営業活動を心理学の観点から紐解き、効果的な成果をもたらすヒントを、 『営業に効く心理学』シリーズ 【全17回】でお送りします。
- 第1回:営業プロセスは心理プロセス
- 第2回:営業担当者に必要な「察する力」
- 第3回:営業の場で理解しておきたい「2種類の緊張感」
- 第4回:お客さまの心を開く「共感のスキル」とは
- 第5回:営業訪問が楽しくなる3つの言葉
- 第6回:営業で落ち込んだときに読んでおきたい話
- 第7回:お客様と信頼関係を築くための4つの要素
- 第8回:有能?無能?4つの分類で見る営業担当者の成長段階
- 第9回:聴き上手「だけ」で終わらない、聴きたい話を引き出すスキルとは
- 第10回:状況によって使い分ける「質問のスキル」
- 第11回:営業が知っておきたいお客さまの「2種類のニーズ」
- 第12回:提案時に押さえておきたい、お客さまを「満足への道」に導く3つのステップ
- 第13回:クロージングが不安な営業担当者が覚えておきたいスキル
- 第14回:契約間近で「ちょっと待って!」ためらうお客さまをサポートする方法
- 第15回:契約時の「抵抗」や「文句」を乗り越えるための「5K」とは
- 第16回:営業にとって最大の資産は「お客さま満足」
- 最終回:実践的な営業研修を行うために必要な3つのポイント
営業担当者にとって、お客さまへの「共感」は重要ですが、そこからさらに一歩進んだ関係性が「信頼」です。
お客さまから信頼を得るのは簡単なことではありませんが、信頼関係を築くために必要な4つの要素についてお話しします。
営業で落ち込んだ時に読んでおきたい話では、「自分を受け入れることのできる人は、自分以外の人もありのままに受け入れられ、それがとても大切な『共感』の力になる」ということをお話ししました。
「共感」とは、相手がどう感じているかを見極める力ですが、営業活動においては、「お客さまが持っている疑問や懸念をよく理解し、それに対する回答を伝えること」と言えます。
お客さまの抱く心理的な障害には 1.不信、2.不要、3.不適、 4.不満 があるという話を覚えていますか。
この4つの「買わない理由」をよく理解し、それに共感することで、お客さまは初めてあなたに心を開くのです。
では、共感から一歩進んで、お客さまから信頼を得るためにはどうすればいいでしょうか。
「この営業担当者は私と仕事をするのにふさわしい人柄で、私と通じ合うものがあり、心から私の役に立ちたいと思っていて、その能力もある」とお客さまに認めていただくことが、信頼につながります。
「信頼の要素」は「ふさわしさ」「共通点」「意図」「能力」の4つに分類されます。
1. ふさわしさ
「ふさわしさ」は、お客さまが営業担当者に対して抱く期待値のことです。
服装、言葉遣い、態度、マナー、そして雰囲気などが期待値を満たしていれば、お客さまは安心します。
2. 共通点
「共通点」はなぜ大事なのでしょうか。
人は、自分と共通項がある人間がそばにいると心が落ち着く傾向があります。
出身が同じ県や大学だったり、共通の趣味や経験、知人がいると、仲間意識が芽生え、「対人関係の緊張」を和らげるのです。
「共通点を見つけるスキル」には次の3つのポイントがあります。
- お客さまの好きなことやよく知っていることが何かをさりげなく聞く
- そのなかで自分と共通することを見つけて、その点に本当に興味を持っていることを示す
- その点についての自分の意見、アイデア、経験を話したり、また尋ねたりする
人は誰でも自分がよく知っていることや好きなこと、大事に思っていることについて話をするのが大好きです。
それを熱心に聴いてくれる人には好意を持ちます。
けれども、この共通点にも「レベル」があります。
出身地や大学が同じ、というのは簡単に見つかる共通点ですが、それだけでは話は深まらないでしょう。
最も深いレベルの共通点というのは、個人的な価値観や意見、信条に関する共通項です。
このレベルで「ああ、私と同類だ」と感じた相手とは、単に仕事上の話だけでなく、自分の悩みや夢についてさえ率直に語り合うようになり、それがお客さまであればあなたの強い支持者になってくれるはずです。
ですから、「共通点を見つけるスキル」を使う時には、どのような点で「ああ、私と同じですね」と言うべきかをよく考えてください。
たんなる事実を「共通点」として示すのではなく、そこから生まれる感情や価値観に「私もそうです!」と同意することが、お客さまと心の距離を縮めることにつながるのです。
3. 意図
「意図」とは、お客さまに「この営業担当者は、頼りになり、誠実で、正しい目的をもっている」と感じてもらうことです。
人は、相手の意図がわからなければ、どこまで本当のことを答えていいのかと疑心暗鬼になります。
営業担当者としては、お客さまのために役に立ちたい、という意図を明確に示すために、訪問の早い段階で次のことをお客さまに伝える必要があります。
- 訪問の目的や自分の役割は何か
- これからの仕事の進め方
- この訪問によってお客さまと自分にどのような利益があるか(ウィン・ウィンの意図)
人間同士の関係には、「お互いさまの法則」とでもいうべきものが存在します。
こちらが率直になれば、お客さまも率直になります。自分を飾ろうとすると、相手も本心を見せてくれません。
ところが、自分の壁を破って相手の懐に飛び込む、単純ですが強力な「魔法の言葉」があるのです。
それは
「わからないことがあるのですが、教えていただけますか」
という言葉です。
「わからない」とお客さまに言うことは、営業担当者にとって勇気がいることかもしれません。
でもこの言葉のもたらす効果に、あなたはびっくりするでしょう。
人間は、もともと人に教えることが好きなのです。
それは「自分は優れている」という自尊心をくすぐることであり、そう感じさせてくれた人には好意を抱きます。
また、相手が「わかりません」と率直に自己開放したことで、「私だってわからないことはいっぱいあるんだよ」と自分も自己開放しやすくなります。
先にあなたが鎧を脱ぐことで、お客さまも、鎧を脱いでくれるわけです。
もしあなたがお客さまとの信頼関係をつくるのに苦労したり、失敗しそうになったら、この言葉を素直に口に出してみてください。
そうすると、不思議なことに、お客さまのほうから、あなたに手を差し伸べてくれることに気がつくでしょう。
4. 能力
「能力」を示す方法を大きく分けると、2つあります。
ひとつは「問題解決の能力を示す」ことです。問題解決の能力とは以下の通りです。
- 自分の会社の能力
- 販売する製品、サービス、ソリューションの能力
- 自分自身の能力
とくに大切なのは、3.であり、これはあなたの経験をいかに示すか、ということにほかなりません。
もうひとつは「お客さまの立場やその業界への理解を示す」ことです。
これはあなたの能力を示すとともに、お客さまのことをよく調べ、また勉強してきた、という誠実な姿勢を示すことにもなります。
お客さまの使い慣れている言葉で、お客さまの業界の状況を説明することで、あなたは「仲間」として認知され、「一緒に付き合うのに十分な人」という信頼を勝ち取ることができるでしょう。
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