さまざまな人が集まる会社組織において、異なるスキルやバックグランドを持つ多様な人材を現場でまとめるのは管理職の役割です。
管理職は現場業務やメンバーに関するマネジメントを行うとされていますが、近年は働き方改革やコロナ禍などを起因とした職場の変化が起こっており、管理職に求められる役割にも変容が見られます。ともすれば不安やストレスが生じがちな現代において、管理職は「職場づくり」に関する能力も必要です。
今、管理職に求められる役割について解説します。
新たな役割が求められる管理職
企業は一般的に、エグゼクティブ・ミドルマネジャー・メンバーといった組織構造をとっていることが多く、エグゼクティブやミドルマネジャーが管理職にあたります。ここではミドルマネジャーを前提に紹介をしていきます。
ビジネス環境の変化に伴い、管理職の役割も変わってきています。
従来のマネジメントでは、オフィスでメンバーの仕事ぶりを管理・監督する役割が大半を占めていました。また、上層部との間に立ち、情報を伝達することも管理職の主な役割でした。
しかし、昨今、働き方改革やテレワークの推進などによってメンバーの勤務時間や勤務場所の分散が生じていることから、求められる役割に変化が見られるようになっています。
勤務時間や場所が分散し、いわゆる「週5日」「9時5時」「全員一斉にオフィスへ出社」ではなくなった状況下では、従来の均一的・固定的な管理型マネジメントはそぐわず、かつ、効果が見込めなくなってきました。また、メンバーの管理・監督や情報伝達の役割は、社内ポータル、チャットといったコミュニケーションインフラ、勤怠管理システムなどの新しいツールが担ってくれるようになりました。
管理・監督的な役割をデジタルツールに任せることができるようになったことで、「人材育成」や「職場環境づくり」といった、本来のマネジメント業務にリソースを集中させることができるようになりました。それらの役割をより高いレベルで果たすことが、今管理職に求められていると言えるでしょう。
近年における職場の変化
時代の変化に加え、働き方改革やコロナ禍の影響などによって、働き方に関する意識や働き方そのものの変化が起こっています。それらは管理職の役割にどのような影響を与えているのでしょうか?
働き方に関する意識の変化
経済産業省がまとめた「変革の時代における人材競争力強化のための9つの提言」によると、若い世代ほど仕事に対して柔軟な考えを持っていることがわかります。
ここに掲載されている、一般社団法人企業活力研究所(2018)「経営革新と『稼ぐ力』の向上に向けた仕事とキャリア管理に関する調査研究」を出所としたグラフを見ると、若い世代ほど「一つの会社の仕事だけでなく兼業・副業したい」「仕事で昇進・昇格するよりもワークライフバランスを重視したい」「今の会社で定年まで勤め上げたいと思わない」といった意向が強い傾向にあります。
一方、「配置転換命令を受けても今勤めている部署で働き続けたい」「勤務地を限定して働きたい」「会社が求める職務と自身が従事したい職務が違う場合は転職も厭わない」「さまざまな職務を経験するよりも職務を限定してその専門性を高めたい」という自分の望む働き方にこだわる意向も強く、企業主導の一方的な人材管理では、従業員の不満につながる恐れがあることを感じさせます。
仕事へのモチベーションは人それぞれ異なります。同調性を要求しない組織を目指すならば、日々のちょっとした声掛けから戦略的なモチベーション・マネジメントまで、メンバー一人ひとりの特性を十分に考慮したきめ細かい対応が求められます。
コロナ禍をきっかけとしたテレワークの浸透
働き方改革の影響によりテレワークは増加傾向にありましたが、コロナ禍をきっかけに、導入の流れがさらに加速しました。テレワークという働き方に慣れる人が増えた一方、ストレスを募らせる人も見られます。
たとえば、業務に慣れた中堅以上の社員であれば、問題なく伝わる情報量や指示内容であっても、経験の浅い若手社員には情報が不十分で、不安を感じているといったことがあります。テレワークでは内面の不安までをくみ取りにくく、結果的にサポート不足が生じてしまっているケースです。
デジタルに慣れ親しんだ世代であり、ツールを難なく使いこなしているため、かえって見落としがちですが、業務経験の浅い若手社員が取り残されて孤独を感じるようなことのないよう、十分に留意しなければいけません。
若手社員だけでなく、自社業務に馴染んでいない中途入社の社員、勤務時間が短い社員なども同様の不安を抱える懸念があります。
漠然とした不安も抵抗なく口にできるような、メンバーとのオープンな関係性の構築が必要です。
過剰業務とならないよう管理職自らの業務量の管理も重要
人材育成や職場環境づくりなど、管理職の仕事はどれも重要です。部下一人ひとりに対するこまやかなフォローや業務調整も行わねばならず、管理職の業務量は多くなりがちです。
自身の業務量をコントロールし、管理職としての能力を上げていくためには、企業からのサポートが欠かせません。
- メンバーの人材育成能力
人材育成は管理職の大きな役割であり、その能力を高めることは必須です。自発的に動ける人材となるようメンバーをしっかりと育成し、後進に仕事を任せることができれば、自身の業務をスリム化することにもつながります。 - 協働のリーダーシップ力
協働によってメンバー同士でサポートしていくことや、チーム全体のパフォーマンスを上げていくことができれば、管理職の負担は軽減されます。
管理職としての能力向上のためには、研修の実施など、企業が学びの場を提供することが大切です。
管理職に求められる「職場環境づくり」の役割
さまざまな人材が多様な働き方をするなか、管理職は職場環境づくりにおける責任も担います。職場環境づくりとは、次のような環境を整えることです。
- 協働によって個々の人材の強みを生かした働き方を推奨する
- 自発的に仕事に取り組む職場風土を育む
協働や自発性のある職場環境づくりのためには、目標を示すことやメンバーの不安を取り除くこと、メンバーの成果や努力を認めることが大切になります。
- 企業目標を共有し、企業がどこに向かっているのかを示す
- メンバーが課題を感じている、挑戦・成長を望んでいるといった場合には支援することを理解してもらう
- 企業の目標達成にメンバーが貢献していることを伝える
- メンバーの仕事ぶりを公正に評価する
- メンバーの努力を認める
管理職が職場環境を整えていくことで、自発的に仕事に取り組む職場風土が育まれていき、最終的には組織パフォーマンスの向上につながるでしょう。
今あらためて管理職に期待されること
管理職にはさまざまな役割がありますが、働き方や仕事に関する意識が変化するなか、個々の特性を意識した人材育成や社員が生き生きと働く職場環境づくりの重要性が高まっています。
職場環境づくりについては、コミュニケーションや協働を基調としたリーダーシップが必要です。管理職がその役割を果たすことで、企業全体のパフォーマンス向上を目指していきましょう。