オープン・イノベーションで開発力を強化する! 共創によりもたらされる革新

2021年8月24日

急激に変化する社会環境や顧客ニーズに対応し、商品・サービスを開発していくには、自社の力だけでは限界があります。そんななか、注目されるのがオープン・イノベーションです。世界の主要な企業ではすでにオープン・イノベーションを導入し、高い成果を上げています。ここではオープン・イノベーションの基本的な知識と必要とされている背景、導入するメリットや実施のポイントについて解説します。

オープン・イノベーションとは?

産業やビジネスに活力を与え、新たな可能性を切り開くとされるオープン・イノベーション。初めに、オープン・イノベーションの定義と目的を確認しましょう。

オープン・イノベーションの定義

イノベーションとは革新・新機軸を表し、新しいものを生産する、あるいは既存のものを新しい方法で生産することを指します。オープン・イノベーションはイノベーションを起こすためのひとつの手法で、内閣府では以下のように定義づけています。

「オープン・イノベーションとは、(必要により失敗を内生化するエクイティ・ファイナンスと外部のベンチャー企業群も活用し、)自社内外のイノベーション要素を最適に組み合わせる(mix & match)ことで新規技術開発に伴う不確実性を最小化しつつ新たに必要となる技術開発を加速し、最先端の進化を柔軟に取り込みつつ、 製品開発までに要する時間(Time to market)を最大限節約して最短時間で最大の成果を得ると同時に、自社の持つ未利用資源を積極的に外部に切り出し、全体のイノベーション効率を最大化する手法。」
引用:「オープン・イノベーション」を再定義する~モジュール化時代の日本凋落の真因~ |内閣府

端的に言うと、組織の枠組みを超えて新技術・新製品の開発に取り組む手法であり、協働・共創によって自社以外の技術を活用しながらさらなる可能性を開き、開発・生産の時間短縮を実現していくことです。

よく見られるオープン・イノベーションの例としては、産学官連携や異業種交流プロジェクト、大企業とベンチャー企業の協働などがあげられます。

オープン・イノベーションの目的

オープン・イノベーションの最終的な目的は、新たな価値の創造(イノベーション)です。

自社のリソースだけでは実現不可能な製品・サービスの開発について、他組織・機関のリソースの活用を行うことにより新しい発想力や技術的な補完が得られます。外部から多様な文化・分野・業種・思想の視点を取り入れることで、多角的な視野を持てるようになり、技術革新へとつながります。

自社のやり方や技術の秘匿にこだわり、閉じた状態のままでは、イノベーションを起こすことが難しくなっています。未来に向け大きく踏み出していくために、外部組織とともに知識や技術を持ち寄るオープン・イノベーションの考え方が求められています。

オープン・イノベーションが注目される背景と現状

国も国内企業の「自前主義(クローズド・イノベーション)」に危機感を募らせ、オープン・イノベーションに期待を寄せています。

オープン・イノベーションが求められる背景と、日本国内の現状を解説します。

グローバル化による市場競争の激化

現代はあらゆる業種で、世界を相手にせざるを得ない時代です。厳しい競争にさらされるなか、市場の状況も刻々と変化し続けています。

  • プロダクトライフサイクルの短期化
    日々起こる技術革新により続々と新製品・新サービスが提供される現代、プロダクトライフサイクルが短期化し続けています。画期的な新製品が登場してもすぐに追従され、やがて、至るところに似たような製品があふれます。
    製品のコモディティ化(一般化)が早まっていることは、一つひとつの製品の価値の継続が難しくなり、長期的な競争優位性の確立が困難であることを示しています。このため各企業においては、常に迅速な研究開発が強いられることになります。
  • 顧客ニーズ(価値観)の多様化
    市場の成熟や情報化社会、働く層の多様化により、商品・サービスに対する消費者のニーズが細分化。個人の好みや価値観は限りなく多様性を広げ、複雑化・高度化が進行しています。
    顧客ニーズの把握に加え、顧客価値獲得がさらに難しさを増している状況です。

クローズド・イノベーションの限界

各企業単体ではこうした市場・消費者のニーズに対応しきれなくなっています。

自社リソースの研究・技術のみで新商品・新サービスを開発するクローズド・イノベーションでは、激化するグローバル市場のなかで取り残されてしまう恐れがあります。

クローズド・イノベーションは、日本企業が長きに渡って採用してきた旧来型の手法で「自前主義」とも呼ばれています。技術の独占・秘匿により全利益の自社への還元が可能である一方、開発から商品の提供まで膨大な時間的・人的コストが発生します。

経済産業省の資料「イノベーション政策について ~研究開発・イノベーション小委員会 中間とりまとめのポイントと今後の主な取組みについて~」を見ると、国内では未だに自社単独で開発する割合が61%を占めており、自前主義からの脱却の遅れが見てとれます。さらに、そのなかで事業化されなかった技術がそのまま死蔵される割合は63%にも上ります。

クローズド・イノベーションを行う企業の多くが、研究開発投資に対して事業化や企業収益にうまくつなげられていないと考える必要があります。

投資を確実に利益として結実させるためにも、事業構想から研究開発、市場獲得・開拓までを通じたイノベーション・システムの構築が求められています。

日本におけるオープン・イノベーションの現状

自前主義の考え方が根強い国内企業では、諸外国と比較してオープン・イノベーションに対する取り組み・投資・人員数がかなり低い水準にあります。経済産業省の発表によると2018年時点でのオープン・イノベーションの取り組みは、10年前と比較して「ほとんど変わらない」が52.3%となっており、海外と比較すると遅れが目立ちます。例えば日本の基幹産業である製造業においても、外部リソースの活用が増加している企業は35%にとどまっており、国際市場での競争に不安を残しています。

なお、イノベーションの実現には、実現しやすい環境づくりが必要です。環境をつくるための一連の活動をイノベーション・マネジメントと言います。詳しくは、「日本企業に求められるイノベーション・マネジメントとは?」をご覧ください。

オープン・イノベーションのメリットと課題

オープン・イノベーションを実施するメリットと課題を解説します。

メリット

  • 研究開発・事業推進のスピードアップ
    他社のリソースやマーケティングノウハウを活用し、多様化する顧客ニーズ・市場への対応力向上とスピードアップを図ることができます。
  • 研究開発のコストダウン
    自社のみが負担していた開発コストを他社と分け合うことができるため、利益向上が見込めるようになります。
  • 外部知識・技術・ノウハウの獲得
    新たなスキル獲得の機会となり、さらなる新規事業の創出チャンスが生まれます。
  • 他社の優秀な人材を活用
    自社で不足している専門知識を持った人材を、採用コストをかけずに活用できます。

なお、自社社員を優秀なイノベーション人材に育成できる企業の体制については「イノベーション人材とは?人材に求められる能力と望まれる企業側の体制」をご参照ください。

課題

  • 技術の流出
    共同での技術開発に当たり自社の技術が流出するリスクがあります。パートナー企業との間で、契約条件や運用ルールを詳細まで詰める必要があります。
  • コアコンピタンスの保護
    オープン・イノベーションにより、自社ならではの良さや強みを失うようなことがあってはなりません。協働する内容、またアイデアやリソースの交換に関し、共有する範囲を厳格に区別しておくことが大切です。
  • 自社ニーズについての外部への説明
    自社がオープン・イノベーションに参画する意味や目的があいまいに伝わると、自社にとっての成果とは異なる形に終わる可能性があります。パートナー企業に対しては、自社が望む方向をしっかりと示さなければなりません。
  • 社内の無理解
    社内に対して外部リソースの必要性を明確に説明できていないと、内部からの抵抗により頓挫する可能性が出てきます。自社のみでは不足する点や実現不可能である旨を、社内で事前に共有しておくようにします。
  • マインド面での障害
    歴史の長い企業ほど、他社との情報開示を危惧する声が強いと考えられます。トップの無理解や「うちだけでもやれる」といった根拠のない自前主義志向が、オープン・イノベーションへの道を阻みます。担当者の熱意の不足により、途中で挫折する可能性も捨てきれません。

オープン・イノベーション実現のポイント

次のようなことが、オープン・イノベーション実現のポイントとなります。

  • 社内の意識統一・知識共有
    オープン・イノベーションに向けては、実施のメリットや自社が現在抱えている課題の把握についての全社的な理解が求められます。外部との協働の意義を踏まえた、オープン・イノベーションに関する知識の共有が必要です。
  • 戦略・ビジョンの明確化
    自社がオープン・イノベーションを通じて獲得したいものと、その過程における戦略の明確化を図ります。具体的な商品・サービスの開発と将来的なビジョンといった、短期・長期からの視点が求められます。
  • 担当部署の設置
    外部との連携においては、社内単体での事業運営とは異なる環境が生まれます。円滑に進めていくための、オープン・イノベーションに精通した担当部署の設置が必要です。部署には、組織の枠を超えて新たなビジネスに挑戦する「越境リーダー」やそれを支援する「イネーブラー」となり得る人材を配置するのが理想的です。
    越境リーダーやイネーブラーとはどのような人材か、またその育成方法については、記事の最後でご紹介している資料をご参照ください。
  • 外部サービスの活用
    オープン・イノベーションの大きな課題となるのが、自社と相性の良い企業や団体の選別です。パートナー探しや選択条件の絞り込みなどに、オープン・イノベーションの専門知識を有する外部サービスを活用する方法もあります。
  • マインドセットのサポート
    多くの日本企業では、事業運営においてクローズド・イノベーションを主体としてきました。自社の情報と相手の情報を交換する、技術やノウハウを分け与えるという考え方にはなじみがありません。
    オープン・イノベーションを最初に提唱した経済学者ヘンリー・チェスブロウ氏は、オープン・イノベーションとは「外の世界とも積極的に関わっていこうとするマインドセットにほかならない」と言います。
    オープン・イノベーションを成功させるうえでは、「協力・協働・共創」への新しい思考を根づかせていくことが重要です。

時代ニーズへの対応策となるオープン・イノベーション

高度成長期にあっては、クローズド・イノベーションが企業の優位性を守った時期もありました。しかし世界がIT技術でつながり、企業がグローバル市場を相手にする時代となった今、単独で戦うのが難しくなってきています。開発競争を制していくために求められるのは、知恵と技術を持ち寄る手法です。オープン・イノベーションに向け、新たな体制づくりを検討していく必要があります。

「越境リーダー」や「イネーブラー」など社内のイノベーション人材の育成に役立つ情報をご用意しております。ぜひご活用ください。