リアル&バーチャル統合時代のコミュニケーション(2)

2020年6月23日

リモート・ワーク時代のチーム・マネジメントのあり方は?

今回も前回に引き続き、リモート・ワークが当たり前の選択肢となった時代、つまりこれからの私たちのビジネスにおけるコミュニケーションについて考えていきます。

やはり前回同様、仮想の営業チームに登場してもらい、彼らの会話の中から有益な知見をTipsとして取り出す形で、上のテーマについて考察を進めていきましょう。

今回は主に「チーム・マネジメント」という切り口でメンバーたちに語ってもらうことにします。


先ほどから、30代前半の営業チームのリーダー四季さん(彼女は会社の会議室にいます)と彼女のチームの4人の若手メンバーが、Web会議システムを使ってチーム・ミーティングを始めています。四季さんと春永さんだけがオフィスにいて、他のメンバーが社外から参加しています。会議のテーマは、コロナ後の営業戦略の見直しですが、時が時だけに「リモートでの働き方」も話題にのぼっているようです。


四季:……ということで、今後の私たちのチームの戦略は、新型コロナウイルスのおかげで、大幅な見直しを迫られています。ただし私たちの提供するサービスは、理論的にはネットワーク経由で利用していただくことも可能ではないかということで、開発部門で、技術的な検討を行っているとのことです。ここまでで質問は?

春永:そのWeb経由のサービスは、いつ頃、実現可能なんですか?

四季:夏頃、としか言えないようね。開発部門も慣れないリモートと出勤の混在になって、まだフルパワーを発揮できいないみたいだから、見通しをつけづらいのでしょう。……ところで、みんなは体調、大丈夫かしら?

夏木:冬崎さん、なんだか気分が乗らないって言ってたわよね。

冬崎:うん、病気じゃないんだけど、ストレスが発散できなくて……。

四季:リモート・ワークのせいかもね。冬崎さん、営業活動までリモートになっているんでしょう?

冬崎:ええ、もうひと月以上になりますね。お客さんの側もオフィスには人がいませんし、リアルに訪問しても相手をらせるだけですから。でもリモートにしてから、どうしても仕事漬けになりやすくて……。

四季:みんなも、リモート・ワーク時代のワークライフバランスには十分に気をつけてね。

TIPS:リモート・ワーク時代のワークライフバランス

いわゆる「ワークライフバランス」が社会として推進されるようになり、企業の取り組みも徐々に進んでいると言われます。ここでポイントになるのは、今までの議論は、どちらかというと「リアルな」オフィスへの通勤を前提としたもので、職場とそれ以外の時間をどう使い分けるか、という課題に応えるものだったことです。「物理的な」切り替えが手がかりになりえたわけです。
そこに突然のコロナ禍です。
最近、リモート・ワークによって仕事とそれ以外の区別をつけにくくなり、仕事漬けになったり、逆に仕事に集中できなかったりする「症状」を訴えるビジネスマンが増えているという報告があります。リモートの先進国アメリカでさえ、この現象は見過ごせないものとなりつつあるようです。
「物理的な切り替えができなくなったために、ワークライフバランスが保てない」……これは無理もないことなのですが、新しい環境になってもバランスを取っていくには、いつまでも組織に切り分けを委ねるのではなく、個人が自律的に行動しなければならないでしょう。いわゆる「自己管理」、特にタイム・マネジメントや健康管理が必要になるのです。ただし……。

四季:ただし時間管理といっても、ここで重要になるのは、単に「何時間、机やPCの前に座っていました」ということはないのよ。勤務時間だけを見て「よく働いたな」と考える時代は、終わりに近づいているという人も大勢いるわ。

秋本:どういうことですか?

四季:極論するとね、私たちは仕事の概念を変えなくてはならないのよ。

春永:拘束時間や人月では測れないということでしょうか?

四季:それらも、まだしばらくは使われると思うけれど、全体としては大きく変化しつつあると考えて構わないわ。

春永:どんな変化なんですか?

四季:当たり前なのだけれど「成果で見る」ということ、つまり、どんなインプットを得られたらどんなアウトプット出せるか、ということ。

夏木:ええ? なんだか肩透かし……。当たり前ですよね。

四季:そうだけど、リモート・ワークではこれが顕在化するの。

春永:確かに、リモートでは、個人個人のインプット・アウトプットがさらにはっきりしてしまいますよね。

四季:それに、いくらメールやチャット、Web会議で支援し合うことができるとは言っても、話すタイミングは限られし、細かいアドバイスもしにくいから、最終的には独力で遂行しなければならないことが大幅に増えるはずね。

秋本:オフィスに一緒にいれば気軽に聞ける些細なことも、わざわざメールで聞くのも相手に迷惑だな……と思ってしまますね。ときどき、それがすごく大事なことだと後でわかったりして焦ります。

四季:そして今の話が、さっきの「拘束時間」の話につながるわけね。つまり、一人ひとりが「これを仕上げるには何が必要で、どのくらいの時間がかかりそうか」を見積もって計画を立て、自分で管理していく姿勢が必要になる。基準が「何時間働くか」から「いかに課題解決していくか」になると言えるわね。

TIPS:「何時間働くか」から「いかに課題解決していくか」

本シリーズの第1回でも述べましたが、コロナ禍が一段落してもリモート・ワークがなくなることはなく、リアルとバーチャルが混在した、あるいは融合した労働環境がますます一般的になりそうです。
こんな環境でますます重要になっていくと考えられるのが、「自分を自分でリードしていく能力」すなわち「セルフ・リーダーシップ」です。
会社が敷いてくれたレールを黙々と走っていれば良かった時代は過去のものとなりつつあり、キャリア・プランも含めて、一人ひとりが仕事人生において自分のなすべきことを熟考し計画し、それに基づいて自分自身を律していかなければならない時代がやってきたのです。その流れを一気に促進・加速させそうなのが、今回のコロナ禍に伴うリモート・ワークの増加です。
タスクやプロジェクトの実行に際して、一層の自律性や自己統率が必要になるだけではありません。
自分が何を学ばなければならないのか、それを自分で見極め、方法を探し出し、着々と実行していく実行力や継続力が不可欠になります。キャリアの将来像を自分で描かなければならない以上、たどり着くための学習手段の選択や実行も、「人任せ」にはできない時代になったわけです。
ただし、次の点には十分な注意が必要です。
このことで、組織のメンバー間のコラボレーションやコミュニケーションの重要性が低下してしまうかといえば、むしろ逆です。個々人の自立性が際立つからこそ、大きなビジネス課題を解決するためには、互いの意識的な「協調」が重要になるわけですし、そのための「コミュニケーション」がいよいよ大切になるのです。

冬崎:セルフ・リーダーシップですか。その言葉は以前から時折聞いていましたが、何をすればいいか、わからなく……。

春永:そういえば、リモート・ワークが広まってから、このコンセプトに注目が集まっている気がしますね。よく聞くうになった気がします。

秋本:でも、そうは言っても、今まで通りのマネジメントを取り戻そうとする動きもありますよね。システムを導入しPCの前に座っている時間を記録するとか……。

四季:そうね。会社ごとに、それぞれの事情もあると思うわ。だけど分散組織化や働き方改革が進んでいくと、「個」自律性はどんどん高まるし、旧来のマネジメントでは追いつかなくなる、と言われているのも確かね。若いメンバーもいてこなくなると思うわ。だから私たちリーダーの側も、そんな時代に備えて、徐々にものの見方を変えていかなけれならないと言えるでしょうね。

夏木:具体的に教えていただけますか?

四季:みんなも、いずれはリーダーになるのだから、説明しておくかな……。

TIPS:リモート・コミュニケーションにおけるリーダーの注意点

これからの世界では、リーダーのマネジメントも変化するだろうと言われています。ここではTipsとしては異例の長さになりますが、リモート・コミュニケーションにおけるリーダーの注意点を、米国の産業心理学会の提言などからまとめてみましょう。

  1. 成果物の期待をはっきりさせよう
    リーダーは、どんな成果物(英語ではdeliverableつまり「(手)渡せるもの」)を期待しているのか、そのイメージを可能な限り明確に示すべきです。いわゆる「丸投げ」などは禁物です。もちろん「いつまでに」「どんな形で」「どこまでのクオリティで」なども、依頼の際には明示しなければならないことは、言うまでもないでしょう。
  2. 結果に焦点を当て細部はメンバーに任せよう
    リーダーは、メンバーの顔が見えない不安から、ついつい過剰な回数のWeb会議を開いたり、監視システムの導入を望んだりしがちですが、メンバーがリーダーの細かな管理(マイクロマネジメントと呼びます)を強く望んでいる場合を除き、それは避けるべきです。やり方はメンバーに任せ、結果で判断しましょう。
  3. 適切な頻度で「すり合わせ」を設定しよう
    メンバーに任せると言っても、お互いの成果物のイメージには齟齬がつきものです。放っておくとボタンの掛け違いが拡大し、思いもよらぬものが返ってくるかもしれません。途中経過を確認し合えるシステムを使うと同時に、適切な頻度で、進捗状況確認のためのコミュニケーションの機会を設定しましょう。この場合は1対1でも良いでしょう。
  4. 明瞭なフィードバックを多めに与えよう
    何のために進捗状況を確認するかといえば修正や調整のためです。リーダーは、メンバーがやっていることや作っているものに対して、明瞭で「次のステップ」の方向がわかるフィードバックを与えるべきです。リモートのメンバーは物理的には孤立しているので、いわゆる「ダメ出し」のみでは途方に暮れてしまいがちです。
  5. 自律的に動けないメンバーがいる場合には工夫が必要
    これまでも触れてきた「信頼」や「心理的に安全であること」などの重要な要素を毀損する可能性がある監視システムの導入は最終手段です。まずは次のような工夫をしてみてください:
  • 1)メンバーだけの、肩の凝らない「横の」Web会議を多めに開き、互いの仕事ぶりを情報交換させる
  • 2)リーダーはメンバーとの個別会議を頻繁に開き、こまめに指導やフィードバックを与える。ただし1回の時間はできるだけ短くする
  • 3)リーダー主催でメンバーの教育に焦点を当てた会議を定期的に開催する
  • 4)Web会議だけでなく常時使えるチャットやホワイトボード型情報共有システムを使い、各人の達成度合いや仕事ぶりが、チーム内で目に見えるように工夫する

などです。

  1. 柔軟でありながらも目標を重視しよう
    コロナ禍のせいもあって今後はお子さんの遠隔授業の比率も高まりますし、男女を問わず、在宅になりがちな家族へのケアの重みが一層高まることが予想されます。リーダーはそうした事柄にも理解を示して柔軟に対応し、自らワークライフバランスの模範を示しましょう。しかし、同時にリーダーは、チーム目標の意義をチーム内に周知徹底して、ここでも自分自身がその達成に向けた模範となる必要があります。
  2. ミーティングは目的やアウトプットを意識しよう
    この点はリアルの会議でも大切ですが、リモートでは、さらに重要になります。リモート環境では、メンバーの意見や情報の交換のための場が限られるからです。たとえばメンバー全員が加わった意思決定など、こうした場でないとできないでしょう。インフォーマルな親睦のためのミーティングでさえ、会議の目的(お互いの信頼感の醸成)を意識しておくことが重要なのです。

冬崎:リーダーって大変なんですね。

四季:そうね。だけど、これらは、みんながリアルにオフィスで集まって働いていた時から言われてきたことで、今やいに物理的に切り離され、文脈情報も使えなくなったから、より意識的に、しかも明瞭に行わなければならなくなった言えるでしょうね。

春永:なるほど、僕たちも気をつけなければならないことが含まれてますね。

四季:そろそろミーティングの本題に戻らなくちゃならないけれど、今、春永くんが言った「みんなも気をつけなくちゃならないこと」と言えばね……。

TIPS:リモート環境で各々が気をつけなくてはならないこと

バーチャル環境では、互いに意識して「奨励」、「賞賛」、「感謝」、「ねぎらい」などの言葉を提供するようにしましょう。
リモート環境では、各々が孤立して仕事をする機会が多くなるので、ストレスや孤独感が高まりがちです。自分の仕事がリーダーや同僚に受け入れられているのか、実は影では批判されているのではないか、などという疑心暗鬼にも陥りがちです。こんな時、周囲が無反応では、ますますストレスも不安も高まるばかりです。
もちろん、アウトプットの良し悪しは正確にフィードバックしなければなりませんし、意見はフランクに言い合うべきですが、同時にリーダーに限らず、チーム・メンバー全員が上のような言葉を意識的に使って、心理的に孤独感の強いバーチャル環境でも前向きに活動ができるよう、互いの心の健康に配慮しましょう。

夏木:なるほど、四季先輩、知識の豊富さは、さすがですね。

四季:いきなり賞賛のストレートな応用? あなたねえ……まあいいわ。では、当面の営業戦略について議論していきましょうか。

会議は続きますが、第2回はここまで。次回へ続きます

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