注目を集めるキャリア自律とは? 企業メリットと促進のポイント

2022年6月21日

日本型雇用制度が改革期を迎えるなか、個人が自らのキャリア構築に取り組む「キャリア自律」が注目を集めています。

多様な人材が活躍しやすい組織づくりのためにも、企業の人材開発において、キャリア自律を積極的にあと押ししていきたいところです。キャリア自律による企業メリットや促進のポイントを紹介します。

キャリア自律とは

従来のキャリア構築は、上司の指導や企業の意向に沿った研修などに沿って、ある程度のキャリアが企業主導で与えられるのが一般的でした。しかし近年は、「キャリア自律」が注目を集めています。「キャリア自律」とは社員自らが主体的に自分自身のキャリア構築や能力開発に取り込むこと、もしくはその概念を指します。

社員一人ひとりのキャリア環境はライフスタイルに応じて変化していきます。所属企業に頼ったキャリア形成では、転職や休職、ジョブリターンなどの変化に対して柔軟に対応することができません。また、人生100年時代と言われている現在、定年後もさまざまな形で働き続ける人が増えており、長期的なキャリアの構築も重要になっています。

自身の人生を俯瞰的に見て働き方やキャリアを構築していくためにも、キャリア自律が求められているのです。

キャリア自律が注目される背景

キャリア自律が注目される背景を「社会」と「個人」、2つの側面から紹介します。

1:社会変容

これまでの企業に依存したキャリア形成は、次の理由により時代に合わなくなってきています。

  • 日本型雇用制度(終身雇用制度)の改変期である
    新卒社員を多く採用し定年まで継続雇用するタイプの日本型雇用制度が、変わろうとしています。この傾向はジョブ型雇用の台頭、即戦力人材の需要増加、働き方に対する意識変化など複数の要因によるもので、今後ますます進むと考えられます。
  • 自発的に成長する人材を企業が必要としている
    ビジネスのスピード感が増している昨今、企業のビジネスモデルやアイデアもそれに合わせて進化することが求められています。そんななか、指示を待っているだけでは迅速な対応や臨機応変な動きは望めません。自らが考え、自身の能力を効果的に引き出し自発的に成長していく人材が必要とされているのです。
  • 副業・兼業といったパラレルキャリアが実行しやすい環境になった
    厚生労働省では実効性のある「働き方改革」の一環として副業・兼業の普及促進を図っており、それらを認める企業は増加傾向にあります。企業にいながらにして社外でも経験を積むことで、広い視点でのキャリア構築が可能となります。副業・兼業をきっかけにキャリア自律が促進される側面があります。

なお、社会変容の激しい現代は、予測できない状況を表す「VUCAの時代」と呼ばれています。「VUCA」について詳しくは「「VUCA」の時代に求められる人材像とは?」をご覧ください。

2:個人の意識変化

次のような背景により、個人のキャリア意識も変化しています。

  • ワークライフバランスに対する意識の高まり
    経済産業省が作成した資料「変革の時代における人材競争力強化のための9つの提言~日本企業の経営競争力強化に向けて~」によると、若い世代ほどワークライフバランスを重視する人が多く、また、転職への抵抗感が少ないことがうかがえます。
    ひとつの企業で定年まで働くことを目的とするのではなく、ライフスタイルの変化や自身の価値観に即して個人のキャリアを主体的に形成する考え方が主流になってきていると考えられます。
  • 「人生100年時代」の到来により、長期的なキャリアプランの構築が必要になっている
    以前は、多くの人にとって「定年」がキャリアのゴールでした。しかし、人生100年時代のライフプランでは、人によっては定年後のキャリアも構築する必要があります。「定年後にどのように働くか」「生涯現役」など、長期的なキャリアを描く人も珍しくないなか、ライフスタイルに合わせてフレキシブルに働くためのスキルを身に付けたいと考える人が増えています。
    これまでのように企業に依存したキャリア形成では、働き方の可能性が狭まってしまうこともあり、キャリア自律が注目されているのです。

なお、コロナ禍もキャリア意識に変化をもたらしました。詳しくは、「コロナ禍を機にあらためて考えるキャリア開発」をご覧ください。

キャリア自律の促進による企業メリット

社員のキャリア自律が進むことで、社内には次のようなメリットが見込まれます。

  • 人材の持つ能力の最大化
    社員主体のキャリア形成は、社員が自身の目標に沿った業務を選ぶことにつながり、業務に対するモチベーションアップや離職率の低下などのメリットも生まれます。意欲的に業務にあたることは、業務能力向上につながるでしょう。
  • 組織の生産性向上
    自ら考える主体的なキャリア構築によって、自身に合った業務や業種を見極めることができます。社員の適材適所によって組織全体の生産性向上も期待できます。
  • マネジメント業務の負担軽減
    上司が細かに指示を与えなくとも、自ら考え、動ける社員が増えてくれれば、結果としてマネジメント業務の負担軽減につながります。
  • 優秀な人材を確保しやすくなる
    キャリア自律を促進するには、さまざまな人材が活躍しやすい環境を整える必要があります。そのような環境の提供は、多くの求職者への訴求ポイントとなり、企業価値の向上と優秀な人材の獲得につながります。

キャリア自律促進における4つのポイント

キャリア自律を促進するための4つのポイントを紹介します。

ポイント1 企業としてキャリア自律を促進する姿勢を明確化

トップ自らキャリア自律の姿勢を打ち出し、社内の意識改革を促します。社内で温度差があるとキャリア自律が進みません。若手から中堅までキャリア自律の意義やメリットを浸透させます。

ポイント2 必要に応じた企業サポートを実施

企業主体のキャリア形成に慣れている場合、キャリア自律に対して戸惑う社員が出てくるかもしれません。

そのような場合は、緩やかなキャリア自律を促す必要があります。具体例としては、相談窓口を設置してキャリア形成の方向性をサポートする、上司との面談を実施し、キャリアアップの計画案をアドバイスするなどが考えられます。ただし、要所要所で企業が関与する程度にして、企業主導になりきらないよう注意します。

ポイント3 機会提供の姿勢でキャリア自律を促進

新たなスキルを磨く場を用意し、成長機会を提供する姿勢を持ちます。具体的には、本人の意向を尊重したうえでの研修参加や、配置・職種転換を行う、副業を認めるなどです。重要なのは、ニーズに応じた柔軟な対応をすることです。本人との面談をていねいに行いヒアリングしていきましょう。

ポイント4 オープンな施策

社員のキャリア意識が多様化しているためニーズを把握しきれないことや、IT技術の進化が著しいために自社では要望に応えきれないことがあります。社内だけでは機会提供に限界があるため、「外部セミナーを社内研修に取り入れる」「自主的な外部セミナーを推奨する」などオープンな施策を活用して、社員のニーズに応えていきます。

なお、社員が社外での交流の過程で転職してしまうことを懸念する企業もあるでしょう。しかし社会活動を通じて俯瞰的にキャリアを考えることで、自身の仕事の魅力を改めて感じる社員もいるはずです。また社外から自社業務を見ることで、自社の課題解決に役立つこともあります。社外の機会提供も、積極的に検討していきたいものです。

キャリア自律の支援は人材獲得や組織活性化に好影響を与える

キャリア自律は、本質的には内省を軸とした社員一人ひとりの主体的な取り組みとなりますが、企業が社員と関わるうえでも重要な概念です。

キャリア自律の促進には社員ごとの多様なサポートが必要です。どのようなメニューを提供すべきか迷ったときは、専門家の助けを借りて有益な支援を実現させていきましょう。

ウィルソン・ラーニングでは、積極的に自己のキャリアを見直し、キャリア開発計画に取り組む人材を育成するプログラムを提供しています。従業員のキャリア自律の促進にぜひお役立てください。

自己のキャリアの見直しや方向性を再検討>>CCV キャリアバイタリティの創造