共創の思想が文化圏を越えて伝わった、価値創造の本質の体験

一般財団法人JCCP国際石油・ガス・持続可能エネルギー協力機関
教材・手法開発部
ジェネラルマネージャー 庄崎 肇 様

2025年1月21日

一般財団法人JCCP国際石油・ガス・持続可能エネルギー協力機関の基幹業務の1つである人材育成事業は、日本の石油産業やエンジニアリング産業などが、石油ダウンストリームの経営全般を通して蓄積してきた技術や経験をもとに、産油・産ガス国の人財育成に協力する事業です。
日本の最先端の技術や経験および実績などをふまえた講義・研修を通して日本のビジネススタイルや考え方などについて、産油・産ガス国の要望に応えながら、当機関独自の研修プログラムを実施しています。今回、各国の国営企業の次期幹部候補を対象に行われた英語での研修プログラムの中で、「価値創造カードゲーム/新規事業創出体験プログラム(英語版)」を導入いただきました。

課題・背景

  • コロナ禍を機により質の高い研修が求められ、世界基準の研修教材・研修手法の開発に取り組んでいる。
  • 産油・産ガス国を含む石油産業を取り巻く環境が変わり、石油産業界を超えた事業進出の可能性を探る必要があり、組織改革や人財育成の必要性に迫られている。
  • 共創やイネーブルメントの考え方を海外に伝え、自国の事業創造に役立ててもらいたい。

支援内容

  • 次期経営幹部候補向け人財育成プログラムの一環として「価値創造カードゲーム(英語版)」を提案。
  • 日本と海外の文化による思考の違いを受け止め、入念に議論を重ねて準備を進める。
  • 事業創造の疑似体験と振り返りセッションを通して、価値創造の本質について議論し、気づきから行動変容を促すプログラムを実施。

課題・背景

  • 【Q】どのような課題がありましたか?

石油以外の事業創造に意識を向けるためにゲーミフィケーションを導入

JCCPが実施する人財育成プログラムには、複数国からの参加者によって構成されるレギュラープログラム、国や地域別の特定ニーズに対応するカスタマイズドコースプログラム、産油・産ガス国から日本企業への要請に基づき、企業の協力を得て実施する企業協力プログラムがあります。

コロナ禍による出入国制限を契機に、各国でオンライン教育が急速に普及したことで、安価で手軽に自由な時間に基盤的な教育が受けられるようになりました。産油・産ガス国が日本に人を派遣してまで研修を受ける真価が問われています。従来通りの研修内容の上に、世界の変化のスピードや求めるレベルに対応し、新しい研修教材・研修手法を開発しなければならないという課題がありました。

さらに、世界のエネルギー業界を取り巻く環境の大きな変革期を迎える中、産油・産ガス国営企業は石油に変わるエネルギー資源の研究開発、あるいは新規事業創出に目を向けていかなければなりません。この機に少し先だって、日本の石油企業は事業の多角化を進めております。JCCPは、新規事業創出のための人財育成や組織開発、そして、他分野進出の先行事例について海外リーダーに示す機会を作りたいと考えておりました。
近年は新しい試みとして、従来型の講師が答えを示す一方通行の研修スタイルではなく、実習や議論を通して自ら答えを導くことを主体とした双方向の学習スタイルを取り入れています。さらに、さまざまな企業の協力を得て、環境問題やプロジェクトマネジメントなどをテーマにしたゲーミフィケーション・プログラムを導入しています。

今回、産油国からの要望を受けて、国営石油・ガス企業の次期幹部候補を対象とした英語によるカスタマイズドコースプログラムを実施し、その一部として「価値創造カードゲーム(英語版)」を導入しました。

  • 【Q】なぜ、ウィルソン・ラーニングを選びましたか?

組織を越えた共創と価値創造のイネーブルメントの考え方が研修の目的と一致していた

数年前からウィルソン・ラーニングのプログラムを複数受講しており、企業価値や人財育成に対する考え方が明確であると感じていました。今回、「新規事業創出のための人財育成」というテーマで複数企業のサービスを検討していましたが、ウィルソン・ラーニングが提唱する「個人を起点に組織を越えた共創」と「想いに共感し挑戦を支援するイネーブルメント」の考え方が研修の目的と一致していたことが、導入の決め手になりました。

このウィルソン・ラーニングの考え方の根幹には、個人と組織が一体となって互いに助け合う、日本特有の「和の思想」があり、それが企業経営や人的資本経営に活かされていると思います。これは欧米のコンサルティングとは大きく異なる特徴であり、欧米で学んだ産油国出身者にとって、日本の経営思想を学ぶ貴重な機会になるだろうと確信しました。

ゲーミフィケーションプログラムといっても、我々はお楽しみ目的でゲームをやるわけではありませんから、講演者に根幹となる考え方や核となる思想があり、その本質が参加者に伝わるかどうかが非常に重要です。各国参加者が実際にカードゲームを体験し、新規事業創出の成功ポイント、組織の枠を超えて共創することの意義、日本と海外の相違点や日本の成功事例を自国にどう応用するか、これらを自発的に考えることができるかどうかを見極めました。
プログラムを通じて確立した理念を伝えられる能力は、ウィルソン・ラーニングの魅力であり、ブランド力だと思います。

支援内容

  • 【Q】導入にあたり苦労した点をお聞かせください

失敗を恐れるのではなく、まずは自身が挑戦者となって実行してみる

一人ひとりの持つ能力の違いを知り、それぞれの強みを活かして弱みを補完しながら進めていくという経営思想は、日本人には馴染みのあるスタイルかもしれません。ですが、欧米の経営思想は、優秀な人材が集まって個人の責任で一つの事業を遂行していく、自立独立型です。
個人と組織が一体となって挑戦する価値創造の考え方や挑戦者を支援するイネーブルメントの考え方がはたして中東の参加者に受け入れてもらえるか、不安はありました。

とくに今回の参加者は、国営企業の次期幹部候補としての誇りを持ち、個人主義の土壌で、伝統と経営理念を継いで世界のトップに立とうしている方々です。変革期の中で持続的に成長していくためには、自社だけでは不足している部分があり、自社の弱い領域を示しながら他の企業と補完し合って新規事業創出に向けて挑戦していく必要がある……そう言われても、果たしてそれがイメージできるのか、理解してもらえるのか、非常に不安でした。

しかし、失敗を恐れていても始まらない。まずは私自身が挑戦者となって実行しようと思いました。反省点は改善点として次に繋げ、挑戦を繰り返していくことが大事だと考え、成功に導くためにどのように進行するか、ウィルソン・ラーニングと何度も議論を重ねました。

また、市場全体の動きを見極めながら、与えられた役割を最大限に活かしてトップになるにはどうすればいいのか、この体験を自国に置き換えた時にどう活用できるか、自ら考えてもらう必要があります。「ゲームを楽しみながらも、体験から何を気づいたのか教えてください」と伝え、気づきや自発的思考につながる声かけや雰囲気づくりは意識して行いました。

  • 【Q】導入して良かった点をお聞かせください

価値創造への挑戦とイネーブルメントの概念を伝えることができた

ゲームはあくまでも新規事業創出の考え方を具現化したものですが、新規事業創出のための資金と資源集め、他企業との交渉、事業への挑戦、そして成功あるいは倒産までを擬似体験できます。
運試しのように関連性のない事業を組み合わせても新規事業は創出できません。早い段階で本質に気づけるかどうかが勝負の明暗を分け、ゲームの中でも見事に成功例と失敗例に分かれました。その経験は、実際の事業のシミュレーションとしても大いに役立つと思います。
また、組織の持続的成長を進める上で個人の成長を促す点もマネジメントとして大事な要素です。マネジメント層は各個人の思いを察知し、事業の方向性とのバランスを見極め、その個人の思いを実現させる。そして、各個人はその成功体験を次の挑戦に活かす。組織の永続的成長と挑戦的人財の育成がウィルソン・ラーニングのシミュレーションゲームの要点ですので、このことを各チームの成否を通して伝えられたと実感しました。

ゲームを通して、人的資本経営、既存事業と新規事業を両立させる「両利きの経営」の概念を伝えると共に、個人の想い(WILL)を基に価値創造に挑戦し、その挑戦を支援するイネーブルメントの概念を伝えることができたと思います。

参加者はもともと個人の意志(WILL)は自覚していましたが、メンバー個々人の意志(WILL)を組織全体でサポートし、共に歩み、挑戦するというイネーブルメントの考え方は、新鮮で重要だと認識されたようです。異なる文化圏の参加者同士が、イネーブルメントについて真剣に議論する姿がとても印象的でした。

効果・成果

  • 【Q】どのような効果・成果がありましたか?

自分の想いを他者に伝え、行動を起こす、という行動変容につながった

4週間にわたる人財育成プログラムの中で、いくつかのゲーミフィケーションプログラムを実施しまして、その中でもこの「価値創造カードゲーム」はリーダー向けのテーマとの合致性も高いため、最も高い評価を受けています。

渡航先での研修4週目という、疲労が溜まり集中力も落ちてくるタイミングで実施したにも関わらず高い評価が得られたのは、このプログラムの質の高さを示していると思います。参加者から「集中力のあるもっと早い段階でこのカードゲームを実施してほしかった」という要望もありました。

また、ある産油国の女性の社会進出の推進や組織文化の醸成を担う立場の参加者から、「このプログラムを自国で開催したい」という要望をウィルソン・ラーニングの担当者と議論していました。
このように、研修終了後、すぐに自国での開催について話し合うなど、価値創造において重要な「自分の想いを他者に伝え、できることからすぐに行動を起こす」という行動変容がその場で起こったことからも、このプログラムの真価である、価値創造のリーダーシップやイネーブルメントの重要性が伝わったのだと思います。

今回のプログラムは全体的に参加者にとって非常に有意義だったようで、「日本の研修は素晴らしい。さまざまな国で研修を受けているが、こんなに素晴らしいプログラムは他にない」という高い評価を得られました。

参加者の声(アンケート結果から参加者の声を抜粋して要約)

  • ゲームを通してこれからの事業と組織の成長においてWILLの重要性を理解することができた
  • チームをどう率いるか、他チームとの交渉・協力の重要性を知ることができた
  • 自分だけでなく仲間のWILLを支援するというイネーブルメントの考え方を体験から理解することができた
  • ゲームの中に望ましいリーダーシップ行動が組み込まれていることが素晴らしかった
  • 困難に立ち向かい、協力しながら、目標に集中して決して諦めずに解決策を生み出すことを体験できた
  • 【Q】今後の展望についてお聞かせください

価値創造のイネーブルメントの概念が普及すれば、豊かな世界が広がっていく

ゲーミフィケーション・プログラムは「やって楽しかった」で終わりではありません。目的の共有、本質の理解、自分の事業へどう落とし込むか、ここまでフォローすべきだと思っています。
異なる文化圏の方々が一つのゲームを通して一体化し、成果を出せれば、それは一つの成功事例です。体験したことを自国のビジネスに活かしていくためにも、気づきを促進し、言語化する機会を設けることが重要だと感じています。

今回のプログラムは、次世代リーダー向けに誘導していただきましたが、それに限らず、人財育成や新規事業創出を担う立場の人に向けて実施する価値があると思います。もちろん、トップとして企業をどう牽引していくかという視座を持つべき方と、所属する組織をどのように活性化していくかという視座を持つべき方とでは、必要な知見も伝えるプロセスも異なるでしょう。しかしながら、異なる立場でもそれぞれの組織を支える『人』が必ず存在します。各々が持つ課題感に向き合いながら、イネーブルメントの考え方を普遍的に伝えていくために、熟考してより工夫を重ねていきたいと思います。

ウィルソン・ラーニングが提唱する共創や価値創造のイネーブルメントの考え方は、企業単位にとどまらず、部門や課などの細分化された組織同士、さらには個人と個人の関係にも適用できるものです。国や企業、組織の垣根を越えて、人と人との関わりの中で、誰もが挑戦者でありイネーブラーになり得ると考えます。
これは壮大なテーマかもしれませんが、この考え方が広まれば、豊かな国が増え、さらに豊かな世界が広がる可能性は無限にあると感じています。これからも、産油・産ガス国の未来を担う人財育成の支援を通して、日本と産油・産ガス国との相互信頼を深めることに尽力したいと思います。

「価値創造カードゲーム/価値創造リーダーシップ体験プログラム」は、ウィルソン・ラーニングが「越境リーダーシップ」プロジェクト、プロジェクトデザイン社と共同開発した、参加者が架空の企業チームに分かれて新規事業の創出と企業価値向上の企業経営を体験するプログラムです。
現在日本版、英語版でご提供しています。

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