【本連載の概要】
- 前編(本記事)
2025年を通して見えてきた「これからのAIと協働する人間に求められる能力」を、最新のAIに「記事づくり」を任せる実験を通して検証します。 - 後編(2026年1月公開予定)
前編の内容を踏まえて「これからのビジネスパーソンに求められる3つの力」と「育成・研修の方向性」について人材開発の視点から提案します。
西面 冬樹
株式会社シナスタジア代表
コンテンツとデジタルの知見から事業開発をハンズオンでサポート
生成AIを活用した組織開発、新規事業開発を研究中。
- 本稿は、ウィルソン・ラーニング ワールドワイド株式会社の外部協力先であるシナスタジア社の寄稿記事です。
ここで述べられる内容は、当社の公式見解や今後当社が提供する研修プログラムを直接示唆するものではありません。
2025年、生成AIとビジネスの現場に何が起きたか
2025年は生成AIが急速に「日常使いの道具」として普及した一年でした。
- チャット型AIを日常業務で使いこなすビジネスパーソンが増えている
- ブラウザや業務用ソフトウェアにもAI機能が組み込まれ始めた
- ビジネスドキュメントの生成において、調査・要約・構成・執筆・デザイン・実装までを自動で行うサービスが実用段階に入ってきた
今年の特徴は、IT業界を中心としたAIエージェント(自律的に業務をこなすAIツール)の普及により「AIを前提にした仕事の設計」が急速に進んだ点にありますが、非IT企業の人材開発や研修の現場からも、こんな声をあたりまえに耳にするようになりました。
- 「AIで教材のたたき台を作るのがあたりまえになってきた」
- 「研修受講後のアンケートの整理をAIで行っている」
- 「ワークで使う具体的な事例シナリオをAIで案出ししている」
一方でこんな本音も混じり始めています。
- 「AI研修をどう設計すればいいのか、まだ手探りだ」
- 「AIの使い方を教えるだけの研修が技術の進歩ですぐに陳腐化してしまう」
- 「AIが今後、どこまで社員の仕事を代替していくのかが見えない」
つまり、AIを「道具として使う」ところまでは、多くの現場が到達しつつあるが、「AIの普及を前提として、どんな人材像や育成方針を描き直すか」までは、まだ踏み込めていないのが2025年のビジネス現場のリアルな風景でした。
この連載では
「AIとの協働があたりまえになる世界で、ビジネスパーソンに求められる能力は何か」
「企業はどんな人材を育むべきか」
といった問いを扱っていきます。
【生成AIの最新能力の検証】最小限の指示で『2025年・生成AI×人材開発 5大ニュース』をどこまで生成できるか?
まず、本稿執筆の2025年12月時点における、最新の生成AIの能力を確かめてみましょう。
この実験でAIに投げるプロンプトは、下記のようなとてもシンプルなものです。
本日2025年12月8日時点での最新の『人材開発担当者が知っておきたい 2025年「生成AI5大ニュース」』を調べて、その内容を取捨選択して、わかりやすく正確な日本語で説明してください
「何をニュースとして取り上げるか」「どう構成するか」「どう見せるか」は暗黙のうちにAIに任せているのがポイントです。
1) 1分でニュースを図解(Nano Banana PRO)
結果:自力で「5大ニュース」を調べ、日本語で1枚の図に整理して出力できました。
2) 15分でニュースをメディア化(ChatGPT 5.1+NoteBookLM)
結果:GPTのDeep Research機能による調査レポートPDFをもとに、自動で音声・動画・スライドといった各メディアを生成しています。
3) 20分でニュースをWebページ化(Antigravity)
結果:ニュースを調べて記事を生成し、Next.jsを使ってWebページをデザイン/コーディングするまで、すべて自走できました。
これらのリンク先の出力内容は、一見このまま業務に使えそうなレベルにも見えますが、細かく確認すると、まだAIらしい取り違えや精度の甘さが多々見受けられます。
ただ、本稿で扱いたいのは「AIの出力を鵜呑みにするな」とか「ハルシネーションをどう減らすか」「プロンプトをどう工夫するか」といった、すぐ風化してしまうようなテクニカルなTIPSでも、「このままAIが発展したら、何が人間の仕事として残るのか」といった脅威論でもありません。
重要なのは「この水準で、ニュースの選定から図解・音声・Webページ化までを短時間で自動生成できてしまう」という現実を客観的に捉えたうえで、「ビジネスにおいて我々人間が手放すべきでない領域」はどこなのか、を整理し直すことだと考えます。
- これらのページは、生成AIツールの挙動を示すデモとして、初期指示をもとにほぼ自動生成したものです。内容の正確性は検証しておらず、誤りが含まれる可能性があります。
- 各ツールの所要時間は、入力から出力を一通り確認するまでの時間です(転記・掲載作業は別)。
- NoteBookLMの出力は、UIの体裁を整えて配置しています(内容の修正はしていません)。
- ChatGPTの出力からNoteBookLMへの入力(転記)は手動で行いました。
実験から見えてきた「AIに任せる仕事」と「人にしか担えない仕事」
今回の実験は、外部の情報を集めて論点を整理し、誰かに伝わるかたち(図・資料・音声・Webページなど)にまとめる、つまりビジネス現場で日常的に行われている一連の仕事を、あえて最新の生成AIに任せたら、どこまで代替できるのかを確かめるテストでした。
その結果として、次の2つがはっきり見えてきました。
(1)情報を集めて「たたき台」を作るところまでは、かなりAIに任せられる
3つの出力に共通して、AIは以下をほぼ自動でこなしていました。
- 関連する出来事や情報を拾い集める
- 重複を整理し、いくつかのトピックに束ねる
- 各トピックの要点を短く説明する
- 形式の違うアウトプットに変換する(図解・スライド・台本・Webページ等)
もちろん、細部を見れば誤りや取り違えは残ります。
ただ、それでも仕事でAIを利用する際の「スタート地点」が明らかに変わったと言えます。
「何もないところからゼロベースで調べ始める」「白紙から構成を考え、1行目から書き始める」といった従来のやり方に比べて、まず最初から「それらしい形」が出てくる。
すると人間側は、初手から「どこがズレているか」「何が足りないか」「どこを確かめるべきか」などの、検証と判断に時間を使えるようになります。
例えば人材開発の仕事に置き換えても同じです。
「他社事例や海外トレンドを集めて社内向け資料にする」
「法改正やガイドラインを整理して、研修企画の前提情報を作る」
「社員調査やエンゲージメントサーベイの結果を、まずは要約してみる」
こうした「情報を集めて整える」仕事は、すでに「AIを前提にやり方を組み替える」ことが現実的な領域に入っていると言えます。
(2)明け渡すべきではない「問い」の領域
一方で、3つのアウトプットを並べると、「ここから先はAIに任せきりにしてはいけない」という領域が、はっきり見えてきます。本稿ではそれを端的に「問い」の領域と呼びます。
ここでいう「問い」とは、単に「良い質問」を思いつくことではありません。
どの問題を自分たちの問題として引き受けるのかを選び、その解決のために「いま何から問うか」を言語化することまでを含みます。
- 自社、自部署、そして自分にとって、何を「本気で解くべき問題」とみなすのか
- その問題は、誰の・どのような対話のなかから立ち上がってきているのか
- どんな価値観・制約・利害を前提に、どこまでを許容し、どこに線を引くのか
- そのうえで「今、どの問いから始めるか」をどう言語化するのか
情報を集めて整えるところまでは、かなりAIに委ねられますが、「問題を引き受け、どこから問うかを決める」営みは、人の領域として守られるべきです。
この「問いの領域」を担える人材をどう増やすかが、今後の人材開発の重要なテーマになります。
これからの人材に求められる3つの力
AI協働時代に求められる「問い」の力は、次の3つに整理できると考えています。
| 1.「問いを選ぶ力」(問題を引き受ける意志決定) |
| 2.「問いを設計する力」(前提・制約・評価軸を揃える) |
| 3.「問いを更新する力」(評価して問い直す) |
後編では、これら3つの力をAIとの協働における実際の行動レベルにまで分解し、
- 全ての社員に求める「ベースライン」
- コア人材に期待するレベル
- AI推進役に任せる役割
といった各層ごとに、人材開発の言葉に落とし込んだ具体的なフレームとして整理していきます。
西面 冬樹
株式会社シナスタジア代表
コンテンツとデジタルの知見から事業開発をハンズオンでサポート
生成AIを活用した組織開発、新規事業開発を研究中。