新たな価値創造が進まない理由とは?
価値創造、イノベーション、などの言葉がもてはやされて久しい昨今ですが、組織にとって新たな価値創造は必要不可欠です。それは、先の見えない不確定な時代において、従来のビジネスモデル(これまでの成功体験)だけに頼り切り新しいチャレンジを避けていては、いずれ衰退してしまうことがわかっているからです。
しかし、イノベーションや価値創造を銘打った組織を発足したり、新規事業のアイデアを全社員から募ったりしても、なかなか魅力的な案は出てこない。そもそも変革を担う人材自体が少ない……そういったことでお悩みの組織が多いのが実情です。
それもそのはず、そう簡単に新たな価値など生まれるものではありません。
さらに、個人の思考や行動も急に切り替えられるものではありません。
一口に「新規事業」「新たな価値創造」と言っても、範囲が広すぎて何をどう考えていけばよいかわからず混乱することも多いでしょう。また、会社から任命されたという動機だけでは、次々と出会う困難を強い意志で突破し続けることが難しいかもしれません。結果として新規事業の実現に至らない、一過性の、あるいは尻すぼみな取り組みで終わる、などの経験はどの組織もお持ちかもしれません。
そのような中で、自らの価値創造や変革への強い想いを持ち、新たな挑戦の実現に向けた道を切り拓こうとする人が1人でも多く増えていくことは、今の日本の多くの組織にとって非常に重要な命題と言えるでしょう。
しかし、危機感や問題意識を持っている人間が勇気をもって立ち上がったとしても、組織の中で一人きりでは何かを始めることすら難しいのも事実です。新しい挑戦を思いついたとしても、具体的な形にたどり着くまでにいくつもの障壁が出てきて、くじけてしまうかもしれません。また、孤軍奮闘している同僚や部下を遠巻きに見つつも、目の前のことに精一杯で手を差し伸べる余裕もないような組織には、挑戦が次々と起こるような文化(カルチャー)はとうてい生まれないでしょう。
誰もやったことのない新しい何かに立ち向かうとき、その目標や志・想いに共感し、支援してくれる周囲の行動や支援があってこそ、人は安心して挑戦することができるのです。
彼らの挑戦を支援し続け、実現可能にするための後押しをしていく人々が出てくることは、実は挑戦する人が生まれることと同じくらい重要なのです。
イノベーション・イネーブルメントとは?
私たちは、挑戦する人を支援する行動のことを「イネーブルメント」、支援行動を行う人を「イネーブラー」と呼んでいます。
挑戦者とイネーブラーの関係性が、組織の中で強化されていくことによって、「挑戦する」ことを恐れない組織文化が生まれてくる。そして、そのような新たな価値を生むリーダーシップと組織文化の開発を統合的にお手伝いする──私たちはそのような取り組みをしています。
「イノベーション・イネーブルメント」とは、新たな価値創造のための「挑戦」と、その挑戦を実現可能にする「組織文化」を作る取り組みなのです。
価値創造リーダーシップに関する共創プロジェクト
「イノベーション・イネーブルメント」の取り組みの背景には、ある研究があります。
それは「越境リーダーシップ」という、2012年にスタートした価値創造に関する共創型実践研究のプロジェクトです。大学・研究機関やさまざまな企業の100名以上に上る価値創造の実践者の方々と、以下の3つのテーマについて共同で実践研究を重ねてきました。
- 価値創造のリーダーシップ
- 価値創造を実現可能にする支援行動(イネーブルメント)
- 創造的な組織文化の要因
組織の中で新しい価値を生み出している人たちやその支援をしている人たちが、挑戦が生まれる環境や仕組みを作り出すために何をしているのか、どのようにしているのかということを研究した結果、その秘訣を『価値創造イネーブルメント・パターン』という4つの領域、36の行動で整理・体系化することができました。
本記事でご紹介するイネーブルメントの考え方は、まさに、そのプロジェクトの中で実際に価値創造を起こす人の支援をしてきた15社15名の方々と2年半の月日をかけて共同研究してきた成果です。現在、この研究に基づいて、さまざまな企業様の挑戦と支援を育む文化の定着のお手伝いをしています。
次回は「どのような人が挑戦者になり得るのか」というテーマでお話します。
今日のまとめ
- 新たな価値が生まれるためには「挑戦する人」と「それを支援する人」の両方が不可欠である
- 挑戦を実現可能にし、新たな挑戦が生まれ続けるためには、創造的な「組織文化」が必要となる
- 2012年から始まった「越境リーダーシップ」プロジェクトは、大学・研究機関や企業の価値創造の実践者と共にリーダーシップや組織文化について研究を重ねており、『価値創造イネーブルメント・パターン』という体系化した研究成果がある