【みんなの創造的な組織文化】研究成果発表イベント(3/15開催)実施レポート

2022年3月30日

「創造的」ってどういうこと?

組織が持続的に成長をしていくために、イノベーションや価値創造の取り組みが今まで以上に求められています。一方で、多くの組織がそうした取り組みへのハードルが高く、広げていきづらいという課題を抱えているようです。

ウィルソン・ラーニングは、所属する一人ひとりが価値創造に取り組む意識を持った組織文化を「創造的組織文化」と定義し、そのメカニズムを解明する共同研究プロジェクトを、2021年7月、武蔵野美術大学ソーシャルクリエイティブ研究所と共に立ち上げました。

本イベントでは、これまでの研究成果をご報告するとともに、研究にご協力いただいた株式会社サイバーエージェント常務執行役員 CHO曽山哲人さん、クックパッド株式会社/特定非営利活動法人manma理事 新居日南恵さんをお招きして、一人ひとりが自分ゴトとして創造的な組織文化をつくっていくために何が大切になるのかを、ディスカッションしました。

当日の参加者は約70名(申し込み時点では100名超)と、「創造的な組織の在り方」への関心の高さがうかがえました。

私自身は、「創造的」ということばの曖昧さ、多義性に釈然とせず、また、自分自身が胸を張って「創造的です」とは言えない引け目を感じていて、「創造的」ということばには苦手意識を持っています。本稿では、そんな私があえて研究に参画させていただいた視点で、当日のイベントをレポートします。

なぜ今、創造的な活動が求められているのか?

ウィルソン・ラーニングでは組織の成長を、3つのフェーズから成る「成長曲線」というモデルで紹介しています。

まずフェーズ1は「形成期」と呼ばれる立ち上げの時期。試行錯誤を繰り返し、成功パターンを見つけていきます。
そこから軌道に乗るとフェーズ2の「定常期」と呼ばれる安定成長に入り、効率化、標準化、システム化によって成果を拡大していきます。
しかし、世の中が変化し、テクノロジーが進化することによって、成長に陰りがみえてきます。そこで次なる成長に向けて、従来の成長と新しい成長を統合することが求められるのが「統合期」と呼ばれるフェーズ3。
大きな変化に直面する今、多くの企業、日本だけではなく世界中がフェーズ3の先行き不透明な時代に直面しているのかもしれません。

本研究のユニークな手法とは?

これまでにはないビジネスモデルやサービスを立ち上げ、新たな成長に移行している組織もあります。そうした組織に共通する特徴を見出すことで、創造的な組織づくりのヒントが得られるのではないか。そんな思いから始まった本研究は、武蔵野美術大学教授 山崎和彦先生の専門分野であるデザイン思考の手法やプロセスを用いたところに特徴があります。

イベントでは、まずその研究手法について先生からご紹介いただきました。
インタビューから分析、概念モデルの生成に至るまで、これまでにないプロセスを体験しましたが、私が最も特徴的だと感じたのは「KA法」と呼ばれる価値分析の手法です。

KA法とは、インタビューで得られた情報から、その背景にある本質的な価値やニーズを抽出する手法で、確認できた出来事の裏にある「心の声」と「背景にある価値」を分析していきます。
さらに、価値を「個人的価値」と「文化的価値」に分類し、最終的に「価値マップ」として整理します。
私自身、初めて取り組む分析手法に四苦八苦しましたが、特に大変だったのは「心の声」の抽出でした。
そんなことを想像する習慣がない! しかし、その分析に取り組むことで、「建て前と本音ってあるよね」「組織開発って建て前多くない?」という気づきを得ることができました。

その経験を通じて、人材開発・組織開発分野のテーマに、デザイン思考の研究手法を取り入れた本研究のチャレンジの意義を実感し、私自身の価値観の「リフレーミング」につながりました。

創造的な活動を実践する組織に共通するものは?

次いで、本研究の成果をプロジェクトリーダーである弊社執行役員、小原大樹より報告しました。

価値分析で明らかにした行動様式や価値観を、組織とその組織の中の個人という2つの視点から整理をしていくと、いずれもその中心に「やってみる(=実験)」が位置づけられることを発見しました。
加えて、その実験は、いずれも「何を実現したいか」という思いから始まっていることもわかりました。そして、中心にある「実験」を支えるのが、組織の視点から見ると、お互いを尊重し、フラットな関係性に基づく組織内の「対話」の実践であり、個人の視点から見ると、変化や多様性を受容し、物事を面白がるような「マインドセット」でした。

私の中では、この組織と個人の価値マップを、「実験」を中心に上下立体的につなげて、組織と個人の相互作用を表現することができたらさらに大きな発見があるかもしれない……という新たな仮説(もしくは妄想)が広がっていきました。

創造的な活動を実践する組織はどうやってつくるのか?

では、創造的な活動を自組織でどのように実践すれば良いのか? その仮説を以下のような概念モデルとして見える化しました。

ポイントにしたのは、組織文化を「個人的価値」と「文化的価値」の2つの側面から見るということ。
そして、KA法分析で見出した「価値」だけでなく、「心の声」にも着目し、①変化へのブレーキになる「本音(あるある)」、変化に対するアクセルになる「理想像(ありたい)」と②個人、組織の価値観や行動の2つの側面からマトリックス化したことです。

組織づくりを実践に移す時、トップが理想像を語るだけではなかなか変わらない、という現実に直面することはよくあります。

それはなぜなのか。個人の本音やネガティブな心の声も、組織が変わっていくために再認識する必要があるのではないか。そんな議論を経て生まれたのが、「人と組織のダブルリフレーミングモデル」です。

今後、この概念モデルをベースに、実践に向けたワークショップを開発していく予定です。

ここまでの研究の成果を、イベントのゲスト、曽山哲人さん、新居日南恵さんに報告しディスカッションした中で、もう一つ、新たな気付きを得ました。

「創造的」「クリエイティブ」ということば自体のハードルの高さが、創造的な取り組みを遠ざけているのではないか、ということ。
そんな問題意識から生まれたことばが「大きな妄想、小さな実験」です。本研究でインタビューさせていただいた方々は、いずれも実現したい未来があり、「やってみる」という実験的な行動を起こしていました。これこそが創造的な組織文化の価値観であり行動様式を表現しているのではないか。
みんなが口にする「妄想」と、小さな「実験」の総量を上げていくことで、創造的な活動を自然に実践できる組織になるのではないか。それが、これまでの研究で見えてきたことです。

創造的な活動を実践している組織では何が行われているのか?

イベントの最後のパートは、所属されている組織も、ご自身も創造的な活動を実践されているお二人、曽山哲人さん、新居日南恵さんをお迎えしてのクロストークでした。

共同研究メンバーの一人、株式会社クリエイティブ・ジャーニー代表の酒井章さんがモデーレーターとなって、研究の成果に対する感想や自組織でのリアルな実践例についてお伺いしました。

「ダブルリフレーミングモデルはおもしろい!」

冒頭、曽山さんから飛び出したこのコメントに、とても勇気づけられました。

価値マップを用いて価値観のつながりを明らかにし、自組織でできていること、できていないことを見える化して振り返ることで、組織として自信を得ることができ、創造的な取り組みのスイッチが入るのではないか。そんなアイデアもいただきました。

新居さんは本研究への参画を通じて、自組織の根本にある、当たり前だと思っているカルチャーが創造的組織文化に結び付いているということに改めて気づかされた、と話されました。
新居さんの所属するクックパッドでは、今期の目標を決める時に、明らかに達成できる目標を設定するとがっかりされます。あえて「かなわない目標」を立てることが、まさに「大きな妄想」にもつながります。
組織の中に自然とチャレンジが生まれる仕組みがあり、それが文化として定着していることが創造的な活動を実践している組織にあるのだと、私は感じました。

曽山さんが所属されるサイバーエージェントも、変化の習慣があり、イノベーションが普通に起こる組織づくりをされています。毎年5~10社のペースで新しい会社を立ち上げるなど、社内は常に変化の連続です。

そして、クックパッドとサイバーエージェントに共通しているのは、「ビジョンを実現する」という軸が明確にあること。

クックパッドでは、ミッションに寄与する限り実験や失敗は応援され受け入れられるという当たり前があります。「創造的な組織文化は、ビジョンやミッションがないと実現しないし、失敗や挑戦がないと成り立たないのだと思います」という新居さんのコメントには、お二方の組織のリアルな特徴が凝縮されていて、納得させられました。

他にも、「横のつながりを強くする」「リーダーが率先垂範する」「敗者復活の事例を作る(失敗しても次のチャレンジがある)」「否定しないでとどまらず『いいね』と言う」など、創造的な組織文化を作るため具体的なヒントがちりばめられたトークとなりました。

イベント後の参加者のみなさまからのアンケートでは、「大きな妄想、小さな実験」という本研究から見出したこのことばに、多くの方が共感してくださったことが、研究メンバー一同の今後の励みにもなりました。

私自身は、これ(大きな妄想、小さな実験)こそが「創造的」の定義と言えるのではないか、と思うほど腹落ちしています。

本研究は、今後、この定義とそれをカタチにした「人と組織のダブルリフレーミングモデル」をもとに、さまざまなサービスモデルの開発に着手したいと考えています。
今後の予定として、まずは2022年5月17日(火)にはオンラインでの公開ワークショップを計画しております。

みんなの創造的な組織文化のためのワークショップ
(外部サイトへリンクします)

またみなさんとお会いできることを楽しみにしています。

ウィルソン・ラーニング ワールドワイド 井上