リモートワーク時代にOJTを成功させるためのチェックポイント

2021年4月6日

新型コロナウイルス感染拡大の影響により、テレワークによる働き方が急速に拡大しました。オンライン環境下では、新人の育成に欠かせないOJTの在り方も変わりつつあります。オンラインのメリットを生かし、OJTとOff-JTを組み合わせて新人育成を行っていこうと考える企業が増えています。

本記事では、オンライン環境下におけるOJTとOff-JTの変化とともに、OJTの失敗しやすいポイントや注意点、そしてOJTとOff-JTの連動を成功させるためのチェックポイントをご紹介します。

新人育成に欠かせないOJTとOff-JTとは?

新人の育成手段には、OJTとOff-JTがあります。OJTは、上司や先輩社員などが、実務を通して仕事に必要な知識やスキルを指導する育成方法です。一方、Off-JTは、社内の人事・人材開発担当者や外部提供者による、現場を離れて必要な知識やスキルを習得させる育成方法です。

→関連記事:企業の土台を支える「これからのOJT」

企業はOJTとOff-JTを組み合わせて使い分ける傾向にある

現在は、目的に応じてOJTとOff-JTを組み合わせて新人育成を行うことが当たり前になっています。特にオンライン環境下でのOff-JTは、外部の研修会場まで足を運ばなくても、インターネットにつながればどこからでも参加できるというメリットがあります。そのため、オンラインによるOff-JTを積極的に導入する企業が増えています。社会人として必要な基礎知識やスキル、ビジネスマナー、論理的な物事の考え方などはOff-JTで学び、実践的な内容はアウトプットをしながらOJTで学ぶといった内容です。どちらかということではなく、相互補完の関係をうまくデザインすることが重要になっています。

OJTがうまくいかない3つの理由

OJTのメリットは、仕事をする上でより実践的な能力が身につくことですが、一方で、OJTがうまくいかず、課題を抱えている企業も少なくありません。OJTがうまくいかない主な理由は次の通りです。

1. OJT担当者が多忙で新人に教える時間がない

教える側が多忙な場合、新人のための時間確保が難しくなり、指導を後回しにしてしまうケースがしばしば起こります。新人にとってはすべてが初めてですから、明確な指示がなければ何をすればよいのかわからないこともあるでしょう。特にオンライン環境下ではコミュニケーションが希薄になりやすく、後回しにされた新人は、放置されていると感じ、疎外感や孤独感を感じやすくなります。

教える側はきちんとOJTの時間を確保すること、部署は担当者に任せきりにせず、メンバー同士でフォローしあうことも大切です。

2. 特定の社員だけに負担がかかってしまう

OJTは教える側のスキルも問われます。OJT研修指導の教育を受けた社員がいる場合はその人が適任となりますが、部門内に教育担当者を育成する仕組みがない場合は、特定の社員に指導の役割が偏ってしまいます。特定の社員だけに負担がかからないように、指導のできる中間社員の育成を行うことも大切です。

また、OJTを担当する社員は、通常の業務と並行して新人の指導を行わなければならず、業務負荷がかかります。しかし、教えることで育成スキルを身につけたり、業務効率化の棚卸しができたりと、中間社員の育成や業務効率化につながるメリットもあります。

3. 教える内容にバラつきが出る

OJTの内容が体系化されていないと、教える側の技量任せの指導になり、指導内容にバラつきが出ます。また、教える側のモチベーションによって指導内容が変わるなど、教育格差が生じやすくなりますので、注意が必要です。

リモートワーク環境下でのOJTに起きがちな問題とは

リモートワーク環境下でのOJTでは、さまざまな問題が発生しています。

たとえば、画面越しに一方的に伝える形になってしまうため、本当に理解しているのか、教えたことを実施できているのか教える側が判断しづらいといった声が上がっています。一方、教わる側は、質問やわからないことがすぐに聞きづらい、指導が命令のように聞こえてストレスを感じる、などの問題を抱えているケースがあります。

入社時からリモートワークで勤務している新人は、出社している時よりも関わる人が限定されています。入社はしたものの、組織の一員とみなされているのか、どのように仕事を進めていけばよいのか、不安や孤立を感じやすい傾向にあります。同期や先輩社員たちとの接点も薄く、信頼関係が醸成しづらいため、先輩の指導を命令だと感じてしまうケースがあるようです。言葉や伝え方を工夫し、困っていることやわからないことがないか、こまめに声をかけることも大切です。

コミュニケーションが取りづらい環境下でのOJTでは、OJT担当者にも負荷がかかりがちです。前項でも述べたように、担当者のみに負担がかからないように、上司や同僚、チームメンバーが助け合ってOJTを進めていくことも大切です。

リモートワーク環境下でのOJTを成功させるポイント

慣れない環境にいることに配慮する

新人はリモートワークという慣れない環境で仕事をしていることを念頭におきましょう。在宅勤務が長く続くと、仕事のオンとオフの切り替えがしづらくなります。集中しにくい環境にいることに配慮しながらOJTを進めていくことが大切です。

「育成」と「居場所づくり」

OJT担当者は新人を「育成」することだけでなく、「居場所づくり」も行っていきましょう。仕事の話だけでなく雑談(=仕事上の指示や問題解決以外のカジュアルな会話)の時間を意識的に設け、何かあればすぐに聞けるような雰囲気づくりを心がけてください。

わからないことや困ったことがないか、まめに声をかけるだけでも相手の安心感は変わってきます。相談しやすい雰囲気をOJT担当者の方からつくってあげることが大切です。

できた時は「認める」

当たり前に思えることでも、新人にとってはすべてが初めての仕事です。できた時はしっかりほめてあげましょう。ほめる時には、具体的に何ができたのかを、相手を「認める」という意識で伝えてあげることが大事です。教えたことだけでなく自ら率先して取り組んだことは、少し大げさなくらいの言い方でもよいかもしれません。そうすることで、自ら率先する行動が強化され、チャレンジする意識が育ちます。

また、そのようにチャレンジしているとミスも起きるでしょう。できなかったことを責めるのではなく、どうすればそのミスを防げたのか、ミスをした場合はどう対処するのがベストな方法なのかを考えさせましょう。そして、先を見越した提案を兼ねた指導をします。失敗を「失敗」としてではなく、「学び」と捉えられるように働きかけてあげることが新人の成長を支援します。

人事がきちんと教育内容と進行状況を把握する

所属部署とOJT担当者に任せっぱなしにするのではなく、人事担当者がきちんとOJTの教育内容や進行状況を把握することが大切です。部門と定期的にミーティングを行い、OJTを通して見えてきた新人の強みと弱み、成長度合いをきちんと確認しましょう。

新人にとって人事担当者は、就職活動時から面識のある唯一の存在です。人事、所属部署、OJT担当者が連携して新人の相互フォローを行うことが大切です。

オンラインの利点を生かし、バリエーションを持たせる

対面ではなかなか会えない遠方の支店や遠隔地にいる優績社員にOJTの一部を任せたり、研修の講師として知識やスキルの教育を担当させたり、工場や現場のようすをオンラインで配信するなど、オンラインならではの工夫や企画を取り込んでみてはいかがでしょうか。また、上司以外の人物をメンターとしてつけることや、配属先以外の部署と定期的な交流の場を設けることは、オンラインのほうが実施しやすいかもしれません。一方通行のワンパターンなOJTにならないように創意工夫をしていきましょう。

OJTと連動したOff-JTの取り組みのポイント

OJTとOff-JTを連動して効果的に運用するためには、それぞれの良さを踏まえた設計が必要です。特に、入社時からリモートワークで働いている新人にとっては、先輩の働き方を目で見て学ぶ機会がないので、より丁寧に仕事のプロセスを伝えていく必要があります。ビジネスマナーやPCスキル、ビジネスマインドやコンプライアンスなどの法律に関する知識習得など、標準的なスキル習得はOff-JTを活用し、配属現場でしか学べないような専門的な内容をOJTに集中させるとよいでしょう。

OJT とOff-JTを連動させる際のチェックリスト

☒  OJT とOff-JTを単体で考えるのではなく、双方を連動した育成計画を立てているか
☒  育成計画の全体像を可視化しているか
☒  経営層、人事、配属部門の三者間で育成計画が共有されているか
☒  Off-JTで学ぶ期間・内容・目的を新人に明確に伝えているか
☒  OJTで学ぶ期間・内容・目的を新人に明確に伝えているか
☒  Off-JTで学んだ内容をアウトプットさせる場を設けているか
☒  Off-JTで学んだ内容をOJTで実践させるカリキュラムを含んでいるか
☒  OJT/Off-JT共に、定期的に進行状況を確認する場を設けているか
☒  OJT/Off-JT共に、新人に対するフィードバックの場を設けているか
☒  次年度に向けた振り返りを行っているか

まとめ

企業において人が成長していくためのヒントの多くは、実践の中での学びから得るものです。リモート環境下でのOJTを成功させるためには、チェックリストを活用して質の高いカリキュラムを組むこと、Off-JTをうまく組み合わせて進めること、運用の振り返りの場を設けて改善していくことが重要です。