決を目指している人間なんだ」という、しっかりしたイメーを持っていただくこと。もっとも、みんなが本気でそう思っていないんだったら、ダメだけれどね。この点はリアルな業活動でも重要だったけど、リモートの場合はコミュニケーションに制約が増える分、さらに意識的にならなければダだと思うわ。

春永:そのためにアクティブ・リスニングなどを使うんですね。

四季:そう、ニーズ把握があってこその解決策よ。さもないと、いわゆる「砂上の楼閣」になってしまうでしょうね。

夏木:他に営業担当者が注意すべき事柄ってありますか?

四季:あるわよ。たとえば秋本さん、あなたのお部屋、本が多いのはすばらしいけど、パーティションか何かで隠したうがいいわね。少なくとも、映る範囲には背表紙のタイトルを読みとりにくいものを揃えたほうがいいと思う。お客さの気が散るかもしれないし、趣味が合わないと思われるかもしれないから。

秋本:わかりました、たいていは会社の会議室を使っていますが、自宅でアクセスする際には気をつけます。……他にはりますか?

四季:さっき話したことだけど(本シリーズ第1回)、会話の際、こちらの話は構造化して一つひとつの「単位」を短にすること、つまりお客さまが話を理解しやすく、質問を挟み込みやすくすること。
こうした配慮には、お客さまの注意を逸らさない効果もあるわ。話が長くなり過ぎると、Web会議では相手の話への集中なかなか続かないことは、これも最初に話したでしょう? インタラクティブに進めていかないと、お客さまの注意がかなくなってしまう。その意味で、適宜「ここまでで何かご質問があればお願いします」といった問いかけの言葉を、るさくならない程度に挟むのも効果があるかな。

春永:そういえば、こちらが話し過ぎるとお客さまの視線が逸れてしまい「あれ、内職をなさっているのかな?」と思れる場合もありますね。

四季:そうでなくても、相手方のPCやスマートフォンには、メールやチャットボット、電話がどんどん入ってくるでしう? 気になって仕方ないのは当然だと考えるべきね。

夏木:他にリモート営業で特に気をつけるべき点がありますか?

四季:そうね。これは営業スキルというより、リモートのコミュニケーション全般について言えることなんだけど……。

(そう言いつつ、四季さんはWeb会議システムで何かの資料のシェアを開始します)

四季さんは何を説明しようとしているのでしょう?……次回に続きます

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