学校教育現場に学ぶ、学習意欲を高めるための取り組みについて

2020年1月14日

VUCA(Volatility、Uncertainty、Complexity、Ambiguity)の時代といわれ、将来の不安が常につきまといますが、AI(人工知能)やIT(情報技術)の進展で新しいビジネスチャンスが生まれる可能性も出てきています。
そうした時代を生き抜くためには自らを見つめ、学ぶ姿勢を持ち続けることも大切でしょう。
そのためには自分自身も、また支える側もいかに学習意欲を高め、持続させるかがカギです。
今回は学校教育における新しい取り組みについて紹介するとともに、社会人の学びへの動機付けのヒントを探ってみましょう。

学校教育が目指すのは「生きる力」を養うこと

持続可能性と持続不可能性とがせめぎあい、先行きが不確実な時代に必要となる資質や能力を養うために、教育現場では新しい視点での取り組みが始まっています。たとえば学びに向かう力や人間性をいかに育むのか、何のために学びが必要なのかといったいくつもの問いを繰り返してきました。その結果、次代を担う人材(学生)に「生きる力」を養うことが必要だというひとつの目標設定にたどり着きました。

10年ぶりに改訂された学習指導要領に示された「主体的・対話的で深い学び」への取り組みは、2020年度より小学校から順に(2021年度に中学校が実施、2020年度に高等学校が実施)実施されることになっています。

変わる学校教育

「主体的・対話的で深い学び」という表現は、最初はアクティブ・ラーニングと表現されていました。アクティブ・ラーニングが取り上げられ始めたのは2012年の中央教育審議会(中教審)の「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けた〜生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ〜(答申)」においてです。

この答申のなかには、「知識の伝達・注入を中心とした授業から、教員と学生が意思疎通を図りつつ、一緒になって切磋琢磨し、相互に刺激を与えながら知的に成長する場を創り、学生が主体的に問題を発見し解を見いだしていく能動的学修(アクティブ・ラーニング)への転換が必要である」と記されています。
つまり、従来の一斉教授される授業方式では学生の主体性が育ちにくいため、能動的に学ぶ工夫をしようということです。

「主体的・対話的で深い学び」への取り組み

教育現場で開始される「主体的・対話的で深い学び」とは、認知的能力、倫理的能力、社会的能力、教養、知識、経験を含めた汎用的能力を高めるための学びであり、発見学習や問題解決学習、体験学習、調査学習の他、グループ・ディスカッション、ディベート、グループ・ワークなどが学び方の一例として挙げられています。

しかし、こうした深い学びが従来の一斉教授によって行われた知識の注入を中心とした方法を否定しているものではありません。
発見学習をするにも問題解決を図るにも、基礎的な知識はもとより、ある程度の知識量がないと対応できないからです。
学問体系に基づいて基礎的な知識を蓄積すると同時に、自主的に課題を発見し、解決策を検討し、対話しながら、調査を行い、解決へと導くための能力を養うことが重要です。

「自主的・対話的で深い学び」を維持する条件=学習意欲=興味関心

教育現場で取り組みが始まる「主体的・対話的で深い学び」を維持するために必要な要素を確認しておきましょう。

そもそも、学校教育が養うべき力として設定しているのは「生きる力」です。生きる力を養うために主体的・対話的で深い学びに取り組むわけです。
そうした学習環境を作っていくためには、学生の学ぶ姿勢、学びに向かう力、つまり学習意欲の高さが重要になります。

では学習意欲を高く持ち続けるにはどうしたらいいのでしょうか。

大きな目標を持つこともひとつの解ではありますが、教育現場では身近なところに目を向け、疑問や課題を発見することで学習意欲を高めています。
言い換えれば、身の回りで起こる事象を他人事としてではなく自分事として受け止め、分析し、疑問を持つことから始めているのです。この取り組みは周りの事象に興味関心を持つことに他なりません。

興味関心を持つ対象が見つかれば、探ってみたいという気持ちが起こり、学習・調査意欲へとつながります。

つまり、教育現場における学びの方法は、探究することを促し、自ら「知りたい」と思う気持ちを育てることから始まるものだと言えます。

社会人の学びに対する姿勢は低い

リクルートが発表している全国就業実態パネル調査2018のWorksReportによると、「自分の意思で仕事に関わる知識・技術向上のための取り組みを行った」という設問に「YES」と回答したのは全体の3割程度。雇用者全体の7割近くの人が「自らの意思で学んでいない」という結果になりました。この調査で言う「学び」は「本を読む」「人に聞く」なども含まれており、深い学びと言えるほどのものでなくてもよい範囲です。にもかかわらず、ほとんどの雇用者(社会人)は自分の意思で学ぼうとしていないという結果が出ています。

まったく学ぼうとしない割合が半数以上

では、会社内での学ぶ環境が充実していた、あるいは研修などを受講する機会に恵まれていたというケースも考え合わせてみましょう。自主的に学んだ、社内で学んだ、研究会やセミナーを受講したといった学びの機会を複数設定した調査を見ると、複数の学びの機会を活用している社会人もいる反面、51.1%の人がまったく学習を行っていないことがわかりました。

さらに、学ばない理由については、さまざまな選択肢が提示されたものの「あてはまるものはない」が半数を超えています。これは、自ら進んで学ばなくても生きていけるという守られた現状と、旧来の学校教育から続く、受動的な学習のスタイルの結果を端的に示しているのかもしれません。

社会人も自己実現のために主体的・対話的で深い学びを

学校教育で主体的・対話的で深い学びへの取り組みが始まり、身近な課題を自分事として見つけ、解決策を検討するために「探究学習」が用いられはじめている一方で、社会人に提供されている学びの多くが依然として古いスタイルのままだと言われています。

ただ実際には、ビジネスはグローバル展開が当たり前となり、技術的にもAIの導入やIT化はすでに飛躍的に進んでいます。雇用状況も終身雇用制が保証されているとは言えません。常に時代を見つめ、必要なスキルを自ら高め、自分の存在価値を高めていくことで将来を自ら保証する時代になってきています。つまり、これからの社会人は自らの将来を自ら創造するために学ぶ必要があると言ってよいでしょう。

では、どのような環境で、どのような意識を持つことが主体的・対話的で深い学びを実践することになるのでしょうか。

競争環境を意識し、周りに興味関心を持つことが実践の第一歩

たとえば、昨日と同じ仕事をするにしても、このやりかたは本当に効果的なのか、他に段取りの変更や作業手順の変更で効果が高まることはないのか、など、当たり前になっている内容を見直す意識を持つこともその一歩だと言えます。

VUCAの時代といわれる現在こそ、与えられている仕事に問題意識を持ち、改善点を探り、自ら提案をする姿勢を持つことが、自らの価値を高め、将来を安定させることにつながります。また、周りの仕事にも興味関心を持つことで、自分の可能性も広がります。こうした意識の変化が学習意欲を芽生えさせ、また維持することになるのです。

自由な学びの機会を利用する

たとえば社外研修の機会に自主的に参加する、大学等が一般に公開している講演会、講習会に参加するなど、広く知識や考え方に触れることも学びにつながるでしょう。

学ぶ機会が得にくい、時間がないことで学びたい意欲が維持できない場合もあるでしょうが、自由な学びの機会はそこここにあります。
「通信教育」「eラーニング」だけでなく、 2012年にアメリカから始まり今や世界的に拡大中の「大規模公開オンライン講座(MOOC=ムーク、Massive Open Online Courses)」など、時間や場所の制限なく手軽に最新の知識やスキルを身に付ける手段は増えています。

MOOCは、インターネットさえあれば、無料でハーバードやスタンフォードなどの名門大学レベルの高等教育をオンラインで受講可能です。試験や課題で一定水準に達すれば修了証も授与されます。日本でも、2013年にJMOOC(日本オープンオンライン教育推進協議会)が設立され、多彩で自由な学び方の選択肢が広がりを見せています。

こうした社員の姿勢を奨励し、促すような風土が組織のなかに醸造されることが重要です。業務のみが重視される環境のなか、外部へ学びに行くことを所属組織に隠さざるをえないケースがいまだにあるようですが、そのようなカルチャーをなくさなければ本当の意味での奨励にはならないのではないでしょうか。

学び続ける者が対応力を身に付けて生き残る時代

将来の見通しが立てにくく、不透明な時代が到来しました。昨日までの常識が今日は否定されるような急激な価値観の変化も起こりえるのがVUCAの時代です。昨日と同じスキルのまま停滞していては、自分の価値を上げていくことはもちろん維持も難しくなるかもしれません。
社会人こそ、自らの将来を築くために深い学びが必要です。つまり、学習意欲を持って学び続ける人だけが対応力を身に付け、生き残れると考えられます。

すでに取り組みを始めている方は学び続けてください。まだその段階にない方は、まずはいつものやり方、考え方に対して「他に効果的な手段はないのか」といった疑問を持つことから始めてみてはどうでしょう。

国も社会人が学び直すリカレント教育の拡充に取り組んでいます。社員のレベルアップなくして企業の成長、発展は望めず、人材こそ最も重要な経営資源です。学習意欲を高め、自己啓発に励む社員が力を発揮できる環境を整え、正当に評価して報いることで、さらに学習意欲は向上し、企業に利益をもたらすはずです。