少子高齢化の影響による労働人口の減少と、急速に進むグローバル化、採用方法や雇用形態の多様化などによって、組織におけるマネジメントは新たな局面を迎えています。新卒採用から横並びで、数年ごとに集合研修を受けさせるような従来型の人材開発は、機能しにくくなっており、現在は人材を集団で管理・運用するのではなく、個々の能力を最大限に引き出す環境が求められている、といえるでしょう。
今回は、個々を深く理解するマネジメント手法として、多くの企業から注目を浴びている「1on1ミーティング」について解説します。
1on1ミーティングが注目されている理由
1on1ミーティングとは、上司と部下が1対1で行う対話のことです。週1回あるいは月1回など定期的に行われ、部下の考え方や意見を引き出すための対話である点が、これまで行われてきた評価面談と大きく異なります。
1on1ミーティングを活用する最大の目的は「部下の成長を促すこと」ですが、結果的に組織全体のパフォーマンスの向上が期待できるため、多くの企業から注目されているのです。
よく事例として挙げられているヤフーでは、1on1ミーティングを2012年に導入した当時、隣の同僚ともメールでやりとりするような、対話の少ない職場だったそうです。しかしいまや、1on1ミーティングを導入した企業の代表的な成功事例として紹介されています。
具体的には週1回、30分の対話を「部下のための時間」と明確に定義し、対話は部下が自分の考えを話すことを中心に進めます。上司は基本的に部下の言葉を引き出す役に徹し、部下が自分の考えを安心して話せる環境をつくったのです。その結果、新しいアイデアが次々と生まれ、実践される組織となりました。
業種を問わず、多くの企業で導入されている1on1ミーティングですが、具体的にはどのように運用されているのでしょうか。導入した背景は異なるものの、共通しているのは「部下を主体としていること」、「定期的に実施していること」の2点です。
1on1ミーティングは、部下が持つビジョンや考え方を引き出すことを前提で行います。しかし、部下が心を開き、素直な気持ちを口に出してくれなければミーティングは成立しません。したがって、部下が安心して自分の意見を言える環境が求められます。
- 上司が結論を先取りしない
- 部下の言葉をさえぎらない
- 部下の意見やアイデアを批判しない
といった姿勢でのぞむのはもちろんのこと、互いにリラックスして話せる雰囲気をつくることも大切です。
例えば、評価面談では上司と部下が正面に向き合って座るのが一般的ですが、部下が緊張で言葉をうまく口に出せないといったケースも考えられます。しかしテーブルの角をはさんで座る、あるいは横並びに座ることで緊張感を緩和できるでしょう。上司と部下の距離感を縮めることで共感力が高まり、信頼関係を築きやすいという効果が期待できます。
また、ミーティングは定期的に行うことも重要です。適切な頻度は、求める成果やチームの現状によってさまざまですが、少なくとも月1回、30~60分程度の時間を確保し継続して行う必要があるでしょう。実施が不定期、あるいは間隔があきすぎてしまうと、信頼関係の構築ができないからです。信頼できない上司に、部下が自分の気持ちを口にすることはありません。本腰を入れて取り組んでいる企業では、週1回、15~30分程度を確保しているケースが多いようです。
1on1ミーティングが抱える課題
部下を主体とし、短い間隔で、定期的に実施すれば大きなメリットが期待できる1on1ミーティングですが、運用上の課題があるのも事実です。
上司のスキル不足
まず挙げられるのは、「上司のスキル不足」です。
日本における1on1ミーティングは手法としての歴史が浅く、上司自身が1on1を受けた経験がない場合もあります。そうした場合、上司自身は、部下の気持ちを解放させ、考えを忌憚(きたん)なく発言できるような雰囲気づくりを、手探り状態で進めることになります。話を聞きだそうとするあまり、部下を主体とするはずが「指導」になってしまったり、雑談の延長で終わってしまうことにもなりかねません。
加えて、それまで行っていた個人面談との違いを明確に理解していない、もしくは「悩みがない=問題ない」と安易に判断してしまい、簡易的に終わらせてしまうといったことも起こりえます。
これは上司だけの問題ではなく、導入する企業の問題でもあります。導入そのものに気をとられ、実際の運用を現場任せにしてしまうと、成果どころか生産性を下げるだけの不毛な取り組みとなってしまいます。管理職研修にコーチングなどのカリキュラムが組まれるようになったのも、少なからずこうした背景が影響しているといえるでしょう。
効果検証が難しい
また、「効果検証が難しい」という課題もあります。1on1の際にあがるテーマは、売上や利益率といった具体的な数値目標よりも、個々のビジョンや考え方、モチベーションなどのメンタル面に関することなどが多くなると考えられます。つまり、どちらかといえば数字に反映されない性質の話題が中心になるため、業績に対する貢献度を判断しにくいのです。
週1回、30分の時間を確保する場合、部下が10人いれば半日以上の時間を割くことになります。プレイングマネージャーとして、業務の時間を削って時間を確保する上司も多いでしょう。そこまでするだけの価値があるのかと疑問の声があがっても、無理のないことかもしれません。もちろん、1on1ミーティングのために削った時間を残業で埋めなければならない、といった現実があるとすれば、根本的に運用方法を見直すべきです。加えて、定期的に効果検証を行うことも大事ですが、半年や1年で成果が実感できるものばかりではない、と認識しておくことも必要です。
社員層の多様化への対応
グローバル化や働き方の多様化により、実施が困難になることも考えられます。
厚生労働省のデータによれば、外国人労働者の数は146万人を超えています(2018年10月末現在)。政府が留学生や技能実習生の受け入れを推進していることもあり、この傾向は今後も続くでしょう。人材の多様化は国内だけの話ではありません。海外進出する場合は現地の人材を雇用することになります。企業内に文化や生活習慣が違う人材が増えていくなかで、どのように1on1ミーティングを実施するのか。そう考えると、言語の問題も含め、上司の再教育は欠かせない要素です。
働き方の多様化への対応
さらに今後は、フレックスタイム制の拡大やテレワークなど働き方の多様化により、直接の対話が難しくなることも想定されます。対話時間の確保だけなら、通信技術の発達によりある程度は解消できます。5Gの商用化により、今よりもフレキシブルな時間調整も可能になるでしょう。
しかし問題は、ビデオ通話でどれだけ相手の本音を引き出せるかという点です。直接会わなくとも真意は伝わるという意見がある一方で、ビデオ通話で相手を深く理解するのは限度がある、とされているのも事実です。今後働き方の多様化が推進されていくことは間違いありませんが、こうした課題に対して、どのような方法が効果的なのか、シミュレーションしておくことは、決して無駄ではないはずです。
マネジメント側のスキルアップが1on1成功のカギ
雇用形態や働き方だけでなく、考え方も多様化するなか、1on1ミーティングというマネジメント手法を取り入れる企業は、おそらく今後も増えていくでしょう。
上司のスキル不足や効果検証が難しいなどの課題もありますが、部下を主体とし、定期的に実施することで、組織全体のパフォーマンスが向上することは、すでに導入している好事例にある通り、実証済みです。
いきなり大きな成果を手にすることはできないかもしれません。しかし、続けることで必ず人材は育つでしょう。組織に一体感が生まれ、具体的な数値目標の達成にも貢献するはずです。まずは月1回、30分程度の対話から始めてみてはいかがでしょうか。
ミーティング効果を高めるために、上司の教育、とくにコーチングや聴く力を伸ばすことの重要性も意識しましょう。さまざまな教育に関する専門企業に相談することも最適解のひとつです。