営業所が主体となり、エンパワーメントを推進して自ら学ぶ人財を育成する研修の取り組みについて

2021年9月7日

グローバル・ヘルスケア企業Merck & Co., Inc., Kenilworth, N.J., U.S.A.の一員として、日本で医療用医薬品やワクチンをお届けし、革新的なヘルスケア・ソリューションを提供するMSD株式会社では、ビジネス環境の変化に柔軟に対応し、今の時代に求められるMRの人財育成に力を入れています。従来の本社発信型の研修スタイルから現場の営業所長が研修を実施する運用スタイルに変更。2019年よりウィルソン・ラーニングがセリングスキル研修の映像制作とファシリテーションを実施させていただいています。自ら学ぶことやエンパワーメントを推進した研修の取り組みと効果について、MSD株式会社 製品・セールストレーニングチャプターの野尻さんに、弊社 執行役員の小原がお話を伺いました。

野尻 佳代 様
MSD株式会社
製品・セールストレーニングチャプターリード(PCV)

小原 大樹
ウィルソン・ラーニング ワールドワイド株式会社
執行役員

本社発信の研修から各フィールドで運用する新しい研修スタイルへ

  • 【Q】研修スタイルが大きく変わりましたが、これまでとの違いを教えてください。

野尻: 以前は、フィールドトレーナーが各フィールド(営業所)を訪問して研修を行っていました。2018年より製品・スキル研修の運用方針が変わり、動画やスライドなどの本社で作成した研修コンテンツを提供し、営業所単位で受講しています。

  • 【Q】営業所では、具体的にどのように研修を実施されていますか?

野尻: セリングスキル研修は、本社で毎年テーマを決めて、1回40分程度の研修を3〜4回シリーズで実施しています。15分のインプットの後にディスカッションやロールプレイを実施する構成です。インプットパートは動画を流し、ディスカッションやロールプレイのパートを営業所長がファシリテートする形で進行します。ここは営業所長の腕の見せ所でもあります。現場によっては、権限委譲された営業所長補佐やMRがファシリテーションを務め、研修を実施しています。

  • 【Q】営業所主体の運用方法に変更した背景には、どのような経緯があったのでしょうか?

野尻: 全社メッセージとして「自ら学ぶ」という言葉を掲げ、自分たちで勉強していくというメッセージが伝えられたことが大きく影響していると思います。私たちが大切にしている5つの行動指針を示した「Ways of Working」には、自ら学ぶ、エンパワーメント、試行錯誤などがあります。「Ways of Working」の精神と人財育成の方向性のアラインが取れて、こうした取り組みにシフトしたのだと思います。

企業カルチャーが研修浸透のカギを握る

  • 【Q】実施して1年目はどのような反応がありましたか?

野尻: フィールドトレーナーは現場のMRにとって身近な存在ですし、Face to Faceで研修を受けられることのよさがあり、最初は変化に対する戸惑いの声もありました。しかし、継続していくうちに、自分たちのタイミングやレベル感で実施できることや各営業所ならではの事例を共有できるなど、多くの方が営業所単位で実施することのメリットを感じてくださり、自分たちで学ぶことに対して積極的に取り組んでくださるようになりました。

  • 【Q】2年目、3年目はどのような変化がありましたか?

野尻: 昨年はコロナ禍によるオールリモートとなり、営業所からは、「ディスカッションやロールプレイをオンラインでどう行うのか?」といった質問や、きちんとできているのか不安に思う声も上がってきました。当初は現場の方々の混乱もありましたが、早い段階で順応し、今では代表者が、オンラインでのロールプレイ実施、またブレイクアウトルームを活用し、少人数のロールプレイやディスカッションの実施をする等、柔軟に対応しています。

  • 【Q】変化に柔軟に対応されていますね。本社発信の研修スタイルから現場主体の研修スタイルにしたいというビジョンはあるものの、社内での浸透に課題を抱えている企業も多いのが現状です。御社の取り組みがスムーズに浸透したのは、企業カルチャーが重要なファクターになっているからでしょうか?

野尻: そうですね、何事にも真摯に向き合い、とりあえずやってみようというマインドがベースにあるのだと思います。また、私たちのビジネスを取り巻く外部環境は変化が多く、柔軟に対応していく力が求められます。そのため、社員自身が変化に対応することに慣れており、柔軟性や順応性が自然に身についているのかもしれません。

  • 【Q】現場主体になると、現場のマネジメント層の負荷が高くなり、取り組んでみたものの継続が困難になって中断するケースも耳にします。継続されているのはすばらしいことですね。成功の秘訣は何でしょうか?

野尻: ありがとうございます。確かに、現場の営業所長の負荷が増えてしまう点は悩ましいですが、現場に負荷をかけない研修作りが必要な一方で、手間を惜しまずに育成のマインドをもって営業所で育成の「場」を作っていくことも大切だと思います。研修のすべてを現場で作って欲しいということではなく、スパイスやエッセンス程度でいいので、営業所長の想いを反映する研修になると、受け取るMRの学びや気づきもさらに深いものへと変わっていくと思います。

また、私たちの社風の特徴として、エンパワーメントの推進に積極的に取り組んでいます。営業所長が意識的にエンパワーメントの推進に取り組んでくださり、徐々に研修の権限を営業所長補佐に委譲し、営業所長補佐が研修を実施するケースが増えています。研修業務に携わることでその人自身の成長につながりますし、人財育成のツールとしても活用いただけています。

  • 【Q】研修を部下の成長と育成につなげ、エンパワーメント、オブザーブ、リフレクションのサイクルを回し、育成効果を上げていらっしゃる。受講するMRのみなさまの学びの姿勢に変化はありましたか?

野尻: 以前は、「研修は本社から提供されるもの」という空気があり、受け身で受講するMRが多かったように思います。今は、自ら学ぶことに積極的かつ真摯に取り組んでくださる方が多いと感じています。やはり、フィールドトレーナーから学ぶのと、自分の所属する営業所長や先輩、同僚のMRから学ぶのとでは、受け取る印象も学びの姿勢も変わります。誰が発信するのか、誰から学ぶのか、という違いは大きいのではないでしょうか。

私たちが発信する本社からのインプット、ウィルソン・ラーニングさんが提供してくださるインプット、そして現場でのインプット、それぞれの良い面を吸収して、学びと実践と振り返りを繰り返し、社員一人ひとりが誇りを持って成長しているのだと感じています。

大事なことは、現場のMRに違和感なく受け入れられるコンテンツであること

  • 【Q】2019年からウィルソン・ラーニングがセリングスキル研修の設計、映像制作、ファシリテーションをお手伝いしています。毎年の研修テーマはどのように決めていますか?

野尻: セリングスキル研修のテーマは、現場の営業所長にアンケートを実施して、要望の多いものや今のMRの活動に必要なスキルなどの実現性の高いものを中心に検討して決定しています。

昨年は、1回目にインプットして現場で実践してもらい、2回目に実践の振り返りとさらなるインプット、そしてロールプレイを実施、3回目に振り返りのみを行う機会を設けました。

現場のニーズは、新しい知識のインプットに関する要望が多いのですが、全員が新しい知識をすべて吸収して実践できているわけではありません。学んで満足したり、できているつもりになっていたり、忘れてしまう人も多いなかで、研修効果を高めるためにも振り返りの回を設けたことは効果的でした。実際に「振り返りができてよかった」という声も多かったです。

  • 【Q】研修をどう組み立てていくのか、ディスカッションを重ねました。動画の中で先に手本や答えを出すことについて、現場から要望があったのでしょうか?

野尻: そうですね、現場からも「ディスカッションの正解を教えて欲しい」「ロールプレイの前に手本を見せて欲しい」と、最初に答えを求められるケースがあります。わからなくて1歩を踏み出せないのであれば、答えやヒントを伝えてあげることで1歩踏み出せるケースもあるでしょう。一方で、先に答えを与えてしまうことで学ばなくなるケースもあります。安易に答えを示すのではなく、試行錯誤しながらも自発的に考えて行動してもらうことに意味がある。こういう時代だからこそ、答えは自分たちで見つけていけばよいのではないかと思います。

  • 【Q】研修を組み立てる上で大切にしていることを教えてください。

野尻: 本社発信だからこそ、メッセージ性の強さがあると自覚していますので、映像だけが一人歩きしないように気をつけています。現場のMRにとって違和感がないこと、誤解を招かない表現であること、これらに高い意識を持って取り組んでいます。

ウィズコロナだからこそ大切にしたい営業スキル

  • 【Q】新型コロナウィルスの影響もあり、2020年の研修テーマは、アポイントディテール基礎編として、オンラインでのセールス活動のコツやオンラインにおける医師との面談の際に重要なスキルをご紹介しました。受講者の反応はいかがでしたか?

野尻: MRからは、「外部の方から定説スキルを学ばせてもらったことはとても刺激になった」という声が多く、ご提供いただいたワークシートを実際の訪問準備に使用しているMRもたくさんいます。
特に、本当に基本的なところなのですが、研修の中で紹介していただいた、「面談の3つのP」は、「改めて考えてみて気づきがあった」、「やってみたら思ったより効果があった」という声が聴かれました。コロナ禍で医師は多忙になり、アポイントの際に「なぜ面会時間が必要なのか?」と聞かれるケースが増えています。お会いする目的と医師にとってのメリットを、自信を持って伝えることができるかどうかは非常に重要です。研修後に、複数の営業所長から、お客さまにとってのメリットをしっかり考えることが、面談そのものの準備の精度を上げているという声がありました。基本的なことですが、面談でのコミュニケーションにも効果があり、アポイント取得にも影響がある考え方だと考えています。

  • ※Purpose(目的)、Process(進め方)、Payoff(メリット)

  • 【Q】あえて基礎スキルを提供することに対してどのようにお考えですか?

野尻: こうしたベーシックスキルは自覚度を高めるコンテンツだと思います。こういう時期だからこそ、あえて基本に立ち返ることが大事ですし、それがMRにとって響くものがあったのでしょう。セリングスキルもキャリアを重ねれば自分のやり方が確立してしまう。何のためにそれをやるのか、なぜそれが大切なのか、そして本当に自分はできているのかを再確認し、気づくことが重要です。自然にできている人たち、自分はできていると自覚している人たちにとっても、新たな発見があったと思います。
高度なテクニックや知識を学ぶコンテンツを作ることもできますが、皆で学び合うという観点からも、気づきの多い内容をご提供いただけたと感じています。

広い知見を活かして営業スキルを提供することの価値

  • 【Q】ウィルソン・ラーニングが参画することにどんな価値を感じていますか?

野尻: 製薬業界への深い知見もありながら、さまざまな業界・業種をターゲットにされており、他業界でも大切にされている広域の意味でのセリングスキルをご提供いただいていることに、とても価値を感じています。弊社もさまざまな知見があるとはいえ、それは社内での経験に限られてしまう。内製では限界がありますから、ウィルソン・ラーニングさんのように、広い知見を持った企業から学びをご提供いただけるのは貴重なことです。

私たちは営業視点も大切にしていきたい。現場のMRが見て違和感なく吸収できる研修を提供したいのです。私たちが大切にしている想いを汲み取って研修動画に反映してくださったこと、実践に結びつくスキルを教えてくださったことに、とても感謝しています。

  • 【Q】ウィルソン・ラーニングでは、ベーシックスキルを体系化し、複数の拠点に展開できるようなコンテンツ制作の準備を進めています。一律型のコンテンツ展開や個人で学ぶこととチームで学ぶことの意義をどのようにお考えですか?

野尻: 本社から提供するものと営業所ごとに選択できるものがあると、双方の良い面を活かした新しい研修スタイルになると思います。一律のものを学び、一度に複数のMRのスキルレベルを一定水準まで上げていくことや、階層別研修やニーズ別研修の需要もますます高まっていくのではないでしょうか。今の時代、個人で学ぶツールはたくさんありますが、個人で学ぶだけでは得られない学びや経験を得られることが共に学ぶことのメリットだと思います。

変化に柔軟に対応し、今の時代に求められるMRの育成に向けて

  • 【Q】最後に、今後の展望を教えてください。

野尻: スキルの習得は学びと実践を繰り返すことで身についていくと感じているMRは多く、研修の継続や同じテーマの再開催を望む声もあります。現場のニーズに即した研修を一定の期間でいかに継続して提供していくか、それが私たちに求められていることです。

医療現場の状況は刻々と変化しています。コロナ禍での対応によって、ドクターがより多忙になり、時間をとって面談できないという状況も起きています。そうしたなか、私たちは、それでも時間をとって面談をしたいと思えるような価値を提供するということ、そして、顧客の立場に立って、柔軟に状況に対応できるような人財育成につながるコンテンツを、日々、考えていかなければなりません。

今、MRは大きな転換期を迎えています。どれだけ顧客に価値を提供し、顧客にとって大事なパートナーだと感じてもらえるか。現場も悩み、試行錯誤していますから、私たちは常にアンテナを張り、今の時代に求められるMRに必要なコンテンツをより意識して提供していきたいと思います。

今回は、ウィルソン・ラーニングが研修動画の作成とファシリテーションをご提供し、環境変化の激しいコロナ禍に求められるMRの人財育成に力を注ぐMSD株式会社の取り組みについてご紹介しました。

ウィルソン・ラーニングではお客さまの課題やご要望に合わせた営業力強化のプログラムをご提供しています。営業プロセスの構築、営業力アセスメント、セールススキルならびにセールスコーチングに関するご相談はぜひお問い合わせフォームよりご連絡ください。