ウィルソン・ラーニングの浅井が5/24の最新情報をお届けします!
24日、ATDの最終日を迎えました。ATD会期中の様子をとらえた新聞「CONFERENCE DAILY」が毎日発刊されます。
今日のようにATDを振り返るのにも活用できますし、会期中の一日の初めにこれに目を通しておくと、話題のテーマやイベント、参加者の声を読むことができ、その日の動きを計画するのにも役立ちます。
本日のATD新聞は、昨晩当団体主催のネットワーキングナイトがアトランタ水族館を貸し切り行われた様子が一面に掲載されていました。
ATD会場の様子
帰路に着く参加者も多く、会場内のクロークには早朝からスーツケースがずらっと並んでいました。出発ぎりぎりまでセッションに参加する方が多いようです。
そして、本日はあいにく南西部エリアの天候が荒れています。竜巻の影響でアトランタから出る飛行機のキャンセルや遅延が発生中。みなさん無事に到着地に辿りつけたことを祈りつつ、浅井も弊社オフィスのあるミネアポリスに場所を移動しながら最終日の情報を配信しております。
ATD STOREも最終日とあって多くの人で賑わっていました。
初日~2日目は本を手に取り、じっくり見ることができますが、最終日に近づくにつれて品薄に。特にセッション講演者の書籍やマイクロラーニング関連の書籍の多くは売り切れ状態です。
初日~2日目に物色して、気になる本をなるべく早くお求めになるのがお奨めです。
【人材開発と科学】 The Neuroscience of Teams~チームの脳科学
組織心理学者であり、Lynda.com(現LinkedIn)の元CLO Dr.Britt Andreattaによる「チーム」についての脳科学的にチームやチームワークについて学ぶセッションに参加しました。
Andreatta氏の脳科学と人材開発や組織開発を融合したセッションはATD以外の場でもとても好評です。
今年のATDでも複数の講演を持ち、この講演もこの3日間で数回繰り返されていることもみると、人気度が分かります。過去のATDの講演が実を結び、“Wired to Grow” “Wired to Resist”などの書籍も出版されています。
豊富なデータ、ソースとなる参考文献、参加者がセッション後にさらに理解を深めるための推奨本など惜しみなくナレッジを共有してくれることも、数多くのATDセッションの中でも大盛況な理由かもしれません。
このセッションは今年出版予定の本の一部となる内容と言うことで、Andreatta氏の最新情報を得ることができるものでした。
Britt Andreatta, Neurosceince of Teams
講演内容
- 人間の脳のメカニズム
- チームとは
- 脳科学的にみたチームが協働するために適した環境とは
人間の脳のメカニズム 2つのポイント
①人がメッセージを伝達する(「コミュニケーション」)と、そのメッセージを受け取った相手の脳と発信者の脳の同じ部分が活性化する(ニューロコーピング)
②人は行動やしぐさを、あたかも自分が行っているかのように、共感することができる(ミラーニューロンシステム)
つまり、チームでのコミュニケーションがチーム内の共感、学習、協力体制、連携体制ことに影響を与え、チームのエンゲージメントやパフォーマンスを上げることも、下げることができてしまうことが脳科学からも言えるのです。
でも、そもそも「チームで働く」とは?
Andreatta氏は冒頭で時代によって、チームで働くことの定義やチームを牽引するリーダーシップの考え方と言うのは変わってくることを話しました。例えば、1960年代~80年代は「ヒエラルキー型のリーダーシップ」、つまり「幹部がキング(Executives are King)」が主な考え方であった時代。この考え方の代表的人物にJack WelchやPeter Druckerがおり、リーダーシップのスタイルとして「目標達成型」でそのためにいかにパフォーマンス向上するかなどがテーマとして取り上げられていました。
では、現在は?
Andreatta氏は、今私たちの多くが2つの考え方の間、ちょうど変革期にいるのだと述べました。
一つは、1990年代の協働型のマネジメントまたは「カスタマーサービスと社員一人ひとりによるリーダーシップ」、つまり「一人ひとりがキング(The People Are Kings)」が主な考え方である時代。Howard Schultz、Steve Jobsが代表的人物としており、リーダーシップのテーマとしてRobert Greenleafの「奉仕型リーダーシップ(Servant Leadership)」で、ともに働くためにどうしたらよいのかをテーマとして挙げている部分。
もう一つは近年の傾向、いくつかのチームのネットワーク(集合体)であり「ミッション、目的、持続可能性(Mission, Purpose, Sustainability)」を探求し、「チームのエンパワーメント」に対する関心が高まっている時代。その背景にはNetflix、Google、Facebook、Amazonなど業界の変革企業の動きが影響している。チームの誰がという考え方から「チームがキング、チームリーダーシップがキング(The Team and Team Leadership Are King)」という時代が来ているのだとAndreatta氏は語りました。
組織や環境や規模によっては、変革期と言ってもこの2つのバランスは異なるかもしれません。しかし、シフトしている方向や変革を認識して対応していく必要性に関しては変わらないのでしょう。
チームの診断方法:Tuckmanモデル
セッションでは「チーム」と「脳科学」の融合を理解するため、まず「チーム」の進化の考え方をまとめた「Tuckmanモデル」が紹介されました。
Tuckmanモデルはチームが形成されてからの成長段階を5段階で識別したチームビルディングの古典的な考え方です。
5つの段階:
「形成(Forming)」⇒「混乱(Storming)」⇒「統一(Norming)」⇒「機能(Performing)」⇒「散会(Adjourning or Transforming)」
つまり、仮にプロジェクトのチームメンバーをアサインできたからと言って、終わることはなく。そこからチームがチームとして機能し、一定のパフォーマンスが発揮できるためには段階があり、今どの状況にいるのかを分析して、次のステージに成長させたり、結果を出せないチームに対してチームの成熟度合を把握して適切な働きかけをしたり対応することが重要になるのです。
そんなチームの成長ステージの中で、脳科学の考え方はどこの過程でも活用可能だが、特に役立つのは特にチームの「統一(Norming)」、「機能(Performing)」の段階についてだとAndreatta氏は言います。
「チーム」とは
Andreatta氏はチームの働き方を複雑性別に分類しました。
Coordinationがチームの複雑性は低く、Collaborationが高いという軸での考えです。
- 「Coordination」(調整)・・・いちばんシンプルなチームの働き方。それぞれのおこなっていることを調整する。
- 「Cooperation」(協力)・・・2名以上の人が何かを成し遂げるまでそれぞれが分担された仕事を、決まった進め方で遂行すること。進め方がスムースであり効率よく働ける。「協力」に重要なこと:計画、計画の摺合せ、定期的なコミュニケーション、遂行までの明確なプロセス
- 「Collaboration」(協働)・・・2名以上の人が同じ目標達成に向けてそれぞれの多様な貢献を尊重しながら遂行すること。一人ひとりの考えを他のチームメンバーと共有し、変えて創造しながら働く。 「協働」に重要なこと:信頼、尊重、責任感、創造力、マインドフルに問題を解決していく力
この3つの言葉、日本語でもそれぞれ大きな差がないようにみえるかもしれません。使い分けも難しいところです。アメリカや他の国の参加者の中でも、「3つを同じ意味を持たせて使い分けていなかった」という意見が多かったです。しかし、自身のチームの実態を知る上の診断方法、そして目標とするチームのイメージ設定をする際にも役立つものだと感じました。
特に、②③については類似語として使っているという人が多くいました。また、組織の中の役職・役割によっては、それぞれのチームあり方の理想な働き方がある場合も。そのため、何がチームの働き方、あり方としてベストなのか、現状と理想を毎回探求することが人事やマネジメントとして重要なポイントになるでしょう。
「協力(Cooperation)」と「協働(Collaboration)」の違い
チームが果たして「Cooperation(協力)」しているチームなのか、「Collaboration(協働)」しているチームなのか判断するのが難しいかもしれません。Andreatta氏はこの2つの働き方の違いは「相互の依存性(Interdependency)」と「不確実さへの対応の必要性(Uncertainty)」の程度にあると言います。「協力」体制下にあるチームは、明確な役割の分担による相互への依存性が高く、「協働」体制下のチームは、創造力により都度プロセスを変えていくことが必要になるため不確実性への対応が高くなります。
例)協力しているチーム:工場の製造チーム、オーケストラなど、各パートの役割と進め方が明確に決まっている場合
例)協働しているチーム:手術室での医療チーム、消防士のチーム、研究チームなど、先に何が起こるか不確実さに対応していく場合
究極のチームのあり方:チームが協働(Collaboration)するためには
1)帰属意識とインクルージョン(Belonging and Inclusion)
2)安心感と信頼感 (Safety and Trust)
3)明確な目的を持つこと (Sense of purpose)
とさまざまな脳のメカニズムや臨床科学の裏付けを交えながら説明しました。
Andreatta氏の「協働」のためのポイント
- 協働するチームのリーダー要素の一つとして、協働力を測るCollaborative Intelligence(CQ)の存在がある。
CQが高い人ほど、相手を尊重し、誰かと何かを考え、情報を組み合わせて価値を見出し、アイデアから新たなイノベーションを創造できる力を持つのです。パフォーマーとファシリテーターの役割を担うことができる。 - 帰属意識、安心感を持たせることで、ありのままの自分でいられる。
ありのままの自分でいられることはそれぞれの充実感につながり、協働のため必要な相手を尊重し合える環境が生まれる。 - 「競争心」は内側前頭前皮質(mPFC)と言う脳の部分の仕組みによるもの。
自己知識や他者知識を認識機能がある。「対立意識」「仲間意識」もここから。
「仲間」意識では脳の「共感、寛容性、利他主義」が活性化。
「対立」意識に対しては「対立意識、決めつける、軽蔑」が活性化。
企業環境では気を付けなければいけないところで、特に社内で過剰にどちらかが協調されると、脳科学的にもどちらかの意識の増加に影響し、ビジネスの成果につながらない。 - 心の傷というのは、本当に「痛み」を伴うものである。
「いじめ」を受けると、身体的でなくても脳は外傷的「痛み」と同じ発信する。 - 脳内物質「オキトシン」は共感する時に分泌される。
ATD2日目の基調講演者McGonical氏も取り上げていて、タレント・マネジメント分野でも注目されているホルモンのひとつ。自己肯定感を促すため脳を癒す効果を持ち通称「幸せホルモン」とも言う。
また、このセッションは15分間毎に、周りとこれまでの部分を振り返って意見交換をする時間が設けられていました。
他のセッションの多くも、細めに振り返り/意見交換の時間があるのは、一定の時間で「振り返り」を行うことは脳科学的にも学習効果を上げると証明されているからなのです。
脳科学はこれまで学習効果部分で多く取り上げられてきました。しかし、このようにチームビルディングやタレント・マネジメント、人材開発の考え方の大きな目標との繋がりの強さを感じます。また、エビデンスベースな社会だからこそ、今後のこういった臨床リサーチを取り入れていくことの必要性を感じるセッションでした。
Andreatta氏推薦 「チーム」に関する書籍の紹介
- “The Collaboration Instinct”by Jalenko Dragisic
- “The Five Dysfunction of Team” by Patrick Lencioni
- “Collaborative Intelligence” by Dawana Markova and Angie McArthur
- “Daring Greatly” by Brene Brown
- “Purpose Economy” by Aaaron Hurst
Andreatta氏の講演はLinkedIn主催Webinarなどでも開催中です。
【ATD 2017 展示ブース】 ご来場ありがとうございました。
本日午後、展示ブース会場も終了いたしました。
3日間、大変多くの方々にお越しいただきました。日本から、また世界各国からの参加者にお立ち寄りいただきお話しできましたこと、弊社一同光栄に思います。ありがとうございました。
なお、日本国内でも6月「Human Capital 2017」にブース出展です。
弊社COO Thomas Rothをアメリカから招いて講演予定です。
【日経働きかたNext Human Capital 2017】 WLW 展示ブース・講演のご案内
- 主催:日本経済新聞社 日経BP社
- 日時:2017年6月28日(水)~30日(金)10時~17時
- 開場:東京国際フォーラム(東京・有楽町)
- ※ブース:HRテック・タレントマネジメントエリア
- 講演:弊社COO Thomas H. Rothによる従業員のエンゲージメントを引き出すリーダーを支える人材開発の役割について講演も予定しております。
- 講演について:(https://event.nikkeibp.co.jp/reg/contents/hcli_2017/index.html#G30-C)
詳しくは、イベントホームページ(http://expo.nikkeibp.co.jp/hc/2017/)をご覧ください。
【基調講演】Ronan Tynan氏による「人生を最大限謳歌して生きるために必要なこと」
(”Hitting the High Notes, Living Life to the Fullest”)
先天性に足の障害を持つパラリンピック選手になった後に、The Irish Tenorsの歌手、そして医師になったTynan氏から人生の最大の目標、「充実感」と「幸福感」についてのスピーチがありました。講演のオープニングでは、力強い歌声で会場を湧かせました。
Tynan氏はこれまでの自身の人生で成し遂げてきたことは自身の「勝つことへの意志(Will to win)」そして「勝つために努力することの意志(Will to PREPARE to win)」の象徴だと話しました。またこれには強い信条と周りの激励があったからこそだと。
「人生は振り返ることで教訓を学べるが、前にしか進まない」
(Life can only be learned looking back but can live only moving forward)
充実感、幸福感に必要なこと、それは「ありのままの自分を受け入れること」だとTynan氏は語りました。「自己肯定感を持つこと」そして先ほどの脳科学のセッションの「自己肯定感を持ってもらいやすい環境づくり」の双方に対して、人材開発は大きな役割を持っているのではないかと思います。またその働きかけが、5/23の基調講演でMeaux氏の話した「いかなる変革へも立ち向かえるリーダーや組織」を育てるのかもしれません。
「成功はチームの努力だ。人生の道のりを支えてくれた人への感謝の気持ちを表すこと」
Success is a team effort. Remember the people on the way and show gratitude
最後はLeonardo Cohenの”Hallejuhah”で参加者をそれぞれの道へと送り出してくれました。
【最後に】ATD 2017を終えて
以上で、2017年のATD速報は終了いたします。
ATD国際会議は人材開発・組織開発に関する学生や若手からシニアまで、企業や政府・公共団体、大学やファシリテーター個人が参加し、お互いの成長や気づきのために惜しみなく支援してくれる人たちと過ごせた4日間でした。お互いの成長のためなら所属など関係なく助け合える、意見交換し合える場というのは、学びも多く大変貴重なものだと感じました。言語も文化も違いますが、「人」の可能性や「人」に対して同じ想いを抱く仲間と互いに刺激し合える数日間が1年のモチベーションとなっている。だからこそ、団体としても成長し続け、年々世界からの参加者も増えているのかもしれません。
最後に、Global Villageでは北米以外の参加国78か国(計1829名)の参加者数上位国が掲示されており、日本は韓国(265名)に次いで2番目に参加者数が多かった国(178名)でした。今後も世界から、そして日本からの参加も増えてくることが期待される国際会議です。
次回ATD国際会議は2018年5月6日~9日、米サンディエゴにて開催予定です。
記録: WLW 浅井
◆ ATDホームページ:https://www.td.org/
■ レポート
浅井 綾子
ウィルソン・ラーニング ワールドワイド株式会社
プログラム開発担当(米国駐在)
米国ミシガン州立大学コミュニケーション学部卒、同大学院修了。異文化コミュニケーション、医療・公衆衛生分野を対象としたヘルス・コミュニケーションを中心に研究。在米日本語補習授業校 初等部教師、日系医薬品開発業務受託機関(CRO)での勤務(クオリティマネジメント、メディカルライティング)を経て、2015年ウィルソン・ラーニング ワールドワイド株式会社に入社。2017年5月より同社米国支社に駐在。
2017ATDレポート
ATD最終日!5/24参加講演報告 「ATDから見えてくる最新の『脳科学』、『働き方』が人事のあり方を変える理由」
5/23参加講演報告 「組織変革にもっとも重要なこととは?」
5/22参加講演報告 「ATDから見る人材育成のトレンドは?」
5/21講演報告「L&D Best Practices: 5 Approaches to Be More Strategic」
What is ATD 2017