リモートワークの「それから」③

2021年11月16日

最終回 変わるもの、変わらないもの

本シリーズでは、1年あまりの私たちのリモートワークの体験を振り返り、とくに将来の参考とするため、アメリカをはじめとした「リモート先進国」で強調されやすくなっているポイントをいくつかご紹介してきました。
本シリーズ最終回となる今回は、前回までに扱えなかったポイントを概観していくことにしましょう。
引き続き、四季さんという営業リーダーの元で働く4人の若手社員のディスカッションという形で話を進めていきます。

動画プレゼンが鍵になったアメリカでは、お客さまとの関係確立がさらに重要に

春永: アメリカでは、お客さまとのコミュニケーションも随分変化しつつあるようですね。

四季: そうね。商品やサービスに関する説明も変化しつつあるようね。

秋本: どんな変化ですか?

四季: 今後はますます、動画でのプレゼンテーション[1]の比重が増していくだろう、と言われているわね。

春永: すると、僕たち営業の役割は変化するのでしょうか?

四季: 面白いことに、商品やサービスの詳細説明の比重が軽くなった分、お客さまとのしっかりした関係の確立が、より重要視されているみたい。

秋本: 関係性の重要さは、今までも同じでしたよね。

四季: 確かにそうなのだけれど、一層その大切さが注目されているということのようね。実際、いくら良い動画をアップしていても、それをお客さまが見てくれるかどうかは別問題でしょう?

秋本: ええ、きちんと見るとなれば繰り返し再生したりして、結構時間もかかりますからね。

四季: そうなると、『彼/彼女がそこまで勧めるのだから、しっかり見ておこう』と思ってもらえるような関係の確立こそが重要になると思わない?

春永: もう少し具体的にお願いします。

四季: たとえばリアルなら、時間さえいただければ、その間は商品説明に集中できるでしょう? たとえ、お客さまは内心『退屈だな〜』と感じておられてもね(笑)。
でも、オンラインとなると、そう簡単にはいかないわ。時間も短縮されがちだし、身振り手振りが使いにくいから、ポイントの強調も難しい。カメラの死角で内職もできてしまうし、極端な場合、相槌を打って聞いているふりをして画像だけ切るお客さまだっているでしょう? 結果的に、長々しいプレゼンは避けざるを得ず、お客さまに詳細を知っていただくには、わざわざ他のネット上の動画やサイトのテキストにアクセスして見ていただかなければならないのよ。

夏木: 『ぜひ、のちほどご覧ください』にせざるをえないというわけですね。

四季: そう。だからこそ、『この人は、いつでも本気で自分のビジネス上の問題を解決しようとしてくれる、真摯で信頼できる有能なパートナーだ』という認識を、お客さま側に持っていただく必要があるというわけ。
みんなだって、お客さまの立場に立ってみれば、そんな真のパートナーが勧めてくれる動画だったら、多少の手間を考えても、自分が抱えている問題を解決するためにも、なんとか時間を作って、真剣に見なければ、という気になるでしょう?

冬崎: 確かにそうですね。なるほど……それが先ほどの[2]パーソナル・ブランドや共感の重要性につながるわけですか。

四季: そうなるわね。実際、『信頼できていつでも相談できる相手だ』というパーソナル・ブランドと、『こちらの問題をほんとうに理解してくれる』という共感の能力があればこそ、お客さまも多少の労力を厭わず、説明動画にアクセスしてくださるわけだから。むろん、それが動画を見てもらうというステップだけではなく、その先の、『意思決定ステップ』にも影響を与えることは、当然理解できるでしょう?

秋本: それに、そもそも商品やサービスをよく知っていただかないと、お客さまに意思決定を勧めるどころじゃないですものね。

アメリカのリモート営業では、チャットボットも営業チームの一員となりつつある

春永: でも、動画だけで商品を説明できるんですか?

四季: もちろん、営業担当者が、質疑応答の形で補う必要もあるでしょうけれど、最近アメリカで注目されているのはチャットボットの活用みたいね。

夏木: チャットボットって、なかなかイメージできないのですが、SNSで自動書き込みしているのも、ボットと呼ばれていますよね。

四季: それとは違うわ。チャットボットは人工無脳と訳されることもあるけれど、最近は、かなり賢くなっていてね。 商品説明のサイトの場合で説明してみると、こうなるわ:まずアクセスすると書き込み用のボックスが出てくるものが多いわね。最近は音声入力が可能なシステムも、かなりあるかな。で、閲覧者が、動画を見ていて生まれた『商品/サービスについての疑問』をこれにインプットすると、即座に的確な回答を返してくれるの……つまりお客さまの入力を音声/言語解析して意味を把握し、用意されている回答の中から、いちばんふさわしい回答を選びだしてフィードバックするのよ。すべて自動でね。もちろん意味不明の入力や、事前に用意した回答がないものについては別途、ということになるんだけどね。

秋本: 僕も酔っ払うと無脳になると言われるんですけど、伺ったかぎりでは無脳どころか、人工知能の技術を応用しているみたいですね。

四季: ええ、チャットボットの言語解析にディープラーニングを使う技術もこれからは当たり前になりそうだし、そうなると理解力だけじゃなく、回答のバリエーションも広がるでしょうね。

春永: そういえば僕は最近、うちと似たようなアメリカのIT系のベンチャー企業のサイトをチェックしているんですが、よく右下の方にログボックスのようなものが浮いていて、いつでもご相談くださいって書いてあるのを見ます。試しにクリックすると書き込み欄がポップアップします。

四季: それそれ。質問を書き込むと、これをご覧くださいっていうことで、いくつか動画やページを推薦してくれるはず。FAQに飛ぶことも多いわね……余談だけど、ときどきアバターや綺麗なお姉さんの写真がついているでしょう? それがボットのキャラを表しているわけ。ただし、会社の営業時間内にアクセスすると、直接、窓口の『生きた人間』につながっちゃうこともあるけれどね。

冬崎: そんな仕組みなんですか。するとアメリカでは、こういったものが法人顧客に対しても重要になるということですか?

四季: そうらしいわね。法人顧客向けには、それなりのビジネス知識や技術知識も盛り込んだ、その道のプロ向けの動画づくりも必要でしょうけど、今はそれが比較的簡単にできる時代だから……。
お客さまの立場に立って考えてみても、動画を閲覧して不明な点があるからといって、いちいち電話やメールで営業担当者に質問するわけにもいかないし、こういうチャットボットのような存在がないと不便なのでしょうね。
大げさに言うなら、チャットボットが営業のサポートをしてくれる存在、つまり営業チームの一員になりつつある、と言ってもいいんじゃないかな。

夏木: 人間が売り込みのために長々と商品説明するなんて、これからのアメリカの企業では過去のものになっていくのかもしれませんね……日本でも、そうなるでしょうか?

四季: 法人向けにはそこまでやっていない企業が大半だと思うけれど、徐々にそんな業界も出てくるでしょうね。実際、一部の業界では商品説明の方法やメディアが変化し始めていると聞くし……。いずれにしろ、そうなれば営業も、一方的な売り込みより、信頼関係の確立と維持がさらに求められるようになるはずだわ。だからみんなも、将来に備えるという意味でも、お客さまとのしっかりした関係の確立に向けて、必要なスキルの習得と向上に引き続き努力をしてね。

冬崎: コミュニケーションがデジタルになればなるほど、逆に私たち営業は、ネットを介してではあるけれど、人間や組織同士の関係を重視しなければならなくなる……逆説的ですが、面白いですね。

リモートの営業活動でも、当分のあいだ「基本」は変わらない

春永: 他に目立ったアメリカのトレンドって、なにかありますか?

四季: そうね、営業にも目標管理にOKR[3]が導入されるようになってきたこと、クイックな顧客サーベイの活用、情報共有システム − 例えばダッシュボード的なものね – がますます大事になったことなど、いろいろあるみたいだけれど、どれも私たち営業担当者がどんなにスキルを磨いても、個人で扱える問題じゃないから、また別途ということにしましょう。

冬崎: ここまでリーダーのお話を伺ってきたら、リモートになっても、結局は基本が大事なんだな、と強く感じます。

夏木: そうよね。共感(empathy)にしても、それを得るためのアクティブ・リスニングや傾聴の技法などは、リアルな時にも重要なスキルだったもの。

四季: その通りね。ただしリモートの場合は、わざとらしくならない程度に、意識的に実行しなければならない、ということでしょうね。いくら表情で共感を示しても、オンラインでは通じにくい場合がいくらでもあるから。

春永: どうしたら、できるようになりますか?

四季: やっぱり、カウンセリングの手法に基づいたさまざまな技術を、きちんと学んだ方がいいと、私は思うわ。

全員: わかりました。

この後、四季さんのチームは、今期の残りの期間に向けて、戦略の議論を始めました。最近は、リアルな商談とオンライン商談が入り混じっての営業活動で、全員が手探りの状態ですが、コロナ禍もやや落ち着いてきて、明るい希望の光も見えてきているようです。

今回のシリーズは、非常に駆け足になってしまいましたが、リモート・セールスが定着したアメリカの動向を、速報という形でお知らせするため、四季さんのチームに再度ご登場を願いました。そう遠くない将来、日本にも同様の波が押し寄せるかもしれないからです。
また新潮流が現れたら四季さんたちのチームを訪問させていただくことにして、今回はここでお別れとしましょう。

四季さんが言っていた
カウンセリングの手法に基づいたさまざまな技術
このスキルはウィルソン・ラーニングのプログラムで学ぶことができます。
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